第3話
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夜の静けさを引き裂く小さな動物たちの鳴き声が響いた。燃え盛る残骸を横切り、その声は静寂の中で唯一の音となった。夜空には薄暗い月がかかっていた。
しばらく、夜が明け、暗い空は徐々に退いていき、大陸の端に隠れていた夜明けが、夜空に散らばる星々と共に黒闇を追い払い、遥かな光を放っていた。
灰黒い朝霧が戦後の煙と混ざり合い、静かに野原を覆い、破壊された村へと流れ込んでいく。遠くの地平線では時折火が燃え上がり、消えゆく篝火のように、夜明けと無駄な抵抗を繰り広げていた。
皮肉なことに、これはケールドが叛乱以来、最も静かな瞬間だった。
部屋の中の人々は、遠くの野原から聞こえる最初の音に目を覚まし、あたりはすでに明るくなっていた。
灰色の空に混ざる乱れた雪が、遠くの丘に沈んでいく。冷たい気温が織り成す孤独が人々の首に絡み付き、彼らの思考を停止させ、新鮮な空気を得られない状況に陥っていた。昨夜の村を守った後、外の空気は冷たく冷え切り、暖かみを蓄えることなく徐々に侵食していた。冷たい風は家の外壁を削ぎ取るかのように吹き付けていた。
部屋の中心にいるゲイルは、少し前に将軍たちとの話し合いを終えた後、周囲の人々とは一線を画していた。彼にとって絶望的なのは、これらの人々とのコミュニケーションの不可能さだったが、彼自身の鋭い視線が原因であることを知っていたため、文句を言うことはできなかった。
病に冒されたボランダ二は湿った寝台に横たわり、その揺らぐ胸の下からはかすかな青い光が放たれていた。その光は埃まみれの豪華な衣服の中で揺れ動き、ボランダ二を死に至らしめる体を支えていたが、いくら眩しい光であっても最終的には消え去る運命にあった。
彼の指は時折身につけた毛布を引っ張り、それは寒さからではなく、敵を斬り捨てるための怒りを蓄積するためのものだった。彼の心の中では、今もなお激しい叫び声が上がっていたが、苦痛に満ちた体はもはや動くことができなかった。
彼はゆっくりと頭を回し、自分の子供のように思える将軍たちを見た。彼らはかつてのケールドの支柱であり、かつては活気に満ちていたが、今は時の流れに翻弄され枯れた枝のようになっていた。一陣の寒風ですら命を奪うかのような状況で、ボランダ二の年を経た目には、深淵のような強さが残っていた。その深い瞳は、ゲイルの疲れ切った姿を映し出し、彼はボランダ二と共に、薄暗い光の中で静かに立っていた。
ボランダ二が目覚めたことに気付いたゲイルは、やや緊張した身体を動かして彼に近づいた。
「もう明るくなったね」とゲイルが言った。
彼は冷たい指先をこすりながら、窓の外を見た。
陰鬱な空と大地はまるで油絵のようだった。時折現れる火の光が彩りを添え、荒涼とした焦げた土地が冷たい色合いを際立たせていた。油絵の匂いがするような錯覚に、ゲイルは額にしわを寄せた。彼の眉はもはや近づくことができず、刺すような視線には焦燥が混じっていた。埃をかぶった髪の毛を通り抜けていた。
彼は再びベッドのそばに戻り、ボランダ二の手を握った。
「俺がここにいる。彼らには触れさせない」と、彼はかすかに聞こえない声で繰り返した。
彼は頭を上げ、ボランダ二の徐々に平穏になる胸元に目を注いだ。
ボランダ二の体はもはや体魔法の負荷に耐えられず、血魔法と呼ばれるその光は亥素を燃やす際に発せられる輝きだった。ゲイルの手から注がれるわずかな亥素だけが、ボランダ二のかろうじて維持されている生命の火だった。
ゲイルは慎重にボランダ二を観察していた。蒼白い肌と精巧な服装が鮮明な対比をなし、ボランダ二の額には多くの血の跡があった。彼の手はゲイルにしっかりと握られていた。
ゲイルは、自分の体からの暖かい流れがボランダ二の血液に入り込み、全身に広がることを願っていた。しかし、ボランダ二の体は依然として無限に震え続けており、効果がないように見えても、ゲイルは亥素を注ぎ続けた。
心の中の大岩が揺れ動いている。短い休息の後で状況は改善されず、彼は内部の何かが徐々に崩壊していくのを感じていた。彼は静かに臥榻のそばに跪き、木屑が布地を通して膝に印をつけていた。彼の肉体を食い荒らす無数の蟻のように、数え切れないほどの刺が肉体に突き刺さっていた。
彼は慎重に亥素の流れをコントロールし、胸元の光をゆっくりと点滅させていた。
「俺らはもうすぐディオンリスに戻る。頑張ってください!」とゲイルは言った、しかしながら、嘘かどうかゲイルにも答えはできなかった。
ゲイルは温かい笑顔に切り替え、ボランダ二の前で焦りの感情を隠した。その声なき叫びは彼の顔に沈み込まなければならず、感情が鍋の中の沸騰する水のように逃げ出さないようにしなければならなかった。
静止した雰囲気の中で際立っていたのは、人々の震える呼吸の音だった。彼は再びやさしい動作でボランダ二の手を握り、その粗野な手のひらに目を向けた。
ゲイルは息を止め、その瞬間、血と悲鳴で満ちた画像が彼の前を駆け抜けた。
当時、まだ若者だった彼は、ボランダ二のそばに急いで行き、彼を支えていた。彼はその衝撃的な光景を決して忘れることはなかった。業火がボランダ二の両手から放たれ、万物を荒廃させる勢いで、遠くの誰かの胸を貫いた。その人のもだえる声が地獄の中で消え去るのがかすかに聞こえた。その時の衝撃はあまりにも鮮明で、戦慄を覚えるほどだった。それは彼が初めて血魔を恐れるべき理由を理解した瞬間だった。円状の猛火に焼かれた身体、遠く離れた彼は空気中の焦げた味を感じ取ることができた。
しかし、今や同じ役割のゲイルは、より恐ろしい存在となっていた。
(陛下もかつては血魔だったんだ。)
と彼は感嘆し、自分が将来このすべてを経験し、何処か知らない辺境で倒れるかもしれないと想像していた。
虚無がすぐに彼の思考を占める。ゲイルは深く息を吸い、立ち上がって額の辺りを指でかきむしり、後ろにいる将軍たちの方を振り返った。彼の視線を受けた人々は次々と寒気を感じた。
(状況は日に日に悪化していた。ただそこに留まっていても、力と精神は削られるだけだ。)
ゲイルはそれをよく理解していた。これまでめったに行動を起こさなかった彼も、今は自ら前に出る必要がある。
長い待ち時間の末、奇跡が訪れなければ、失われるのは命そのものだ。
「......」拳を握ったゲイルは、心の焦燥を抑えようと試みる。彼はそれを胃の奥に押し込める。なぜなら、部屋の中の士気の崩壊が、無意味なため息が皆の心を折る原因になることを教えていたからだ。
将校たちの重苦しい視線がゲイルに圧し掛かる。彼は心の中で問いかける。知る由もない光がまだ存在するのか、そして不透明な未来が彼らにどう対応するのか。人々の足取りはもうすぐ泥沼にはまり、二度と抜け出せなくなるだろう。
ゲイルは自分の体が徐々に麻痺していることに気づくが、それは寒さのせいだと思う。ほぼ一晩中起きていたためだと考える。彼は足元のブーツに一目を投げる。その上部には一片の革が欠けていた。それは、ゲイルが亥素を注入した右足で敵の頭蓋に蹴りを入れた結果、へこんだものだ。彼は今でも頭蓋が砕ける音を聞くことができるようだった。
君はよく知っている。今は昔と違う。死は速やかに私たちに襲い掛かっている。誰も逃れることはできない。君も同じだ。中には、その見えない壁に直接歩み寄り、自分の命を暗闇に委ねる者もいる。
これら数日間、ゲイルは数多くの力強い銃士を目の当たりにした。彼らの心の中では、反抗することは、死に飲み込まれる瞬間を遅らせるだけだとさえ思っている。彼は不禁自問する。日々が過ぎていく中で、自分が今行っていることは、過去の方法を単に適用しているだけだ。しかし、これらいわゆる有効な方法は、今やもはや何の優位も提供していない。
「!!」沈重な血液がゲイルの心臓を叩く。
光を失った瞬間こそ、生命を燃やす時だ。この言葉を心に刻んだ人物は、目の前に横たわるポランダニだった。ゲイルは深呼吸をし、鼻腔に腐敗の匂いを感じる。それは血の匂いとは異なる色合いだった。彼は無意識のうちに家を思い出す。村を取り囲む敵が知っているのかもしれないが、再び戻ることができるかどうかは不明だ。
同じカビの匂い、同じ病人、そして同じ弱い君。彼は心を磨く。心の中で細かな音が繋がり、影の中で細長い姿が徐々に現れる。恐怖から生まれた嵐蛇が彼の首に巻き付く。それは全ての息遣いと思考を遮断する。ゲイルは嵐蛇の鱗の下にある棘のある背骨を感じ取る。冷たい表面が自分に密着し、彼はまるで千の剣が突き刺さるような違和感を感じる。
(突破できるのか?ゲイル、これは以前の笑えるゲームではない。君も知っているはずだ。)
突如、嵐蛇が口を開き、ゲイルの背中に冷たさを感じさせる。彼はいつ以来か、この恐ろしい低い声を聞いていないことに気付く。
(これは過去とは違う......)嵐蛇が繰り返し言う。
ゲイルは息を止め、この冷たい生き物が自分に生きる道を残してくれることを望む。彼は自らの幻想によって生み出された心の怪物に飲み込まれることを望んでいない。たとえそれが恐怖の中で生まれた生き物であっても。
しかし、細長く奇妙な目を持つ嵐蛇は、引き続きしわがれた声で言う。「お前の首にナイフを突きつけている者たちは、ただの無能者だ。銃士にとっては問題にならない。彼らは指を軽く振るだけで、彼らを灰にすることができる。だが、血魔のゲイルとしてのお前は......それに過ぎない」。嵐蛇は冷たい笑いを浮かべ、ゲイルの周りを旋回し、麻痺させるような嘲笑の声を彼の頭の中で響かせる。それが発するオーラが絶え間なく彼の理性を打ち砕き、ゲイルの感情の安定を乱すのだった。定を乱すのだった。
彼は嘲笑を返そうと試みた。
(嵐蛇、お前、痩せたか?)
ゲイルは、それが単なる独り言であることを知っていた。これは彼らしくない。恐怖に対してユーモアで応じようとした試みだが、嵐蛇は再び彼の体を締め付け、平穏を保とうとする思考を乱した。
(余裕を装う力がまだ残っているようだね。)
嵐蛇は彼の首に巻き付き、目の前に姿を現した。
(君は死者のように歩いている。亥素で満たされたが、いつ爆発するかわからない皮袋だ。)
(お前の間違った選択で命を落とした仲間たちを思い出せ。お前の無謀な業火に焼かれた村を思い出せ。)
(知るがいい......お前は歩く死体だ。空虚な装飾品であり、死んだ人々はお前の装飾に過ぎない。
(あなたの過去を想像してみて……アンパリ家のかつての栄光を。しかし——あなたたちの運命も、これがすべてだった。)
ゲイルの顔は痙攣し、周りの人は何も気づかない。
(ゲイル、お前を迎える死は必ず来る。)
嵐蛇は何度も彼の名前を呼び、低い声で彼を切り裂いた。彼は自分の意志が崩壊しつつあるのを感じ、顔が引きつり、指が曲がった。
(これはただの一つだ!)
ゲイルは内心で叫び、静かな外見の下で怒りが爆発していた。これは他人には気づかれない発散である。彼は弱々しい声を出さないように堪えた。
彼も今の人々と同じく、心臓がまだ打っている限り、泥沼の窮地から脱出しようともがいている。血魔の力はこれだけではないことをみんなが知っている。そして、血魔であるゲイルは、その力の真価をよく知っている。
(そうか?では、もがき続けるがいい。ここで君を待っている。いずれまた会う時が来る......)
混乱した空気の流れがゲイルの胸に流れ込み、嵐蛇は緩んだようだった。
影の中にいる嵐蛇と彼の目が合う。それは小さく、輝きのない瞳だった。無限の闇、光のない三日月、時々突き出された長く尖った舌が微細な空気をかき乱した。
突然、嵐蛇は口を歪めて牙を露わにした。無限の深淵が現れ、ゲイルの目の前には暗闇しか残らなかった。次の瞬間、嵐蛇は彼を飲み込んだ。
なぜ彼は心配するのか、その感情はとっくに彼から去っているはずだ。以前の戦いでは、敵を灰に変えるだけで、全てがこれほど簡単だった。自分を欺くこともなく、嵐蛇が自由にうろつくのを止める必要もない。その鱗が心臓に触れる前に、それはただの幻だった。
「くそったれ。」
彼は手を開き、また握りしめた。窓辺を漂う霧は、山間の小川のように窓隅を越えて彼の足元に流れた。
彼は暗く罵った。繰り返される行動にも関わらず、いつも落ち着かない鼓動が彼を裏切った。それは興奮の鼓動だと自分に言い聞かせる。それは血に渇望し、血を欲する本能だ。それは血魔としての変貌だった。
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