「私は、好きな人、いるよ。」

 夕焼け空のオレンジ色。それが川とか窓とかに反射してキラキラしている。

私はそれを見るのが、好きだった。


「なぁ、お前らって好きな奴とかいんの?」

にやけながら彼が聞いた。

「はぁ? なにお前、いきなり」

もう一人が彼を笑って馬鹿にしてた。

いつものおふざけの延長線上だと思う。私と彼女は顔を見合わせて、笑った。

そして、私は思った。


「私は、好きな人、いるよ。」


「えぇー! まじかよ!! 誰だよ!!」

「俺らに教えろよ!!」

 彼らは想像通りの反応をした。

もちろん彼女も笑ってくれてると思って、振り返った。

そしたら彼女は、私の想像と全く違う顔をしていた。

(あ、れ……?)

気のせいかな。

彼女の近くにいって、彼らを馬鹿にしてみる。

「ふふふ、あれ、面白いねぇ?」

「う、うん。そうだね……ふふ」

(よかった。ちゃんと笑ってくれた。)

って、その時、いつもの大好きな笑顔じゃなかったことに気づけなかった。

いや、違うことに気づいていたけど、気のせいにしたかったのかもしれない。



 翌日からの彼女は、だんだんと私達と距離を置いていった。

彼らも心配していた。もちろん私も。

けれど、私達に喧嘩したような心当たりもなく。そのままいつしか私も、彼らと一緒にいることも少なくなっていた。


今思えば、心当たりはあの日しかない。

彼らがふざけたあの日。

私がふと思ってしまったあの一言。

それを思わず口にしてしまった一言。

彼女は、どう思ったんだろうか。

私が『誰』とまで言わなかったのがいけなかったのだろうか。

勘違い、させてしまったのだろうか。

なんとなくで開いてしまった距離は戻せない。

謝るのも違う気がする。

誰も、なにも悪いことはしてないのだから。

私が、言ってしまったことは消せないのだから。




 夕焼けに照らされてる街は、いつだってキラキラしている。

今の私には眩しいくらいだ。

そして、眩しかった青春と呼べる大切な時間も、夕焼けのように一瞬だったな。と今にして思える。

私は、未だにそれを忘れられない。

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わたしたちに名前はない 散花 @sanka_sweera

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