第3話 お姉ちゃんしか信じない

僕(宇橋)が家に帰ると、そこには母親の姿があった。

なにやら深刻そうな顔である。


「どうしたの?ママ」


「……信者の前では母上とお呼びなさい」


それから一呼吸おいて、ママは意外な言葉を口にした。


「……あなたの父上は先ほど、交通事故でこの世を去りました。即死でした」


そこからいくらか空白の時間が生まれた。

とても重苦しいものであると感じるのであった。

……まあ、でも別に、そうなんだ~って感じ。


「それは……悲しいね」


パパは四六時中、顔に幕を垂らし一切素顔を見せる事が無かった。団らんでさえ。

さらには、言葉も一切発しなかった。

神様を模倣したいから喋らなかったのかな?

どちらにせよそこまで思い入れは浮かばない。


上辺だけ取り繕った言葉である。


「……そう、悲しいことです。だからこそ、貴方は次の教祖となり、人々の心のよりどころになるべきだと。これは貴方の父上の御意思でもございます」


そう言いながら、僕の手を取るママ。

……とても一方的だ。正直気持ち悪い。


「これまで培ったを生かして、神様になってはくれませんか?」


父上の事?うるさい。うるさい。

教えってなんだよ。僕に人生を教えてくれた教祖は、教祖は……!!


「……すこし考える時間ほしいな」


カバンに着けてある、手作りのクマさんのぬいぐるみを手でグッと握る。

あぁ、ぬくもりがある。

……そうだよ、僕の教祖は、


亡くなった、いや、殺された姉だ。


自分の部屋に戻り、落ち込み、引きこもったフリをする。

しかしドアを閉めると窓を開けて一目散に外へ飛び出した。


一体僕はどうすればいいのか、それを考えるだけで頭がグルグルする。


いつもの通学路からはみ出して、喧騒が響く、愚かな街へ足を踏み出した。

なにも考えずに裸足ででてきた僕。

時折、地面に落ちたタバコのカスに火傷しかけた。


そして、僕の逃避行は転んで幕を閉じる。

膝をすりむいて、痛さをこらえている間に、誰かに声をかけられた。


「だ、大丈夫ですか?宇橋……様??」


上を向くと、思わずウェっと声が出てしまった。

その女は白縫しろぬい トワ。

僕の隣の席にいる信者だ。

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