第2話 獅子京は従属する
「帰ってくれ。こんな悪質な訪問はお断りだ」
室内からチェーン越しに男性はそう叫んだ。
「悪質な訪問ではありません。私は決してあなたに危害を加えるつもりはありませんから」
しかし、表に立っている人は、男の怒鳴り声に一切さざ波を立てずに言葉を返した。
表情は穏やかでニコニコしているが、どことなく不気味にも思えてしまう。
「俺は知っているぞ。そういうの霊感商法っていうんだろ??」
丁寧な対応に惑わされねえぞ、とでも言わんばかりにしたり顔で反応した。
それに表にいる男性は小さく「ほう」とつぶやいた。
「……どうやら誤解されているようですね。特に私は高額なツボを買って欲しいなどと申した覚えはありませんよね?実を言いますと、この件は貴方の知人から依頼されたものなのです」
「知人……だと??」
貴方の知人、このワードから男性は顔を顰めた。
しかしお構い無しに話をつづけた。
「えぇ、高校から仲良くなられた正人様でございますよ」
「……っはあ?!なんで急にアイツが俺の事を話したんだよ!!」
「友達なら貴方を深く心配しても何もおかしい事はありませんよ。
それより……」
そう言うなり、表に立っている男は自身の懐に手を入れる。
すると、相手は不意に警戒を強めた。
「これは私の名刺です。杉丸会社の経営を統括させていただいている。
獅子京と申します。」
「……ししきょうって読むのか」
しかし、当てが外れたのか、名刺を目にした瞬間にふと警戒心が消えた。
そして大企業である杉丸会社という名前を聞いて、少しだけ表情を緩めたのであった。
しかしその油断が命取りになる。
三時間後には見事、契約を終えて家から出てきた獅子京の姿があった。
「……ふふふ、やりましたよ。これで私も少しはあのお方に貢献できたでしょうか?」
何もない空を見上げて奇妙な事をつぶやく男。
「こんな廃れた世界にも神はいるんだ。一生をかけて従いたく存じます……」
獅子京も字橋の家の宗教を狂信していた。
更にはこの男は『袖』という宗教の幹部に属している一人。
宗教を拡大し、繋がりを強めている最重要人物であった。
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