ぼくはきょうそである

九条 夏孤 🐧

第1話 未来の教祖「字橋」

「一時間目から数2とか頭回らないよな~。朝っぱらから鬼のようなスピードで樹氷進める教師陣頭おかしいって」


僕が真面目に授業を受けていると、前にいる子が振り返ってきた。

そして止められる隙も与えずにその子は喋りだした。

高校二年生でも緊張感の全く感じられない光景だよ。

僕も数学にはうまくついていけていないので妨害するのはやめて欲しい。


「共倒れは嫌だからしっかり授業聞いて~。僕も理解できていないから頼りにしてる♪」


そう言いながらウィンクをかます。

すると、前の子は「うげぇ」と言いながら渋々と前を向きなおした。

我ながらにうまく撃退できたと思う。

男子高校生のウィンクは辛かろうて、まあ、これで安心して授業を聞けるのだから万々歳だろう。


字橋あざはしって中性的な見た目なのは認めるけど、やっぱ無理あるよな」


前の方から独り言が聞こえる。

中性的な見た目か。

多分髪が長い事と、日焼けをしていない白い肌、そして普段は運動しないため

筋肉の隆起が激しくない見た目が関係しているのだろう。

別に心が女性だというわけではない。

先にジェンダーレスとかは関係してないことを言っておこう。


実はこの容姿は家の方針に従っているのが原因なのだ。

――――周囲に聞かれたらきっと、容姿まで家族から制限を受けているのが謎。

女の子が生まれることが望まれていた家庭なのか?とか

親が狂って子供に変な趣味を強要しているのだろうか??とか

なんて思われているんだろうなぁ。


でも、周囲の思惑と本当の理由は全く違う。

本当の理由は「僕の家庭は宗教を開いているから」だ。

もちろんカルト宗教と言われる類だろう。


親が開いていると言え、僕にも普段の生活を制限されることが多々あった。

というか家族一つで宗教を纏めているような構成だ。

制限、それは容姿だけではなく自由行動にも直結に関わっている。

例えば、ゲームセンターとかカラオケとかに行ってはいけないとか、

登校下校は一人で、また常に家では真っ白なマスクをかぶっている必要があるとか、

厳しく聞こえるかもしれないが、17年近く生きていれば制限も段々と慣れてくる。

レジャースポットに行くことを制限されていても、漫画などは読めるためそこまで不便だとは感じていなかった。


不穏に感じる話題はここまでにして、一旦は授業に集中しますか。

……あれ?その公式いつ出てきたの?

予習とかしてた筈だけど、未知の公式が出てきて困惑中。

ちょっと、助けてくれない?

うん、うん、さっきは追い返してごめんね。

………。あー移行教材に触れていたのか!納得した。


「移行教材因みに忘れちゃって……アハハ」


面目ない。

昨日持って帰ってしまったきり、登校前に見落としてしまって……。

―――隣の子に貸してもらえばって?

何か助けになりたそうな目で僕の方を見ているから、相談してやればって?

あーごめん。隣の子に関わるのは無理なんだ。


「だからさー、ノートに答えだけでも移させてよ。そしたらすぐに前に回すからさ」


すると、渋々前の子は僕に移行教材を渡してきた。

その後、僕はそそくさと答えを写し取る。

そしてすぐに前の子の席に返した。

―――その間も隣の子はジーッと僕の姿を充血した目で見つめていた。

その視線の圧は凄まじく、まるで僕の着ている衣類を軽々と貫いてしまいそうな勢いであった。


見惚れているという気配は一ミリも無く、もはや生きるという目的で凝視し続ける隣人。

……これだから学校生活でバレると面倒くさいんだよね。

隣にいる子の正体は、僕の家がらみの宗教の信者である。

家族ぐるみで数年前から改宗した人だ。

だからこそ僕は隣の彼女を特別視してはいけない。

もし恩なんて借りてしまった暁には、他の信者に刺される可能性だって秘めている。


――彼女の名前は、白縫しろぬい トワ。

僕の家の宗教を溺愛するものである。



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