10月25日 火曜日

第51話 物騒な話題

■10月25日 火曜日


 書いた原稿をプリントアウトして、顧問の先生にチェックしてもらう必要がある。

 さよりちゃんは今まで顧問の先生と会ったことなかったねということで、わたしが一緒に行くことになった。

 海藤先輩に話せて、そして預けたことによって、驚くほど心が軽くなっていた。さよりちゃんにもどんな態度をとっていいのかと思っていたのに、顔を見ても抉られるような思いをすることはなく、目を見ることもできた。

 さよりちゃんは少し機嫌が悪いように感じる。それを問いかける余裕もあった。


「わたし、さよりちゃんに何かしたかな?」


 さよりちゃんが、驚いたようにわたしを見た。

 真鍋先輩に聞きに行ったのを聞いたのかな。いや、その前からか。

 嫌われてしまったのも知っている。どんぐり王子論の時からだ。

 でも意見が違うぐらいで、そんな頑なに嫌われることか?とも不思議に思う。


「小萩先輩って、そういうことなし崩しにして、聞かない人かと思いました」


 そう言ってふふっと笑う。


「あ、先輩、これなんだかわかります?」


 透明の楕円のもの。

 わたしは首を傾げた。


「わからない。なんなの?」


「良かった。私が知りたいんです」


 さよりちゃんがにっこり微笑んだ。


 ??


 職員室についたので、先生と新入部員を引き合わせて、チェックをお願いする。

 2つ原稿が遅れていて、それはまた後で持ってくることを告げる。

 どんな企画かと言われたので、髪切り魔のことと、青山学院の男子生徒が亡くなったものだと答える。


「物騒だな。もっと他の明るい話題はないのか?」


「部長担当です」


「……そうか」


 南野相手だと、言い合いになれば理詰で長引くからだろう、3文字で終わりだ。ちょっと癪に障るけど、南野の名前を出せばすんなり通ることもあるから便利だ。



 


「事故で亡くなった木崎さん、さよりちゃん仲がよかったんだってね?」


 さよりちゃんに鋭く見られた。

 何聞いちゃってるんだって思ったけど、わたしはさよりちゃんの考えが気になって仕方なくて、何をするつもりなのかを知りたいんだと気づく。

 空気が張り詰め、胸が苦しくなる2、3秒だった。


「どうしてそれを?」


「小松くんから聞いた。さよりちゃんと仲のいい子がいたけど亡くなったって」


「ええ、そうです」


「クラス違うよね? どこで仲良くなったの?」


「……委員会で一緒でした」


「……図書委員、だ?」


「はい」


 わたしは唐突に気づいた。

 なんであのノートは図書室に置かれていたのだろう?


「さよりちゃん、裏ファンの子のことが分かってから、〝変なこと〟は起こってないんだよね?」


「え、ええ。あれから起こっていないから、もう大丈夫だと思います」


 怖い想像をしてしまった。

 まさか、木崎さん、普通の事故じゃなかったってことないよね?

 あの道路見通しがよかった。……ひき逃げ……。

 故意の事故だとしたら?

 何かを知ってしまった木崎さんを狙ったんだとしたら?

 あのノートは身の危険を感じた木崎さんがあそこに隠したのだとしたら?

 その知ってしまったこと、それがさよりちゃんも知っているかもしれないと思われているとしたら?


 その知ってしまったことは学園内のことではないかと思われる。

 ……アクセルのこと、とか?


 いや、狙われていたのは自作自演だった。最初のお墓参りの帰りに突き飛ばされた、あれ以外は。


「なんですか、じっと見て」


「あ、ごめん」


 真鍋先輩はさよりちゃんを救いたいみたいだった。

 あんなことをいう真鍋先輩が何かするとは思えない。

 それに自動車事故だから、車の運転ができるのは大人だ。

 それに確かに違法薬物かもしれないけど、人を傷つけてまで隠そうとするようなこと?


 あーわかんない!


「小萩先輩」


「え?」


「小萩先輩って南野先輩と小松君、どちらがタイプですか?」


「え」


 さよりちゃんが可愛く微笑む。


「南野先輩はクール、小松君は子犬系ですよね」


 それは頷けるけど。

 さてはて、ここは理由を尋ねるべきか。

 なぜだかわからないけれど、わたしは躊躇した。

 なんて言葉にのせたらいいか、思いつかなくて、口を開いては閉じた。


 さよりちゃんは少しだけ目をそばめた。そして、不自然な笑みを浮かべる。


「小萩先輩、海藤先輩好きでしょう?」


 え?


「私も好きなんです。だから、あきらめてもらいたくて。小萩先輩に彼氏がいればいいと思ったんです。南野先輩や小松君ならちょうどいいかなと思って」


 もはや、どっからつっこんでいいかわからない。

 部室にたどり着くと、さよりちゃんは先に足を踏み入れた。





 部活帰りにお茶に誘ったけれど、さよりちゃんは帰ると言った。

 そして、もうあれから怪我するようなことは起こってないから、もう自分を気にしないでと宣言した。

 なんか、わたしたちは置き去りにされて、ぽかんとしてしまった。


「豹変しましたね」


 初日に涙を見せた、あの守ってあげたくなる弱々しさはどこにもない。


 さよりちゃんが背負っているものについては、海藤先輩に預けた。

 でも木崎さんの死と狙われたさよりちゃんの関係性は言ってみてもいいよね?


 わたしが話すと、ふたりもその可能性に思い当たっていた。

 ただやはりさよりちゃんが文芸部に入ってきた理由がわからなかった。

 南野はそれを明日、本人に尋ねると言った。


 

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