10月12日 水曜日

第31話  アクセル

■10月12日 水曜日


 お母さんの見ていた朝のテレビ番組で、ニュースが流れた。

 お店の駐車場に車を止めようとして、ブレーキとアクセルを間違え、お店に突っ込んでしまったそうだ。幸い怪我人はいないとのことなので、胸を撫で下ろしながら、思い出す。

 そういえばアクセルって他にも意味があるみたいだった。

 お母さんに聞いてみる。

 お母さんも車のアクセルしか知らなかった。

 インターネットで調べてみる。

 やっぱり車のアクセルとお店の名前でしかヒットしない。



 今回は調べたもんね。

 堂々とそう言えると思いながら、部活へ行く前にわたしは委員長に尋ねた。ちょっと昨日微妙な終わり方になってしまった。関係を修復するというと大袈裟だけど、次は気軽に話ができるようにしておきたかった。だから別段知らなくちゃいけないことではないんだけど、ちょうどいいと思ったのだ。


「車じゃないアクセルって知ってる?」


 放課後、教室を出ようとしたところに尋ねてみれば、委員長は笑顔を張り付かせたまま、わたしの腕を取って、廊下の隅に連れていく。


「また、何に首つっこんでいるんです?」


「シツレーね。なんかその言い方だと、わたしがトラブルメーカーみたいじゃない」


「違うと言いたそうですね。それについては南野君や小松君と話し合って下さい」


 はい?

 わたしが口を尖らせると


「教えたら、嗅ぎ回らないと誓えますか?」


「え? うん」


 委員長は胡散臭そうな目で見る。なんか思ったより危険を孕むことなのかしら?


「でも、まあ、教えなければ余計嗅ぎ回るんでしょうね」


 わかっているじゃない。


「それでは会議室にいきましょう」


 会議室は文芸部の部室だ。保護者付きじゃないと教えてもらえないみたいだ。

 会議室……。

 あ。え? いや、そんなことは。でも。

 警戒しておいた方がいいかもしれない。

 そうじゃない可能性の方が高いけど。でも、ないとは言い切れない。


「会議室はダメなんだ。そうだな、西棟の渡り廊下でいい? 南野と小松君呼ぶから」


「……わかりました」



 わたしは携帯のメールで南野と小松君を西棟の渡り廊下へ呼び出した。さよりちゃんは用事があるとかで今日はお休みだから、ふたりをだ。

 委員長と一緒に渡り廊下へ移動する。


 歩きながら、わたしは警察の人からアクセルを知ってるか聞かれて、車のですよねって答えたら微妙な雰囲気になったことを話した。そのこともきれいさっぱり忘れていたんだけど、今日ニュースでアクセルって言葉を聞いて、思い出したのだと。

 それでネットでも調べてみたけれど、わからなかったので、委員長に聞いた。ただ聞いたんじゃなくて調べたんだよと、謎うざアピールをした。




 渡り廊下にやってきたふたりは風の冷たさに身を震わせた。わたしも寒いけど、実はポケットにカイロを仕込んである。冷えてくるとポケットに手を入れて暖をとっていた。


「どうした?」


 委員長と一緒だからだろう、南野に尋ねられる。小松君も不思議そうな顔をしている。すみませんが来てくださいとしか書かなかったから。

 わたしは委員長に話したのと同じことを話し、それでアクセルが何か知りたくて尋ねたら、わたしひとりには教えられないみたいでさと説明をした。


「悪いな」


 南野が委員長に言うと


「去年のアレで、私も反省したので」


とため息をつく。


「なんですか、去年のアレって?」


 やっぱり、アレを引きずられているのか。


「あの時は、つい。もう単独行動しないってば」


「……小萩先輩、何したんですか?」


 不安そうな表情だ。


「取材してこいって言われてたから、取材しに行っただけなんだけどね」


「小松、浅田先輩、わかるか?」


「ああ、去年卒業した文芸部の先輩ですよね? 僕、よく絡まれました」


 小松君は堪えてなかったのか、元気に言った。

 ちょっとめんどくさい先輩だったんだよね。

 わたしも何度も衝突してて、これぐらいの取材してこいって言われて、取材対象が委員長の情報により判明したので取材した。

 その取材対象が、悪いことしてて、そのことの取材だったので怒りだし、少しばかり怖い思いをした。

 で、そのことがバレて、情報源である委員長は、すっごい後悔してた。

 けど、浅田先輩が分かったら取材してこい、そしたら部員として認めてやるとかいうからさー。若気の至りで突っ走ってしまったのだ。


「浅田先輩と瀬尾がやりあって、先輩にその時学校で事件になっていた、試験問題流出の犯人からコメントもらうぐらいの仕事しろって言われて、犯人じゃないかって名前の浮上した先輩に突撃インタビューしたんだよ。バカ真面目に疑っているって前置きして、な。しかも本当にその人が犯人だったんだよ」


「な、なんでそんなこと……?」


「コメント取れたら部員に認めてやるって言われて、やってやろうじゃないって勢いで……」


「怖っ! それフツーじゃないです。ヤバイです」


「アレは怖かったから、わたしも反省しているの。だからそれ以降は、許可を取ってからしか取材してないし」


「あー、南野先輩が小萩先輩の動向に注意を向ける意味がわかりました。危険人物だったんですね」


 アレは自分でも、今ではどうしてできたんだろう?と思うから、危険視されるのも無理はないかと思っている。あん時は浅田先輩に怒りがこみ上げていて、我を忘れていたところがある。


「まさか危機感なく、ダイレクトに犯人かもと思われている人に突撃するとは思っていなくて、あの時は本当に驚きました。ですから、小萩さんが危機感を持っていない事柄は、皆さんに聞いていただいた方がいいと思いましてね」


「アクセルもそういう類だと?」


 南野が問いかけると、委員長は頷いた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る