第4話 仲間
「瀬尾は?」
「滝先生に、赤ちゃん生まれたってよ」
伝えると、小松君も相原さんも先輩も驚きの声をあげた。
「滝先生って、世界史のですよね? 僕習っていますよ」
「滝先生って独身だと思っていました」
「どこで仕入れたんだ? 瀬尾」
わたしは含み笑い。先生たちも生徒もプライベートなことは流出に気をつけているからね。
「秘密です。もちろん」
わたしには情報屋の友達がいる。胡散臭い? ええとだって〝情報屋〟と彼が自分でそう言っているのだ。自他ともに認めるぐらい、本当にいろいろよく知っているから、間違ってないと思う、うん。
3人で会誌を作っていたから、最低でも1人1個は意見を持ってないと成り立たなかったんだ。最初は自分で集めようとしてみたもののうまくいかなかった。
そのわたしの行動は一般的にみて、意味がわからなく本末転倒なものだったらしい。情報に対するアンテナの張り方のセンスがないらしく、ひとしきり笑ってから、笑わせてくれたお礼ということでと、こぼれ情報を流してくれた。それからの付き合いだ。
今日の部会は完全に忘れていたのだけど、情報があってよかった。というか、彼の方が部会の日が頭に入っているのかも。
「相原さんは、何かある? 思いあたらなければ……いいが」
南野にしては優しい物言いなので、少しだけ感心した。
「学校のことじゃなくても、いいんですか?」
「ああ、かまわない」
「この間も、上原で髪切り魔が出たじゃないですか。あれはどうです?」
ふーん。かわいいだけじゃなかったか。お初のこういう場でもサクッと意見を言える娘なんだ。
「あ、そーいえば、あの連続髪切り魔がでるのって、何故かうちの学校の近くですよね。……注意を呼びかける、いいんじゃないですか?」
相原さんを助けるべく、小松君が意見する。
……なんかますます、新聞部っぽくなってきているけど……。
「じゃあ、ネタ分けするか」
「ネタ分けっていうのは、誰がどの取材をして記事書くか、割り振ることね。だいたい自分の言いだした特集にあたるから」
一応副部長のわたしは、3人だけで成り立っていた会話に注釈をいれる。
南野はまったくのマイペース。もうちょっと言葉補ってあげればいいのに。
「あれ? 南野先輩、今回案なしですか?」
小松君は不思議そうに南野を見る。
南野は眼鏡の奥でわずかに眉を寄せ、何ともいえない顔をした。
「相原さんにひっこぬかれた」
へっ? えっ? えっ……抑えた笑い声が重なる。わたしと小松君はつぼっていた。
だってやることにソツがなくて、失敗なんかしたことないんじゃないかと思える南野が、あんな顔をするなんて。おっかしい!
「まったく、おまえらは。くだらないことで、よく笑えるな?」
ポーカーフェイスに戻ってしまった南野は、心底あきれた声をだす。
まさか自分の表情が笑いをよんでいるとは、思いもしないのだろう。
滅多に見られなさそうな、いいものを見ることができた。
「いーじゃない。くだらないことでも笑えるって、大切よ」
「そうだな。南野も少しは瀬尾を見習って表情をつけた方がいいぞ」
先輩に言われて、南野はチラッとわたしを見てから、
「遠慮します」
と言った。どーいう意味?
わたしが口をとがらせて文句を言う前に、南野はビジネスに頭を切り替える。
「滝先生の件は瀬尾でいいな? 大会インタビューの責任者は小松。相原さんサポートしてくれ。髪切り魔はおれが責任をもつ。みんな手伝ってくれ。レイアウトは今回小松だったな。インタビューは今週中、再来週には記事をあげてくれ」
「了解」
わたしと小松君は声をそろえ、少し遅れて相原さんも「了解」と元気に言う。
うん。いい仲間になれそうだ。
見出しや記事の配置を考えることがレイアウト。今まで3人の交代制でしてきて、同時に写真、挿し絵やレイアウトデザインも受け持つことになる。
「簡素だな」
先輩が目を大きくしている。
「ほら3人だから、勝手知ったるってかんじなんです」
「へー。だけど、これ聞いちゃうと、去年俺は無駄ばっかやってたなって思うよ」
と、視線を落とす。……先輩。去年先輩が部長だったときは、3年生が5人いて、悪い人たちではなかったんだけど、足並みそろわなくて意見もわれて、大変苦労なさったんだ。まず、2年生なのに部長を押しつけられたところで、先輩の苦悩は始まった。
「南野先輩がちゃんと引き継いでいるんで安心しました?」
おどけたように小松君が言って、相原さんがくすっと笑う。
それが何ともいえず可愛かったもんだから、わたしたちは口を開けたまま魅入ってしまう。
「あ、すみません。仲いいなと思って。なんか、いいですね」
とにっこり。
いや、あなたこそ、いい。かわいいー。ラブリーだわ。
いいな。女の子って感じで。可愛くて素直で。
「さて、と。俺もそろそろ予備校に行くか」
先輩がのろのろと腰をあげるのに合わせて、立ち上がり見送る。
「また、来て下さいね」
本当はもっとお話ししたいけど、勉強の邪魔するわけにいかないもんね。
「来月号も楽しみにしているからな」
そうおっしゃって、コツンとわたしの頭を叩き、部室から出て行ってしまった。
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