第22話 オレの信じるお前
マガツが研究所に戻ってきたのは、日が落ちてすぐのことだった。
「レイメイ! 貰ってきたぞ、マンドラゴラ!」
努めて明るく研究所の扉を開き、開口一番にマガツは言った。だがレイメイはそれに気付くことなく、ああでもない、こうでもない、と大きく広げた紙を睨み付け、頭を抱えていた。どうやら化学式の構築中らしい。
そしてオーマは丸椅子に座り、ただただレイメイ博(・)士(・)が悩む様を呆然と眺めている。なんともシュールな光景がそこには広がっていた。
「オーマ、ありがとうな。あの後、材料届けてくれたのか」
マガツは抜き足差し足でオーマの隣に座り、そっと彼の背中を叩く。
相変わらず仮面に隠れた表情は窺えないが、しかしマガツはすぐに、オーマが何か深刻そうにしていると直感的に思った。
「あ、ああマガツ殿。おかえりなさいませ」
いつもならオーバーなほどテンションの高いオーマが、この時だけいつもより静かだったのだ。そして何より、微かに唸り声を上げている。
マガツがいない間に、レイメイと何かあったのか。だが侍のような堅い口調でこそあるが、オーマは人当たりの良い人物だ。
レイメイのことも、命を救ってくれた恩人だと言い、今回もその恩返しをするために協力してくれたのだ。それが、喧嘩をするなどとは到底考えられなかった。
「オーマ、どうかしたのか?」
「えっ、い、いえ……某は特に、なんでもないです」
嘘だった。明らかに何かを隠していた。
それをオーマは自覚していたのか、一つため息をして間を置いてから、その理由を呟く。
「実はマガツ殿がいない間に、レイメイ殿のことを聞きまして」
「それって、もしかして……大帝と関係ある奴か?」
マガツはレイメイに聞こえないような小声で、オーマに訊く。するとオーマは顔を上げ、小声で「どこでそれを」と聞き返す。
「オークの兄ちゃんから少しな。オーマも、それを?」
「左様でございます。少しばかり、大帝の調子が悪かったことは、風の噂で聞いておりましたが……」
まさかそんなに酷かったとは。オーマはそう続ける。
と、ある程度化学式の構築が終わったのか、突然レイメイが叫びだした。
「閃キーングッ!! キタよ、キテるよこれはッ!」
「うわぁっ! きゅ、急に叫び出すなよ!」
「ああ、マガツじゃないか。どうだ、マンドラゴラは手に入ったのか?」
「急に落ち着くな!」
そんなツッコミを入れつつ、マガツはオークの青年――ポルクから譲り受けたマンドラゴラを見せる。
するとレイメイは、紙くずの散乱した実験台の上に小さな身体を乗り上げさせ、メガネをくいくいとかけ直しながら、マンドラゴラを凝視する。
「おおお、少し焼けてしまっているが、上質なマンドラゴラじゃないか!」
「それが、三本しか手に入らなかったんだが、大丈夫――」
「問題ない。アレはあくまで予備も含めての分量だからな。何も必ず五本必要なワケじゃあない」
言うとレイメイは実験台の向こう側に戻り、早速実験道具を準備し始めた。
色々な形をしたフラスコ、ビーカー、試験管、蒸留器にアルコールランプ。その左手側に、オーマとマガツが買い集めた材料を置く。
やがて万能薬を作るための準備は完了した。が、実験台の上を占拠していた紙くずは適当に払われただけで、足下に移動しただけだった。
「さてマガツ、仮面クン! 実験を始めるぞ!」
「ええっ!? そ、某もでございますかっ!?」
「当たり前だ! こういうのは早くやるに超したことはない! たった一秒のズレが実験結果を左右するからな!」
「い、一秒!? そんなに短いもんなのか……?」
「短いもんだ! それでもやるんだよ!」
レイメイは腕を組み、ニヤリと余裕の笑みを浮かべる。その様子は実験道具と身長に見合わない白衣と相まって、誰がどう見ても科学者にしか見えなかった。
いや、身長的には〈科学者ごっこ〉をする子供のようにも見えるが。しかし、その腕はマガツの血清から毒を弱める薬を開発するほど。
まさしく天才と言っても過言ではない実力者であった。
だからマガツは信じていた。レイメイなら、薬を完成させられる、と。
「なあ、レイメイ」
「どうしたマガツ? まだ不安かい、実験を手伝うの?」
「いや、準備は出来てるし、覚悟も決まってるさ」
命に関わりそうな事故への覚悟が。流石にそれは心の中に留めたが、マガツは信頼と同時に、不安感を覚えていた。
それがどういった不安なのか、それはマガツ自身分からなかった。だが不思議と、これだけは伝えるべきだと、直感的に思った。
「レイメイ、無理はするなよ」
マガツは呟くように言って、小さく微笑んだ。
その言葉に、レイメイは不思議そうに首を傾げる。
しかし、マガツの真剣な表情を見て、傾げた首を縦に振った。
「大丈夫さ。問題はない」
「マガツ殿、もしかして……」
「なんて。ちょっとした気合い入れだ」
言って、マガツは肩を大きく回して凝りをほぐす。
「さて、それじゃあ早速、実験を始めようじゃあないか!」
*
そうしてレイメイによる万能薬作りが始まった。
「水、炭素、アンモニア、そして石灰にリン、その他諸々を配合した薬品に、乾燥ゾンビタケのエキスを追加。そこにペースト状にしたマンドラゴラをこしたものを入れて、アークスパイダーの目玉を入れるッ!」
段々とテンションが高くなっていくレイメイの様子を見つつ、マガツとオーマはその間、研究室にある本を読んで、万能薬の完成を待っていた。
何より、二人にはこれといった薬の知識がなく、そもそもレイメイが何をしているのかすら理解できていなかった。
レイメイはただ手慣れた様子で、構築した化学式を基に材料を組み合わせている。
例えば水に溶かした元素の溶液にゾンビタケのエキスを加えてみたり、例えばアークスパイダーの目玉を潰して抽出した赤黒い液体を、マンドラゴラをこした液体の中に入れてみたり。スムージーのようなペースト状態にしたヨクキキ草にそれらを混ぜ込んでみたり。
全て感覚的にやっているようで、しかし的確な分量を計って混ぜている。
そして、仕上げにマガツの血から作った血清を注げば、
「できたッ! レイメイ印の万能薬、第一弾だッ!」
そおっとかき混ぜ、レイメイは得意げな笑みを浮かべて叫んだ。
「おおっ! これが万能薬、の試作品でございますか……?」
完成した万能薬は、ダークマターのように淀んだ漆黒色で、フラスコの先からはドクロの形を形成した紫色の煙が上がっていた。
言わずもがな、なんでも治す万能薬どころかその逆、毒薬のそれだった。
「これで、五種類の毒を完全中和できれば、カンペキといっていいだろう!」
実験台の棚から五本の瓶を取り出しつつ、レイメイは言う。
瓶の中身は全て違うものの、その五種類全てに共通してドクロやハザードマークとよく似た「危険物」を表すものが記されていた。
ヨルズ帝国軍団長、もといグレアが用いていた毒薬は勿論のこと、まだマガツが見たことも訊いたこともないような毒が、瓶の中に閉じ込められている。
「いいかいキミ達、これは匂いを嗅ぐだけでも命に関わるようなヤバいブツだ。くれぐれも飲もうだなんて馬鹿な真似はするんじゃあないよ?」
と、レイメイは一度注意してから、早速1本目の瓶を開ける。それと同時に、微かにだが危険そうな〈死の香り〉が漂ってきた。
例えるならばそれは、常温で二週間ほど放置した塩辛にドリアンを混ぜ込んだような。或いはシュールストレミングを開けたまま三日間放置したような――否、それはまたある意味〈劇物〉と呼ぶべき威力がありそうなものだった。
「いいかい、絶対に飲むんじゃあないぞ?」
「誰が飲むかそんなもの! そんなフリされても絶対に飲まないわ!」
「右に同じく、でございまする!」
二人の激しいツッコミに、レイメイはクスクスといたずらっ子のように笑みを浮かべると、開けた毒薬を一種類ずつ試験管の中に入れていく。
合計五本、試験管立てに並べられた毒薬の中に、そおっと万能薬|(の試作品)を駒込ピペットのような器具で吸い上げ、一滴たらし込む。
「どうだ……?」
禍々しい色をした毒薬と、漆黒色の万能薬が混ざり合う。
「……!!」
オーマとマガツは互いに目を見合わせ、その結果に心を躍らせる。
と、次の瞬間。
混ざり合った薬は突如化学反応を引き起こし、カッと真っ白い光を放った。
「あっ!」
と、オーマは何かを察して声を上げる。
「ま、まさか……!」
続いてマガツ。
だが爆発とほぼ同時、マガツは咄嗟に魔法でシャボン玉のような小さいバリアを展開し、爆発した試験管を覆い込んだ。
小さなバリア玉に包まれた試験管は、一刹那置くことなく爆発し、その中で試験管ごと無に消えてしまった。
ガラス管でさえ蒸発して消えてしまうほどの威力。もしそれを防ぐことができなかったら、今頃どうなっていたのか。想像するだけで背筋が凍ると、マガツは思った。
「あ、ありがとうマガツ……面目ない……」
「そう気に病むなレイメイ。俺は何度だって付き合ってやるぞ」
「そ、某も! 必死に応援致しまするぞっ!」
「キミ達……本当に、恩に着るよ」
言って、レイメイは1個目の万能薬を隅に置き、再び白紙の画用紙を引っ張り出してきた。
そこにまた一から、万能薬の化学式を構築していく。がしかし、やはり何がどうなっているのか、マガツとオーマにはさっぱり分からなかった。
*
そんなこんなで日付も変わり、城の外では夜明けの燦々と輝く朝陽が昇り始めていた。
窓一つない研究所では、あれから時が止まったように研究が続けられていた。
「今度こそ、6弾目が完成したぞ! 3度目の正直は外してしまったが、その2倍、6度目なら或いは……!」
目の下に深い隈を蓄え、すり切れた呼吸をしながら、緑色の薬品が入ったビーカーを突きつける。
あれから幾度となくトライアンドエラーを繰り返し、調合方法を変えてみたり、混ぜ合わせる順番を変えてみたりと、様々な方法で改良を重ねていった。
その度に毒薬と万能薬が化学反応を引き起し、爆発寸前の所でマガツが咄嗟に魔法バリアを展開して封じ込める。
そんなやり取りを5回ほど繰り返し、遂に6六度目がやって来た。
「んむぅ、おろ? レイメイ殿、また出来上がりましたか?」
気付けばオーマは疲弊してしまい、深い眠りに落ちていた。
「こ、こここ、今度こそぉ……」
その時、レイメイはふらり、と千鳥足になり、危うく薬品を溢しそうになる。
マガツは咄嗟にそれを受け止め、そっとレイメイの背中をさすった。
「大丈夫かレイメイ? 無理しすぎだぞ、お前」
「なんのこれしき……! ここ、ここまで来たら……もう、突き進むしか、ない、だろ?」
なんというストイックさなのだろう。レイメイは一度大きめの深呼吸をしてから、6度目の実験に挑んだ。
条件はそれまでと同じく、五種類の毒薬全てを無毒化させること。
レイメイ曰く、
「禍々しい色をしているが、この毒薬が無色透明になれば無毒化に成功したサインだ」
という。がしかし、何本か実際に無毒化に成功しても、なかなか全部を無毒化させることは難しかった。
三種類の無毒化に成功した時もあれば、一度も成功せずに終わることもあった。ついさっき、五度目の挑戦の時は二種類の無毒化に成功したものの、残りの三本は失敗。うち一本は爆発してしまった。
「……マガツ、試薬4,試薬5の実験を頼むよ」
レイメイは言って、万能薬を試験管の中に垂らす。
それに続いて、マガツも万能薬を試験管の中に垂らす。
今度は爆発しませんように。そして今度こそ、成功しますように、と。心の中で願いながら。
「お、おおっ!?」
その願いが功を奏したのか、今回は爆発しなかった。前者の願いは叶った。
しかし後者の願いが叶うことは、果たしてなかった。
試薬2、3、5。これらは無事に反応し無色透明になってくれたが、残りの1と4だけは、淀んだ色のまま。
「そんな……これでもダメか……」
科学に於いて、カンペキなんてものはない。それはマガツも、レイメイもきっとよく理解していることだ。
だがその考えは、6度という試行錯誤を重ねていくうちに凝り固まり、気が付けばオーマも含めた三人は〈カンペキな万能薬〉ができることで頭がいっぱいになっていた。
それ故に期待感が高くなっていた。
それ故に期待感が高くなってしまっていた。
やがてその期待感は失敗の悔しさとぶつかり合い、
「クソッ! どうして、またダメなんだ!」
限界に達してしまった。レイメイは両手を机に叩きつけ、感情のままに叫ぶ。
「レイメイ……」
「こんなところで躓(つまず)いている暇なんかないと言うのに……! ボクならもっと出来るはずなのに……! どうして――」
こんなところで満足しようとしているんだ。
その叫びは、実験が上手く行かないことへの怒りだけではなかった。
実力を発揮しきれない自分への怒り。
現状に満足しようとしている自分への憤り。
そして、マガツたちに助けられておきながら、何一つ成果を上げられない自分へ向けた悔しさ。
「もう、ダメだ……。材料もあと僅か。でも、これ以上どうすれば……」
諦めるしかないのか。否、諦めたくない。でもそれじゃあ、どうしたらいい?
そんな終わりのない議論が、レイメイの脳内で繰り広げられる。
どれほどの時間をかけても、結論が出ることのない、不毛な議論。
諦めたくない気持ちと、諦めるべき現実がぶつかり合い、押しつぶされそうになる。
最早それは、引き返す道も、進むべき道も分からない、真っ暗闇の道を、ただただ闇雲に走り続けるのと同じだった。
終わりのないマラソンゲーム。
ゴールの見えないマラソンゲーム。
諦めれば最期の、デスゲーム。
「…………くっ」
もう諦めるしかないのか。と、諦めかけたその時だった。
「……そうだ、これだっ!」
突然、マガツはあることに閃き、
「レイメイ!」
笑顔を向けて叫んだ。
一体何を思いついたのか、マガツは突然実験台の方へと腕を伸ばした。
伸ばした先にあったのは、毒薬が入った瓶だった。
「コイツ借りるぜ!」
「えっ? ちょ、ちょっとマガツ! 一体何を――」
動揺するレイメイをよそに、マガツは手にした五本の毒薬を開け、それを一気に飲んだ。
ごくごくと、ごくごくと、ごくごくと、ごくごくと、ごくごくと。
あっという間に、五本全部を飲み干した。
喉を鳴らし、まるで広大な砂漠を脱水症状で死ぬ寸前まで歩き続け、やがてオアシスを見つけた旅人のように。豪快に毒薬を飲み干した。
「わああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!!!!?!?!」
レイメイの悲鳴が、城中に響き渡る。いや、誰だって目の前で毒薬を豪快に飲まれたら驚くだろう。
その悲鳴に、完全に熟睡していたオーマも目を覚まし、そしてマガツの行動を見て、彼もまた悲鳴を挙げた。
「のわああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?! まままままままままままままま、マガツ殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?!?!?!?!?」
とんでもない無茶だった。
毒はマガツの口腔内を侵し、喉を焼き、内臓を溶かすような激しい痛みを与えた。
身体の内側からは煙が噴き上がり、とてつもなく不快な臭いがマガツの鼻腔を通って逆流する。
「ぐぅぅ……! くっそ、やっぱり毒ってクソまずいな……」
「バカかお前ェ! 何してんだ、死にたいのかよ!!!」
レイメイの言葉は、もっともだった。
普通、毒薬を飲むなど自殺行為にも等しい。それも、五本一気飲みなど、たとえそれが最強最悪の魔王だったとしても、一瞬で死んでしまう。
そして何より、そもそもの最初でレイメイから「絶対に飲むな」と言われていた。それほどの劇薬なのである。
「マガツ殿、いいい、一体何を!? 絶対に飲むなとレイメイ殿に言われたでしょう!」
「覚えてるよ、そいつぁ……」
「じゃあ、どうして――」
「血清だ」
レイメイの言葉を遮り、マガツは即答した。
「俺なら大丈夫だ。それに、グレアの野郎が俺らに打ち込んだ薬を治したとき、俺の血清を使ったんだろ?」
「それは、そうだけど……」
「ソイツは確か、俺の体内で毒を分解しようとしてたからこそできた。そうだろう?」
「まさかマガツ殿、そのために自らの身を――!?」
マガツの意図に気が付いたオーマは、顎に付けていた手を離し、口を大きく開けて驚いた。
その完璧なリアクションに、マガツは満足げな笑みを浮かべて言った。
「だからレイメイ、俺の血を使え! 絶対に上手く行くか保証はできねえけど、俺はレイメイのことを信じる!」
「で、でも、それで失敗したら、マガツは――」
「俺のことは気にするな! 俺の命はオッサンに、そしてレイメイ――アンタに救われた命なんだ! 捨てるつもりなんざねえぜ!」
言いながら、マガツは吐血する。五本分、全く別の毒同士が身体を蝕み、身体の内側から崩壊が始まった。
だがマガツはそれでも余裕を崩さず、口の血を拭いながら続ける。
「約束しただろうが、レイメイ。アンタの実験体になってやるって! 毒でもなんでも、皿ごと喰らい尽くしてやるってよォ!」
「まさか、あれはただの冗談じゃ――」
「俺はどんな約束だって、死んでも守る男だ。借りだって、たとえ無償だったとしても菓子折持って送り返してやるさ!」
「流石にそれは迷惑極まりないよ!」
と、レイメイ。
次の瞬間、またマガツの口から血が噴出した。体内の状態も、内臓が完全に死にかける寸前まで陥っていた。
そんな状況になってもなお、マガツは表情を崩さず、そして何事もなかったように立ち上がり、
「だからレイメイ!」
改めてレイメイの名を呼び、一つ深呼吸してから、言葉を紡ぐ。
「自分を信じろ。そして、その薬で俺の毒を治すんだ」
言いながら、マガツは腕を突き上げ、レイメイに右拳を向けた。ゴムのチューブを腕に巻き付けて血管を浮き上がらせ、血を摂りやすいようにして。
「マガツ殿……全く本当に、貴方というお方は……」
「もう、無茶苦茶な奴だな、キミは。どうしてこうも、ボクの想像の遙か斜め上を行くのか。そんなヤツ、キミが初めてだよ」
「だろうな……はぁ、はぁ……」
呆れため息を吐き、しかしレイメイはマガツの大胆すぎる精神と行動に、思わず吹き出した。
そして、マガツの差し出した拳に、レイメイは拳を合わせてニヤリと笑う。
「気に入った! キミのその突撃精神を無駄にはしないよ」
「ああ……信じてるぜ……レイ……メイ……!」
最後にそう言い残し、マガツは力尽きたのか、ガクリと言いながらその場に倒れてしまった。
「ま、マガツ殿ォォォォォォォォォ!!!!」
「うるさいよ仮面クン! ほら、アンタもボサっとしてないで手伝ってくれ!」
「そそ、某もですかッ!?」
「お願いだ。キミだって、マガツを助けたいだろ?」
「そ、そりゃあ、まあ」
「全く、これで本当に死んだらまた魔王がいなくなると言うのに。このバカは。復活したら真っ先に血を吸い尽くして半殺しにしてやる。このスカポンタン、アンポンタン、タモアンチャン!」
最後のは楽園の名前だろうが……と、マガツは小声で言う。が、それが聞こえることはなく、レイメイは早速マガツの腕から血を抜き取る。
浮かび上がった血管に針を刺し、マガツの血を採集する。
採取したそれを、今度はシャーレの中に載せ、顕微鏡で確認する。
「これは……凄い、血中にある細胞が毒と同化して適応しようとしている……! やっぱり、マガツは面白いヤツだよ……ふふふ、ふふふふふ!」
「あ、あのー、レイメイ殿? 某は、何をすれば……?」
「キミは薬品をボクが指示した通りに薬を混ぜてくれ! ボクはマガツの血から血清を取り出す!」
レイメイは言いながら、メガネをくいっと持ち上げ、マガツの新たな血清を基にした万能薬――七度目の正直を実現するために動き出した。
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