第9話

 俺は志木の話を聞いて決めた。

 俺は、真理とこれからも恋人でいる。

 真理が教えてくれた事も、全部受け止める。

 この先、何があっても全部、全部、受け止める。

 


「はじめまして。大出真理です。」

「こちらこそ、はじめまして。志木蓮です。今日は来て頂いてありがとうございます。」

「あ、いえ。こちらこそ。」

 志木くんは、滉の話通り見た目はちょっと怖そう。

 だけど、中身はしっかりしてるんだろうなという印象を受けた。

「なんの前置きもなしにすいません。あの、大出さんは泉日先輩の彼女さんなですよね?」

 うん。話題のことは滉からなんとなく聞いていた。

だとしても、ちょっと嫌だ。

「はい。もう、別れましたけど。」

 志木くんの表情は、微動だにしなかった。

 やっぱり、莉愛から私が振った事を聞いたんだろう。

「あの、なんで振ったんですか?」

 なんか、イラッとした。

 なんで、私がこの人にそんな事を言わなければいけないのだろう。

 その瞬間、今までの葛藤とか苦悩とか色々なものがハンマーみたいに私の理性というものを壊した。

「ご存知だとは思いますが、私レズビアンなんです。女性しか好きになれないんです。だけど、滉の事は友達として好きだし、私自身、いつかは男性と結婚しなきゃいけないって思ってたんです。親だって、それを望んでいるはずですし、社会はそうしないと受け入れてもらえない。だから、いつかは偽でもいいから彼氏を作ろうと思って。そんな時に滉から告白されたんです。滉なら、恋愛として好きになってもいいかな。恋愛として好きになれるかもしれない。そう思ったんです。だって、人間として好きだから。」

一気にまくし立ててしまった。ふぅと息を吐く。

「でも、この前、滉に話して、莉愛と話して、気がついたんです。私、滉の事を利用しているだけなんだって。」

知らぬ間に涙が溢れ落ちる。

「莉愛の事を忘れるために。そしたら、私って最低やつなんだなって思って。滉に申し訳なくて、もう、これが言い訳でしかないんですけど。」

なんか、すっきりした。

「あの、すいません。私、帰ります。」

 私は志木くんの表情を確認するのも忘れて、椅子を立った。

「あの、待って下さい。」

「なんでですか?」

「ほら。」

 そう言って、志木くんが指差した先にいたのは莉愛と滉。

 思わず、志木くんを二度見した。

「余計なお世話だと思います。すいません。でも、どうしても3人で話して欲しくて。」

「え、でも、なんで?」

「ここ、高校時代に3人でよく来ていた場所なんですよね?先輩から聞きました。」

 滉が罰が悪そうな顔をする。

「俺は失礼します。」

 それだけ言うと、志木くんは去っていった。

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