第七回『願い事叶うか、百億円もらえるならどっちがいい? ってやつ』
中村が白黒の横断旗を鳴らす。
テーブルの真ん中には毛のないタイプのおっきなテディベアが本来そこにいるはずの者をあたかも全身で形容しつくすかのように、ぶてっと、なんとも憎らしい、なんともやるせない顔をして座していた。
「(前略)本日の議題は~」
「……マギ先輩。その前に、ミカ先輩は?」
「ああ、今日"あの日"で休みだって」
「お前も一回コンプライアンス学びに休んだらいいのに。いきなり共演者の聞きたくもない内部事情漏洩させないでください」
「ああ、"あの日"っつっても"あの日"のことじゃないよ。ミカ、恒常性生理不順だから。常に"あの日"みたいなもんだし」
「もっとやめろ。もう視聴者ドン引きですよ、ドン引き、開始して三十秒経たず。……じゃあ、なんですか。またどうせ鬱の気が~とかそんなところでしょう?」
「まぁ、近いけど……リツもそのうち解るよ。奴は奴で必死に戦ってんだ……自分のうちに潜むおぞましい本性と……」
「クシャナ殿下のおぞましいものよりも知りたくない」
「んなことより、今日の議題はこれ! ババンっ!」
勢いよくフリップをカメラの前に見せ——そこにはマジックの走り書きで『マスコット』と大々的に書かれていた——すぐに反対の手で口元を覆うと、マギは咽び泣き始めた。
子供ならいざ知らず大の大人が突然号泣し始めるのを目の当たりにすると、わりとガチで引いてしまうもの。リツはもう便所に吐き出されたチンカスでも見るような眼差しでそれを見て言った。
「……どうしたんですか」
「……やっと出せた」
「あー」
「今、七回だか? 数えてないからよくわかんないけど初めて……やっと……番組ができる……中村っ! 私、やったよ……!」
「(あ、飼い主の名前呼んだ。っぱ、そういうことなのかな……)あー、よしよし。大変でしたね。あの司会じゃまぁ、想像に固くないですけど」
「あれ? ちょっと待てよ……てことは、もしかして……
「解決してはならない問題が声に出ちゃってますよ。私もずいぶん前からそう思ってましたけど、たった今見解が変わりましたね。働きアリの法則がこんな即効で当てはまってくるとは思ってませんでしたけど」
「働きアリ……?」
「上位下位の二割が必ずプラスマイナス極端に働くってことです」
「?」
「足を引っ張るバカがいなくなっても、残ったもののうちから同じだけのバカが現れるので、結局何も変わんねーですってことです」
「?」
「その顔すんげームカつく。議題なんでしたっけ?」
「今日のはすごいよ! ゲストまで呼んでんだから!」
「お。てか、ますます早くしないとじゃん、じゃあ……ずっと裏で立たせてたのかよ」
「でもその前に……リッちゃん。質問です!」
「はい、なんでしょう(どうしても番組始まらないー。ゲスト立たせっぱなしー。なんでさっきフリップ一回出しちゃったの、このバカが!)」
「この番組に足りないものといえば?! ずばり!」
「清楚、品性、教養、語彙、神の人格、病んでない神の存在、まともな大人の思想を持った神の存在……エトセトラ。なくてもいい無駄なものもあげましょうか」
「なんか怖いんだけど、リッちゃん……いずれ殺されそう私たち(神含めて)」
「いいから早く『マスコット』だせ。ゲスト立たせっぱなし」
「正解は『マスコット』! でしたー! 預言者のリッちゃんに拍手~……わかりました。はい、そろそろちゃんとします……や、やっぱりさ、女の子三人にプラスマスコット! これだよこれ! 絶対不可欠な相棒キャラが足りてなかった! ……ということでお呼びしました。マスコット界に旋風を巻き起こした、かくあるべきこのお方……!」
背中にピンクのマジックで魔法陣が描かれ、耳にしゃれたピアスをつけた白いウサギのような猫のような妖精キャラが、ぴょんとテーブルの上に姿を現した。
うさぎはあのお決まりのセリフを吐いて、マギが続けた。
「僕と契約して魔法少女になってよ白ネコさんです! ようこそー! ぱちぱちぱち」
「なんでよりにもよってコイツ呼んだ。というか、色々平気なのか」
「気にするから大事になんねん。とりあえずぎりぎりのグレーゾーンでやってみる。怖い人に怒られたら泣きながらやめる」
「創作物だけど忠告していいですか? 神、お前ろくな燃え方しないぞ。あと一回コンプライアンスの意味調べてこい」
「ほら、よくあるじゃん? もし何でも一個だけ願いが叶うなら、リッちゃんなら何にする? 透明人間。そらをとぶ。お金持ち。時間止め。私は世界中の人が讃えるアイドルに~」
「私ならまずその願い事の回数を無限に増やせって言います」
「え」
「何でもですよね? んで、
「世界平和……!」
「落とし所ですよ。アメとムチ。それまで無茶な要求ばかり被せたところで、安直な慈善行為を働けば、この人には何か考えがあるんだって思うでしょ? そこで完全体セルになります。それからゲームを開催して、私がこの地上の覇者であることを知らしめ、世界を恐怖のどん底に……」
白いうさぎは逃げ出した!
「待てこらあっ! 叶えてもらうぞ! 全て! 私の願望をっ!」
リツはスタジオを飛び出してうさぎを追い立てていった。
「(一番病んでんのコイツじゃん……っぱ、私たちにはミカパイセン、あなたが必要です……気が済んだら早く戻ってきて……)」
ミカパイセンは自宅でカタログチケットを使って購入したマリオRPGリメイクを遊んでいた。
もう一本はいまさら盾を買った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます