間話その一『勝利に酔いしれた時にこそ生じるデカい隙』
「アンニュイだ……非常にアンニュイ……」
ミカは不気味に呟きながらデスクに肘をつき頭を抱えていた。マギがアイスを片手に通りがかって尋ねた。
「珍しいですねー。先輩でも悩みとかあるんだー」
「今までの回一緒にやってきてよくそういうこと言えんな。私、たぶん自覚のある双極だから。あと愛着障害」
「病院行けよ」
「行かない。先生怖い。説教されたくない。というかね、最大のポイントを言おうか……」
(めんどくさそうだなぁ……でもま、マジで◯なれでもしたら事だし、一応この人が顔ってことで、なんかあったら責任全部被ってくれる人だし……はー、後輩って大変だなぁ)
マギはミルクの棒アイスのあのガリガリ君にはない小気味良い歯応えを楽しみながら隣に座った。
それを返答と受け取って、ミカは言った。
「私の内側に入ってこられたくない」
「へえ」
「それはね、恋人だけでいいの。好きな人だけでいい。私の底の部分を知るのは」
「クシャナ殿下みたいなこと言って」
「私の底、別におぞましくねーからぁぁ……普通だからぁー!」
地雷を踏み抜かれてミカは顔を覆いながら嘆いた。
「普通にしてれば普通なんだけど、特定の人の時だけちょっと熱くなりがちというかそうなっちゃうだけだから……つまりそれが普通じゃなくて……わかってんだよ! 私だって……でも好きになるってそういうことでしょ……やめて、マギ。そういう自分の底に関する部分を罵倒するのは。あんたに悪気がなかったとしても後で響くんだよ……寝る時に考えちゃうんだよ……」
「あぁ、ごめんなさい(これは本物だ……)」
きゅっきゅっとしたミルクアイスの歯応えを半分まで噛み締めながら、マギは認識を改めた。
(下手こいたら◯殺するやつ……! ——いや、てことはこれ——)
真剣に考えるその一方、一周回って豆電球がぺかーと灯る。
(コイツの人生、私次第ってコト……?!)
マギはそろそろ滴ってくる棒アイスを、舌をのばし、下からすくいあげるように舐め、先端をちろちろし、おまけに吸いつくと、既にアヘってるような顔を浮かべた。
(だめですよーせんぱぁい……生殺与奪の権を他人に与えちゃあ……)
「……マギ? 股間に◯ーターでも入れてる?」
ミカの疑義はさておき、マギは突然飛びつくようにして頭からミカを抱え込み、ヨシヨシヨシヨシしながら言った。
「もう先輩っ! 悩みがあるならいつでも言ってくださいよー。水臭いじゃないですか」
「……なんか乳臭いし。意識したらちょっと唾液臭いんだけど、あんた、マジ……?」
「よしよーし。大丈夫大丈夫。先輩には、私がいつでもついていますからねー」
「あ……ああっ、垂れる垂れる」
ミカが手元を指摘すると、マギは溶け出したら早いミルクアイスを根本からずらして上の方に持ってくるために、奥まで咥え込んで、ずぞぞ……と音を立てて啜った。
ミカは普通に引いていた。
(うわ……マジか……こんな人ガチでいるんだ……エロゲの中だけじゃなかったんだ……)
「いつでも相談に乗りますからね、先輩は私の大切な……」
「う、うん。ありがとう。なんかさ、マギ見てたら気分が落ち着いてきた。もう大丈夫だから……」
ミカはそそくさと帰り支度をして、その場を後にするのだった。
後日。その日から入ることになった新人のリツと打ち合わせ中。
「いやマジで、あいつ飼い主いるわ……」
「こわっ……怖いんですけど、えーっ、今日入ってきたばかりの新人にいきなりそんなこと言う? 仕事始まってもないのに、この職場くるんじゃなかった……と思い始めてますよ。宗教くっせえリラクゼーションの仕事以来の感覚」
「どっかから操作されてた……たぶん中村が怪しい……」
「おはようございまーす」
遅れてやってきたマギの顔はいつもと変わらない。
「先輩! 今日もバファリンのんで頑張りましょうー。あ、新人の子! 初めましてー、私、滝沢マギステルって言います。よろしくねー」
ミカ、リツはお愛想で笑顔を返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます