第二回『テンポって全部◯ンポにきこえる』
中村の横断旗が小気味よく鳴って、ミカは気を入れ直した。
「さぁ、始まりました。記念すべき第一回メスガキ天使が物申す?! 天使ちゃんニュース!」
「この番組ではメスガキお天使ナビゲーターこと私、滝沢・マギステル・ショーペンハウエル・デイビッド・ロウエン・ザ・サウザンド・ブロッサム・トゥー・フェイスド・ラバーズとー?」
「司会はわたくしミカティエル・ロビンソンが人の子らの日々を眺めて有る事無い事思ったことをバシバシ率直に、されど業界にはきちっと忖度しつつ、物申していく斬新ながら各界ご安心の報道バラエティとなっておりまーす!」
マギはおにぎりを持つような手の形を胸の前に並べるように浮かべながら言った。
「お、も、て、な、せ。老人たちの頭の中にいつもある有名な標語ですね。ではではー? さっそくいってみましょう……記念すべき第一回目のお題は……」
「ちょっと待って」
「待ちません。すでにさっきので一回分だから、すでに幻のぜぇーろー? 回目になっちゃったから。テンポ悪いよ、巻いていこうって怒られちゃうから」
「いやいや大切なこと。めっちゃ大切なこと。私たちの今後のために」
ミカがしつこく食い下がると、マギはせっかく持ち上げてたフリップをデスクにバンと落とした。
ミカは再度、今度は指を差して突っ込んだ。
「あ、それ」
「は? なんすか」
マギはフリップを下敷きにして肘をつき、そっぽを向いている。ミカは半身をマギの方にひねって続けた。一カメはガン無視だ。
「え? あ、なんかさ、ん? 怒ってる? マギ、怒っちゃってるよね」
「なんで?」
「ほら! もう言い方がさー怒ってるときのそれじゃん、完全に」
「だって巻いていかなきゃいけないのに、カンペ出てんのに、先輩がちんたらやってるから」
「ほら、また出た。その態度。良くないよねー……? 映ってるよ? 全部映っちゃってるし、そういうイライラしてるのとか視聴者すぐ判るから。あんま視聴者とロリコン舐めないほうがいいと思うよ、これ先輩としてのマジ忠告とサービス」
「はいはい、パイセンは何だかんだプロ意識あって偉い偉い。でもテンポどんどん悪くなってます。先輩がちんたらやってるから、テンポどんどん悪くなってるなーこれ。一度狂ったテンポとかテンションってさ、なんか取り繕ってもなかなか戻らないよねー。作家の嫁さんとか結構神経使ってると思う」
「もうテンポって全部チンポに聴こえる」
「あー病気かよって一瞬思うけど、結構みんな思ってると思う。ンポって語尾についたらね。みんなチンポですよねもう。コンマとか狙ってんのかっつー。あれ教師も最初説明するとき『どうせこいつら下ネタにすんだろな』って思いながら言ってんのかな」
「いやあれは発音的にはカンマだから。で、それ『めんどくせぇ女……!』を嫁さんにもらった男も思ってると思うからおあいこ。奴ら『今日何食べる?』から喧嘩始めっからね。何食べたいか聴いてないから。旦那への宣戦布告だから、あれ」
「返答を誤ると詰みますよ……って、あ、レジでクレームつけてるジジイがいるときの後ろに並んでるお客様の気持ち、今、わたし。『どうでもいいけど、早くしろよ。こっちはずっと待ってんだよ。第二次クレーム戦争いったるぞ、これ。……いや、別にそこまでしないけど、ふふ人間だからしょうがないなぁもう。こんなことで争える日本は今日も平和です(最後は笑って正常性バイアスかけてる)』」
「は? お前そん時の店さんの気持ち考えたことある? 『どうでもいいけど、早く死ぬか、コイツ殺したい。目ん玉にハサミ突き入れたらどんな声でなくんだろうなーコイツ笑。別に良くない? 長い人生、一人くらい◯っちゃっても。正直ヤッた人数より許容範囲広いと思う。ハサミの位置は……オーケー。いつでも来いよクソジジイ。第一次Zジェネレーションウォー開戦じゃボケ』だからね。第一次老若戦争始まる寸前。お前、いい加減どげんかせんと小売から内戦勃発すんぞ、日の国」
「どうでもいいけど、店員さんのこと店さんって略すのやめろ。天さんに失礼でしょ。天さん、遥か格上のセル第二形態相手に足止めできるくらいに強いから。改はグリリバだし。店のほうの店さん、格下の毛も生えてねえガキ相手にも舐められてんじゃん。自分はケツ毛までぼーぼーのくせして」
「おい、マギも毛の話してんじゃねーかよ。なに? 人にはあれこれ言っといて、自分には甘いタイプ? うわー、サイテー、あと神が好きだからってお前ドラゴンボールの話やめろよ。何の話か判んなくなってくんだよ。ここまで三十分くらいでノーバックスペースで思いつきのまま書いてるけど、一日一万字とか余裕じゃね? 考えなければ。そんなんもできねえし、うだうだXやってる暇あんなら、とっとと続き書けよ」
「論点ズラしてってんのてめぇだろ! いい加減にしろや! それうちの神のことだろ! あらゆる意味でやる気がない時期なんだよ! 何もかもうまくいかないし、番組もはじまんない! 面白いって何かわからなくなってきたって自分を喪失しながらも懸命に書いたスワンプもあんま見てもらえてねえしよ!」
「あ、だからさー、マギ」
「なに?」
「名前長過ぎない? 情報も多いし。テンポ悪いのはお前の名前とこの脚本のほうだろ」
カットが入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます