第3話小島みどり

翌日シチロー達は、捜査線上に浮かんできた被害者『美佳』の友人『小島みどり』を調べる為、

みどりが通う大学へと赴いた。


「ここが、小島みどりが通っている大学だ♪」


「それで、小島みどりは何科に在籍しているの?」


「え~と……岡崎夫人の話によると、小島みどりは『シューズデザイン科』という科に在籍しているらしい。

美佳さんも、同じ科にいたらしいよ」


シューズデザイン科とは、その名の通り靴のデザイナーを育成する為の科である。


靴のデザインは奥が深い。


色や形はもちろんの事、履き心地や疲れにくさ、耐久性や通気性、そして外反母趾などの足の健康影響への問題……これら様々な事柄に精通していないと、靴のデザイナーを職業とする事は出来ないのだ。


そんな、『シューズデザイン科』に潜入し、情報を探るシチロー達。


「じゃあ~早速、みどりさんを捜して話を聞こう」


「えっ!尾行するんじゃないの?」


「コブちゃん…『ねずみ小僧じろきち』の衣装

着替えてきなよ…」


尾行するにしたって、

『ねずみ小僧じろきち』は目立ち過ぎだってば……コブちゃん……



大学は今、昼休みである。


シチロー達は、学食で食事をしている学生のひとりに小島みどりの事を尋ねてみた。


「ねぇ♪小島みどりさんって娘を捜してるんだけど、君知らないかな~?」


学生は、特にシチロー達を疑う事も無く、ごく普通にみどりの事についてこう答えてくれた。


「ああ~♪『ハチハチ組』のみどりの事ね♪」


「『ハチハチ組』?……それって何の事かな?」


「バスト88の『ハチハチ』よ。彼女、漫才やっててね

…もっとも、相方の美佳は事件に巻き込まれて亡くなってしまったんだよね…」


学生は、少し残念そうにそう呟いた。


美佳の死は既に大学の一部に知れ渡っているらしい。


そして、学生の話によると、その美佳と小島みどりは、揃ってバストが

88センチという事から大学の中で『ハチハチ組』という漫才コンビを結成していたという事実が判明した。


「それで、そのみどりさんは今どこにいるのかな?」


「みどりなら、今頃、作業場で昼休み返上で課題のシューズを造ってる筈よ。彼女、靴造りには真面目だから……」


学生にみどりの居場所を聞くと、シチロー達は教えられた通り作業場へと足を運んだ。


昼休み、作業場に学生は少ない。


そこでみどりは課題の靴を作っていた…




「へぇ~♪上手いもんね♪」


すぐ側まで近付いている子豚の存在に気づかず、急に声を掛けられ驚くみどり。


「誰?アナタ達?」


「実は、オイラ達探偵をやっててね♪

美佳さんの事件について聞きたいんだけど…」


シチローに『美佳の事件』という言葉を聞かされると、みどりは眉をしかめながらこう言った。


「私、途中で帰っちゃったから何も知らないわよ!」




「え~い!この『紋所』がぁ~…あがあが…」


バッグからケータイを取り出し、みどりに葵の紋の画像を見せつけようとしたひろきの口を塞ぎながら、てぃーだが笑ってごまかす。


「何でもないのよ♪

みどりさん…」


その横で、子豚が残念そうに呟いた。


「桜吹雪描いてくるの忘れてたわ…」


一緒に漫才コンビを組む程の仲である美佳が殺されてしまったというのに、みどりの態度はやけに素っ気ない。


「みどりさんは、あの日のパーティーで生前の

美佳さんと何か話とかしなかったかな?

どんな些細な事でも構わないんだけど♪」


「あの……私、今忙しいんですけど!この靴、今日中に仕上げなきゃいけないもので!」


シチローの質問に答える事なく、そう言って靴造りに集中しようとする

小島みどりだが、それも美佳の事件から話をそらす為の言い逃れのようにも聞こえる。


シチローは、仕方なく事件の質問をするのを止めた。その代わりに、みどりの造っている靴を眺めながら別の話題を振ってみる。


「靴、上手いね♪

今度友達の靴も作ってくれないかな~

そいつの足『28センチ』なんだけど♪」


その瞬間、みどりの手が止まった。


「あのね!

足の形っていうのは人によって違うの!大きさだけ解ればいいってもんじゃ無いのよ!市販の靴じゃないんだから!」


「あっ、そういやそうだね……じゃあ~それはまたの機会に♪」


シチローは、頭を掻きながらみどりにそう言ってから、これ以上のやり取りは無理だと思ったのだろう……横の三人に目配せをすると、みどりに挨拶をして作業場をあとにした。


「何かわかった?

シチロー?」


大学の門を出ると、

てぃーだがシチローに

そう問い掛ける。


「い~んや!なんにも…」


シチローは、ゆっくりと頭を横に振り、そう答えた。


小島みどりの態度……

怪しいと言えば怪しい所が無くもない。


しかし、親友の美佳の死というものを現実とは思いたくないとの気持ちから、あんな態度を取っていたのだと言われれば、それも解らないでもない。


岡崎美佳殺人事件の行方は、未だに混迷を極めていた。







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