第2話手がかり
「なぁんだ♪
話って、仕事の依頼の事だったんですか♪」
「そうですよ!他に何があるんですか!
二階に呼ばれた理由が、仕事の依頼だとわかり
ホッと胸を撫で下ろす
シチロー達。
「わかりました!
この殺人事件、見事この森永探偵事務所が解決してみせましょう♪」
シチローは、二つ返事でこの依頼を快諾した。
シチローにしても、階下で容疑者扱いされるよりは、こっちで事件の捜査をする方が何倍もマシだと思ったからに違いない。
「では、早速現場を見せてもらいましょう」
そう言ってシチロー達はまだ美佳の遺体の残る
殺人事件現場へと足を踏み入れた。
「おいおい!何だ君達は?部外者は立ち入り禁止だぞ!」
慌ただしく聴こえる
カメラのシャッターの音、そして、床に這いつくばって遺留品を捜す鑑識班。
その中心になって指揮をとる松田刑事に、シチロー達は入って来るなり怒鳴られてしまった。
「困りますな…岡崎さん!招待客は下で待たせてもらわないと!」
「いや、刑事さん。
彼等は私が捜査をお願いした、”名探偵”の森永探偵事務所の人達でして♪」
「はぁ~?…探偵ですって?」
「そう、【名探偵】の森永探偵事務所です!」
自分で名探偵って言うなよ……
岡崎からシチロー達の
紹介を受けた『チノパン刑事』こと松田刑事は、呆れたような顔でこう言い放った。
「やれやれ……これは
遊びじゃ無いんだぜ……”探偵ごっこ”は余所でやってもらいたいな!」
「なによ!名探偵コナンだって、いつも警察は
ヘマばっかりしてるじゃないのよ!」
「そりゃあ~漫画の話だろっ!これはリアルな
殺人事件なんだぞ!」
顔を合わせるなりお互いを罵り合う松田とチャリパイの四人。
その険悪な雰囲気に慌てた岡崎は、必死になって間を取り持つ。
「まあまあ、お互い目的は一緒なんだから、協力し合って事件を解決して下さいよ!」
「まぁ…岡崎さんがそこまで言うなら……
探偵さん、あまりでしゃばって捜査の邪魔にならんようにな!」
「へん…そっちこそ、先走りして犯人間違えないようにお願いしますよ!」
お互いに憎まれ口を叩く松田とシチロー。
どちらも負けず嫌いな所などは、案外似ている所があるのかもしれない。
では、事件のおさらいをしておこう…ガイ者は『岡崎美佳』さん21歳、胸に果物ナイフでひと突きだ…
ん~、第一発見者は家政婦のおトキさんだったかな?」
まずは捜査の基本に沿って、第一発見者のおトキに話を聞く事から始まった。
「はい、私がお嬢様のお部屋の前でお呼びしたんですが、お返事が無かったもので…合い鍵で鍵を開けて中に入ったらこの様に!」
そこまで聞いて、松田が話を止めた。
「ちょっと待て!
鍵が掛かっていたのか?」
警察がこの部屋にやって来た時には、この部屋のドアは開けっ放しになっていた。
しかし、おトキさんの話では、このドアを開けたのはおトキさんであって最初の段階では、この
ドアには鍵が掛かっていたというのだ。
シチローは、すぐさま窓のロックを確認に走る。
「窓はしっかりロックが掛かっているよ!」
シチロー達と松田刑事は、驚いた顔で互いを見合わせた。
「こ…これは…まさしく………………
『密室殺人』じゃないかぁぁ~!」
「くそっ!……現実の事件で、こんな事が本当にあるのか!」
今まで、幾多の殺人事件に携わってきた松田だが、密室殺人などという
こんな小説まがいの事件は初めてだった。
「じゃあ犯人は、きっと天井裏から出ていったに違いないわ!」
子豚が天井を指差して
力説するが、見たところ天井は密閉されていて開く部分はありそうに無い。
「どこかに秘密の抜け道があるんだよ!きっと!」
そう主張するひろきは、ベッドの下に頭を突っ込む。
「意外とこの部屋に隠れていて、おトキさんが下に降りて行った時に騒ぎに紛れて逃げていったのかも!」
てぃーだは現実的な路線で推理を組み立てる。
「何にしても、こりゃあ犯人は、相当頭の切れる奴に違いない!」
シチローは腕組みをしながら、まだ明かされぬ
犯人像をプロファイルしていた。
のっけから、超難解な
密室殺人トリックに松田と森永探偵事務所の面々は思考を巡らせる。
「う~~~~ん……
一体どうやって……」
と、その時だった。
「あの…」
しばらくの沈黙の後、
おトキが複雑な表情で口を開いた。
「あのぅ…こんな時に
こんな事を言うのは、何というか……実は……」
「ん?…何ですかおトキさん、さっきの話に何か付け加える事でも?」
「この部屋
『オートロック』なんですけど……」
「・・・・・・・・・」
密室殺人でも何でもなかったのだ。
オートロックのドアならば、犯人が美佳を殺した後に部屋のドアから出ていけば、閉まったドアに鍵が掛かるのは当然の事である。
「しかし、オートロックのドアって事は、美佳さんは犯人を何の疑いも無くごく普通に部屋の中へ入れてしまったという事になる……つまり、犯人は美佳さんの顔見知りの人間だって事だ」
シチローが鋭い所を指摘した。
そんなシチローに周りの者が感心しているのを見ると、松田も負けてはいられないと鑑識を煽り立てる。
「おい!何か有効な手掛かりは見つかったのか!」
「え~~…死因は胸部をナイフで刺された事による『失血死』…」
「そんなこたぁ~見れば解るよっ!」
「死亡推定時刻は、遺体の血液の凝固状態などから、今から三時間ほど前の午後八時前後と思われます!」
「他には!」
「はい……残念ながら部屋には犯人の指紋と思われる物は発見出来ませんでした……凶器の指紋もきれいに拭き取られています」
「なんだよ…たいした手掛かりにはならんな…」
松田は、つまらなそうに口を尖らせて呟いた。
鑑識の男は、ギロリと
松田に睨まれて肩をすぼませて下を向いてしまった。
「…あれ?」
松田に睨まれうつむき加減に下を向いていた鑑識の男が、ふいに素っ頓狂な声を上げた。
「何だ?いきなり?」
「そこ、松田刑事の足元に、血液の付いた足跡が有りますけど……」
「えっ?…おわっっ!!」
大事な手掛かりは、偉そうに鑑識を怒鳴っていた松田刑事のすぐ足元にあった。
それは、かなり大柄な
人間のものと思われる
大きな靴の足跡であった。
「デカイな……28~9センチはあるんじゃないか?」
その足跡は、ほんの1、2歩で消えていた。
おそらく、途中で気が付いて拭き取ったのだろう。
その大きさを後で正確に計ったところ、28センチあった。
「よし、この足跡から、犯人はデカイ男だ!この手掛かりは決定的だな。」
松田はシチローをチラリと横目で見ながら満足そうにそう言い放つと、豪快に笑った。
この殺人事件捜査合戦は有効な手掛かりを見つけた警察側が一歩リードか?
と思われたその時だった。
「あら……?」
今度は、てぃーだが小さく眉を動かして呟いた。
「あの、美佳さんの右手のそばにある血痕……
何だか文字のように見えない?」
そう言われてみると、見ようによってはそんな風に見えないでもない。
「これは、美佳さんが死ぬ間際に書いた『血文字』だわ!」
「『DM』だな…」
シチローが腕組みをして頷く。
「【ダイレクトメール】の事ね」
「それを言うなら
【ダイイングメッセージ】でしょ…コブちゃん…」
そこには、カタカナで
縦にこう書かれていた。
『バ
バ』
その血文字を見て、
シチローは思い出したように岡崎に尋ねた。
「『ババ』という名の
人間は、確か招待客の中に居ましたね?」
「ええ……馬場建設の
馬場 芳郎社長です!」
「それだわっ!」
岡崎の答えを聞くやいなや、子豚は部屋を飛び出して、階段の方へと走り出した。
「あっ!」
そして、それを見た松田も慌ててその後を追う。
ダダダダダダ!
廊下を勢い良く走っていった子豚と松田は、下のパーティー会場が見渡せる階段の踊り場で立ち止まると、真っ直ぐ伸ばした右手の人差し指を招待客の馬場の方へ向け、揃って決め台詞を吐く。
「犯人は、馬場さん!
アナタです!」
「ちょっと!マネしないでよ!主役は私よ!」
「いや!これは警察の仕事だ!探偵はひっこんでろ!」
「何言ってんのよ!犯人を名指しするのは探偵の一番の見せ場なのよ!
警察は後、後!」
「なにを!おいしい所だけ持ってこうったって、そうはいかね~ぞ!」
この事件の主導権を巡って、互いに譲らない子豚と松田。
当の馬場は、そんな二人を呆気にとられた顔で見ていた。
一方…美佳の部屋では、そのダイイングメッセージの解釈について、
てぃーだが別の可能性を指摘し始めた。
「でもシチロー…
この『ババ』の上の『バ』の濁点……殺害時の
単なる血しぶきの様にも見えないかしら?」
「なるほど……だとしたらこれは『ハバ』と書いてあるのかもしれない……」
その刹那、今度はひろきが部屋を飛び出した。
ダダダダダダ!
「犯人は、羽葉さん!
アナタです!」
子豚達の横で、今度は
ひろきが評論家の羽葉を指差して言った。
「……え?それ本当なの?ひろき」
「うん♪だって、シチローがそう言ってたよ♪」
「なによそれ!さっきは『馬場』って言ってたじゃない!」
子豚達は納得がいかないといった顔で、すごすごと美佳の部屋へ戻って行った。
「一体、何だったんでしょうなぁ?あれは……」
「さぁ…………」
下の招待客達は、不思議そうな顔で子豚達のいた階段の踊り場を、首を傾げながらしばらく眺めていた。
「ちょっとシチロー!
一体、犯人はどっちなのよ!」
部屋に戻って来るなり、そう怒鳴り散らす子豚。
しかし、そんな子豚を気にかける事もなく、
シチローとてぃーだは
ダイイングメッセージの解読を続けていた。
「それならティダ…両方の濁点が血しぶきだって可能性もあるよ」
「そうね……だとしたら『ハハ』ってなるわね」
それを聞いた子豚は、
再びあの台詞を決める。
「なら、犯人は岡崎夫人!アナタです!」
「あるいは、これは濁点では無く『゜』を書こうとして、かすれて『゛』になってしまったとか……つまり『パパ』」
今度は子豚とひろきの
二人で……
「じゃあ、犯人は岡崎さん!アナタです!」
「やかましい!
さっきから聞いていれば、一体何人犯人がいるんだ!」
「それじゃあ~ジャンケンで負けた人が犯人って事で♪」
「そんな訳にいくかぁぁ~~~っ!」
まったく、被害者の美佳もややこしいメッセージを残してくれたものである。
おかげで容疑者は『馬場』『羽葉』そして岡崎と岡崎夫人の四人も出てきてしまった。
シチローは、腕組みをして問題を整理してみる。
「やはり、現時点で一番怪しいのは馬場だろうな…実際に血文字も『ババ』と書かれてあるし、体の大きさから言って、あの靴跡の大きさとも合いそうだ…」
「そうね…濁点がどうとかっていうのは、あくまで憶測の範囲でしか無いものね」
皆のそんな意見を総合すると、四人の容疑者の中でも一番怪しいのはやはり、馬場建設の馬場芳郎社長と考えるのが順当なようである。
「じゃあ犯人は、馬場に決定~。」
「まだ決まった訳じゃないよ…コブちゃん…」
「とにかく、今から下に行って馬場に事情聴取をしよう!」
松田がそう言うと、シチロー達と岡崎夫妻も共に松田の後に付いてパーティー会場へと向かった。
☆☆☆
「失礼な!私がやったと言うのか!」
松田が馬場に話を聞き始めると、馬場は不機嫌そうにそう言った。
「いえ…まだ容疑者の一人という形ですがね…」
「え~い!ガタガタ抜かすんじゃねぇ!
この『桜吹雪』が目に入らねぇのか~!」
いつの間にそんなもん描いたのか、子豚が馬場に肩を突き出し桜吹雪を見せつける。
「え~い!この『紋所』が目に入らぬか~!」
すると、負けじとひろきがケータイ画面に映し出した葵の印籠を見せつける。
「ちょっと…二人共、
取り調べの邪魔しないでくれるかな……」
松田は呆れた顔で、まるで犬でも追い払うように手の甲を上にして、シッシッと手首を振った。
「ところで馬場さん…
犯行時間の午後8時ですが、アナタどこにいました?」
松田のその質問に、馬場の顔色が変わった。
「そ…その時間は、気分が悪くなって新鮮な空気にあたりに庭に出ていました…」
そんな馬場の言葉も、なんとなく歯切れが悪い。
「それじゃあアリバイにならないわ!ますます怪しい!」
「その時、誰か一緒にいた人はいないんですか?」
横に居たシチローがさらにそう追及すると、馬場は何故だか何か隠している様に口をつぐんでしまった。
「……………………」
(犯人はコイツに違いない)
松田の『刑事の勘』が
そう告げていた。
「この事件、意外と簡単に片付きそうな事件だな♪」
松田は、確信したようにシチロー達の方を振り返って勝ち誇った笑顔を見せる。
しかし、その時だった。
「待って下さい!
馬場さんは犯人じゃありません!」
突然のその声に驚いて、松田もシチロー達もその声の方向に目を向ける。
「岡崎夫人!」
その声の主は岡崎夫人であった。
「何故、岡崎夫人がそんな事を断言するんだ?……夫人は何を知っているんです?」
思わず口にしてしまったのだろう。
岡崎夫人は我にかえったように、両手を口に当てて『しまった』という仕草をした。
そして、バツが悪そうに下を向いて、小さな声でこう話し出すのだった。
「実は……」
「実はあの時間、馬場さんは私と一緒にお庭にいたんです…」
「馬場さんと岡崎夫人が一緒に?」
不思議そうな顔で、
てぃーだが尋ねた。
「月明かりの下で、馬場さんは私の事を強く抱きしめてくれたんです…そして…」
岡崎夫人は、純情な少女のように顔を紅らめている。
しかし、突然そんな告白を聞いた岡崎の心中は穏やかで無いに決まっている。
「ぬわにぃぃ~!
お前、馬場とブチュッとやったのか~!ブチュッと!」
「そうよ!ブチュッとしたわよ!アナタだって
羽葉さんの奥さんとデキてるの、私が知らないとでも思ってるの?」
思いもよらぬ夫人の反撃に岡崎は一瞬怯んだ。
今度はその様子を見ていた羽葉が驚き、そして激怒した。
「ぬわにぃぃ~!
岡崎!テメエェ~!」
岡崎に掴みかかろうとする羽葉に向かって、岡崎もまた反撃する。
「うるさい!お前だって馬場の女房とデキてるんだろうが!」
「何!ホントかっ!」
互いの浮気の大暴露大会で、四人の容疑者達は顔を真っ赤にして揉み合う。
「今明らかにされた
ドロドロの夫婦関係ね……」
てぃーだが腕組みをして、渋い顔で呟いた。
明らかになって欲しいのは、夫婦関係では無くて犯人なんですけど……
☆☆☆
「まあ~夫婦間のゴタゴタはこの際置いといて…これでアリバイのある
馬場社長と岡崎夫人は
『シロ』って事になるな…」
松田が残念そうに呟いた。
「じゃあ、犯人は羽葉さん?」
ひろきのそんな言葉に、皆の視線が羽葉に集中する。
「ち!違うぞ!私は何にもしてないぞ!」
頭を横にブンブンと振り、身の潔白を主張する
羽葉だが……
「そんな事言ったって信じられる訳無いでしょ!犯人じゃないと言うなら、アリバイを言ってみなさい!」
「アリバイと言っても……え~と…確か午後八時頃といえば……」
「あ……
その時間なら、確か…」
そう言って羽葉が見たのは、岡崎の方だった。
「?」
「ほらっ、岡崎さん!
その時間なら、ちょうどアナタと最近の不動産事情について話をしていた頃だ!」
岡崎は、一瞬考えた後に思い出したように手の平の上で拳をポンと叩いた。
「おお~言われてみればあれは確かに八時頃だった♪」
岡崎がパーティーの中で、招待客を前に挨拶のスピーチをしたのが午後七時半、そのすぐ後からおよそ一時間に渡って、岡崎と羽葉はワイン片手に話をしていたのだ。
「って事は……四人ともアリバイがあるって訳か……捜査はふりだしに戻ったな……」
皮肉にも、容疑者のそれぞれが別の容疑者のアリバイを証明する形となってしまった。
すっかり、この中に犯人がいると思い込んでいた松田刑事は、眉をしかめて頭をくしゃくしゃと掻いていた。
「他に誰かいないかな?素行の怪しかった奴とか……」
その時。
「そういえば!」
突然、馬場が素っ頓狂な声を張り上げた。
「どうしたの?馬場さん、急にそんな声だして?」
「あの時間、庭で若い女が走って帰って行くのを見たぞ!」
「若い女?」
馬場の話に松田とチャリパイの四人は、興味たっぷりに食いついた。
「誰なの?その若い女って!」
「いや…誰って、名前までは……確か、美佳ちゃんの友達じゃなかったかな……」
馬場の話では、犯行のあった午後八時頃、岡崎夫人と庭で逢い引きをしていた時に、ちょうど大学生位の若い女がひとり
屋敷から出て来て、何やらソワソワした様子で外へと出て行ったと言うのだ。
「暗くてはっきりとは判らないですけど……あれは確か美佳のお友達の『小島みどり』さんだったと思いますわ…」
そう呟いたのは、その時刻、馬場と一緒に庭にいた岡崎夫人であった。
「その『小島みどり』さんって大足のデカイ女性なの?」
子豚の質問に、岡崎夫人は首を横に振った。
「いえ…小柄な可愛い女性よ」
岡崎夫人のその答えに、松田は残念そうに肩を落とす。
「しかし、あの靴跡はどうみても男物の靴だったしな…血文字の『ババ』とも全く関係が無い。
その女は『シロ』だよ」
「よし♪それじゃあ~
小島みどりさんの捜査はオイラに任せてよ♪」
小島みどりに全く興味を示さない松田とは正反対に、シチローは俄然張り切って捜査を申し出る。
そんなシチローを、
ひろきが意地悪くからかった。
「シチロー、それって
ただ単に女の子に近づきたいだけじゃないの?」
「いやあ~、それもあるかも♪」
「ったく…これだから
素人は困る。まあ、多分『シロ』だろうが勝手にやればいいさ…俺は他の来客者をあたるよ…」
松田は冷たくそう言い放つと、鑑識の連中を集めて帰り支度を始めた。
「今日はこの位にしておこう……岡崎さん、その招待客リストは預かって行きます。皆さんには、後日お話を伺いますとお伝え下さい」
気が付けば、もう深夜である。
そう簡単には解決しそうにないこの殺人事件の捜査は、明日に持ち越しとなった。
「あ~あ、もうこんな時間だよ……」
時刻は午前二時を過ぎていた。
シチローの車でこのパーティーに来ていたチャリパイの面々は、おトキに代行運転業者を呼んでもらい、庭でその到着を待っていた。
と、その時!
ワン♪
「うわっ!」
シチローの背後から、岡崎邸の番犬であろう
ドーベルマンが突然飛びかかって来たのだ。
「ぎゃああああ~~っ!」
驚きのあまり、腰を抜かして地面に尻餅を着いてしまったシチローの、その上から犬が覆い被さる。
「あははは♪
今のシチローの顔、見た~?」
「ここの家、庭にワンちゃんがいるんだね♪」
すっかり噛みつかれると思い込んで叫び声を上げるシチローの顔を、番犬は人なつっこくペロペロと舐めていた。
「うぇ~っ!なんだコイツ!やめろってコラッ!」
そんなシチローの姿を見て、てぃーだが笑いながら言った。
「もしかしたら、その
ワンちゃんが犯人見てるかもよ♪
名探偵さん♪
教えてもらえば♪」
まだまだ解決の糸口が見えないこの難事件…
28センチの靴跡は、いったい誰の物なのか?
小島みどりと事件の関連はあるのか?
そして『血文字』で書かれた『ババ』の意味しているものは…?
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