第7話 勇者は去った。そして、おじさんが残った。

この世界、ペリエを創った古き神は「人間」が大好きだ。

だから新たに世界を創造したとき、どこかへ必ず「人間」を配置した。


◆◆◆


【古き神が創造した世界、ペリエ】


陸、海、空。


どこにでも、巨大な生き物がいた。


どこへ行っても、巨大な生き物が死んだように転がっていた。


かれらに食事や睡眠は必要ない。

かれらは創られたときから、完成体。


あとは力比べして、順番を決めるだけた。


世界は、とにかく広くて大きかった。

時間もたっぷりある。

かれらの中からそのうち魔王と呼ばれるたちが現れることとなる。


◆◆◆


【6,500年前】


ほかの魔王たちに襲われ、一番弱い魔王は逃げ出した。

勝てるはずがない。

後ろ脚を一本失っただけで済んだのは奇跡だった。


ほかの魔王は、不老不死。

でも、一番弱い魔王だけは特別。


「死ぬ」ことや「寿命」を神様がくれたのだ。



一番弱い魔王は、何十年も走り続けた。


逃げ続け、隠れ続け、何度も大きな海を渡った。

それをどのくらい続けたのか。

やがて迷い込んだ先に、大陸を発見した。

そこには、絶滅に追い込まれている「人間」がいた。


一番弱い魔王は、「人間」に同情した。

だからか、ほかの魔王や生き物に見つからないように隠し、守った。


ながい年月が経った。

「人間」は繁栄し、大陸からあふれ始める。


大陸のそとは危険だと教える。

ダメだった。


一番弱い魔王は「人間」を食べることにした。

一番弱い魔王は「人間」が大好きだった。


そして、終わりは来る。


通りすがりのおしゃべり魔王に、「人間」の存在がばれたのだ。


◆◆◆


【人類最後の砦 フォーファン】



「・・・おじさんっ、ホントに・・ごめんなさい」

片目の男子高校生が頭を下げた。


彼の左腕は、前回の戦いで失っている。

今回は左目。

そして、右手の指もほとんどなくなった。


もう、戦えないだろう。


「たっくん、キミはよく頑張った。あとはこの俺、スーパー強いお兄さんにまかせろ」


彼は頭を下げたままだ。


「日本に帰れば身体は元通り。彼女たちも待っている。力と記憶が消えるのは、まぁ残念だけどな」


顔を上げた彼からは、複雑な感情が読み取れる。


「・・・おじさんは、これからどうするんです?」


「そこそこ頑張ってみるよ」


「なぜ神様はおじさんにだけ、帰還の加護を渡さなかったんですか?」


「忘れてるんだろ。それより、おじさん言うな。俺はまだ35歳だ」


「・・・35歳・・・。自分の名前や家族の事は思い出せそうですか」


「たぶん、美人の奥さんに子どもは二人だな。かわいい女の子の知り合いもたくさんいたはず」


「・・・」


たっくん、ここはつっ込むところだぞ。


「・・・おじさんは、」


勇者たっくんは、まだ何か言いたいことがあったのだろう。

しかし、多くの人々が集まって、中断された。


お別れの時間だ。


俺はたっくんから離れ、遠くから黙って見守ることにした。


「勇者たつや様。我々は貴方様に救われました。心より感謝申し上げます」


「いえ、僕は・・・」


ともに戦った仲間たちが、前に出てきた。


「たつにぃ、元気出して」


「私たちが勇者様の力に成れれば、こんな事には!」


「すまなかった勇者君」


「勇者だけを呪う魔法か」


「あのくそ魔王がっ!」


勇者の仲間達のうしろには、家族やその子ども達がいる。

ずいぶん減った、と思う。


「ママ、なんでみんなここにきたの?」


「勇者様にご挨拶するためよ」


「あたしもするっ」


「ぼくだってするっ」


「ゆうしゃさま、おケガいたそう」


「・・・勇者様はここだとケガが治らないから、お家へ治しに行くのよ」


「おうちってどこ?」


「・・・遠い所よ。それより挨拶してきなさい」


「はーい」


「ほら、みんな行っておいで」


子ども達が、たっくんのほうへ駆けていく。

食料はまだ十分あるし、栄養は足りているようだ。

それにしても、たっくんは大人気だなぁ。


「ゆうしゃさま、おうちにかえるの?」


「・・・う、ん」


たっくん、下を向いてはダメだぞ。

顔を上げて、子ども達に笑顔を向けるんだ。


「すぐもどってくるんでしょ」


「いつ、いつ?」


「さぁさぁ、挨拶が終わったら後ろへお下がり」


「これで挨拶は終了だ。お礼もちゃんと言ったか」


「ゆうしゃさまありがとう」


「はははっ、おチビちゃんは言い忘れたんだな」


「それでは、勇者たつや様。より良き日々を、お祈りいたしております。陸と海と空に感謝を」


『「陸と海と空に感謝を!」』


「・・・」


たっくんがこちらを見てきた。

俺は無言でうなずく。


たっくんは右手を少し動かし、帰還の扉を呼びだした。

この扉を見るのは4回目だ。

あぁ、これでお別れかぁ。


いや、すまん。

強くなり過ぎた俺は、涙が出そうにない。


感慨にふけっていると、子どもが突然飛び出した。


「・・・そうだ!ケガがなおったらボクに技をおしえてよ」


すると、子ども達が次々とまえに出てきた。


「わたしも!」


「あたちも」


「ぼくがいちばんさいしょ!」


「みんなでまた、おべんきょうしたいな」


「「「「  わーい!  」」」」


子どもは敏感だ。

きっと気付いているのだろう。


勇者の仲間が、たっくんをかばう。


「お前たち、勇者様はお疲れだ。お休みさせてあげなさい」


「ヤダ!」


「ゆうしゃさまいかないで」


「いっちゃ嫌だよぉ」


「うぁああ」


「やぁあだっ!」


「やだやだやだぁー」


「おいてかないで、ゆうしゃさまっ」


大人たちに引きはがされる子ども達を見ると、心が痛む。


子どもが泣くと、何でこんなに悲しくなるのだろう。

俺はすごく強くなったはずなのに、いつの間にか泣いていた。


この世界の大人は、作り笑いがうまい。

でも今は、泣いてるようにも見える。



たっくんは去った。

勇者はもういない。


残ったのは、転移に巻き込まれた自分だけだった。



あの魔王は、こうなる事をたぶん知っていたのだと思う。

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