第28話 ここにいるわけ

 「ナイト・メアといいます」


 僕は自身満々に考えた名前を言った。


 「ナイト・メアねぇ。初めて聞いたよそんな名前…」


 パドレは自身の顎髭を伸ばしながら言った。


 「あの…」

 「ん?何かな」

 「もう一度聞きますが、あなたは元軍隊長なんですよね?」

 「そうだね…僕は元第5軍隊長パドレさ」


 先程の強さ…見事な剣捌き…強力な魔力…隊長言われれば納得がいく。


 だがなぜ元第5軍隊長であるパドレが魔人のエリアの村に…?


 魔人と戦う…魔人を討伐する存在のはずなのに…? 


 「パドレさん…あなたはなぜ元隊長の身でありながら今は魔人の村に住んでいるんですか?」


 僕は直接聞くことにした。


 「フフッ、恥ずかしい話しだよ」


 パドレは少し笑いながら話し続けた。


 「僕は言った通り元第5軍隊長で魔人との戦いを繰り広げてた…。でも僕は思ったんだよ。疲れた。そう疲れたんだ…俺は戦うことに嫌気がさしていた。そして、10年前の戦争時に大魔王ギザランと戦った…」

 「大魔王ギザランと…」


 僕はその名を復唱した。


 「そう…やっぱ強かったねぇ。完敗だったよ。僕は瀕死状態まで追いやれた。そしてそのまま前線から逃げたのさ…。なぜかって?そりゃ死ぬのが嫌だからに決まってんじゃん。僕はひたすら逃げた。走った。あとに残った仲間のことなんて考えずにね。最低な男だよな」


 パドレは窓の外の景色を見ながら続ける。


 「そして気づいたらこの村の近くまで来てたんだ。だけどその時にはもう僕は動くことさえできなくなっていた。そして倒れた。僕はマジで死を覚悟したよ。だけど目覚めたらベットにいた。そう…この村の魔人が僕を助けてくれたんだ…。僕は驚いたよ…。まさか敵である魔人が命を救ってくれんだってね。この村の魔人は皆んないい人だ。僕を疑う人も当然ながらいたが、僕を追い出すことなんてなかった。それからなんやかんやあり今にいたる……。それが僕がこの場所にいる訳さ」


 パドレは僕に語ってくれた。


 「僕はこの村に居座って気づいたんだよ…人間も魔人もさほど変わらないってね。今まで僕は魔人はもっと邪悪な存在として、教えられ、そう思っていた。だけどそんなことなかった」

 「あの…僕も魔人は人間と変わらないと思います」


 僕は思わず共感してしまった。


 「フフッ、君は記憶が無いんだろう?なのにそんなことわかるのか?」


 パドレは笑いながら言った。


 あっ…しまった。


 「あの…人間のエリアに戻ろうとは思わないのですか?」


 僕はパドレに質問する。


 「戻らないよ…だって戻ったらまた、兵として戦うことになる。僕はもう争いたくはないんだ。人間と魔人が変わらないと知ったからにはね。それに、人と人が血を流し合う理由があるかい?」


 ユユは真っ直ぐな眼差しで僕を見て言った。


 「そうですよね…」


 「それに今現状の生活にも気に入っているんだ」


 パドレは満足そうに言った。


 「ところで君は今後どうするの?人間のエリアに戻るのかい?」

 「あ…そうですね…僕は人間のエリアに戻ろうと思います」

 「やめときなよ…人間エリアと魔人のエリアの境目には魔の森がある…移動魔法とか使えないだったら、その森を通ることになる。でもその森は強い魔物が、うじゃうじゃいるよ。一般兵レベルなら間違いなく入ったら最後骨になるまで出てこれない」


 僕はパドレの説明にワクワク感が止まらなかった。


 強い魔物?ぜひ戦ってみたい!


 「大丈夫です。僕この見た目に反して強いですから!」


 僕は自信に満ち溢れて言った。


 「そうかい…じゃぁ気をつけてね。明日の朝に行くといいよ、今晩は僕の家に泊めてあげる」

 「あ…ありがとうございます!」


 幸運だ…これで野宿しなくてすむ。


 明日朝、また人間のエリアを目指そう。


 そういやネイン達は大丈夫かな?


 まあ、ネイン達なら大丈夫でしょ。




 「殺していいんだよな?」

 「ええ、皆殺しOKよ」

 「久々に刀の錆落としができるな」

 「ブハッ、楽しみだぜ」


 ゾルデニックからの使者がネイン達に迫る。



 キャラクター紹介

 パドレ

 元第5軍隊長。なかなかなの戦闘力をもっている。大魔王ギザランとの戦いにより負傷し、魔人達に助けてもらった。それがキッカケで魔人の村に居座る。


 話終歌

 争っていい理由なんてない。

 だが協力し合う理由は山ほどある。

 どちらも変わらないものなのにね。

 争い合う理由を都合のいいように肯定している獣だ。

 パドレ





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