第6話 僕にできること

 「戦争が始まるのだ」

 

 よっしゃ、きまったなこりゃ。僕の精一杯の魔王らしさを出したわけだが……。恥ずかしいな…


 『アハハハハハ!』


 アルネネと、キララと、コメコと、フカシギは、笑った。

 

 「な、なぜ笑う!なにが、可笑しい?」

 「いや、デーモン様らしくねーなと思ってな」

 「そうッスね。デーモン様がそんなこと言うなんて、思わず笑ってしまったッス。すいません」

 「ええことやん、デーモン様が、強気の性格に変わったってことやんね」

 「記憶喪失による性格変化ですか……興味がありますね〜ぜひ、経過観察させてください」


 まあ、前のデーモンは、僕とは違う人物だったんだから、性格が違うのは当たり前だ。人物と言ったが、魔王は人という分類に入るのだろうか、それともまた、別ジャンルに入るのだろか……。


 「だがヨォ、今のデーモン様が、私達の上に立つべき資格があるのか……ハッキリさせようぜ」

 

 アルネネが、そう言う。


 「どう言うことだ?」

 「簡単に言うとな、今のお前じゃ俺は下につく気がねーってんだよ」

 

 空気が変わった。あきらかに僕に向けて殺気を放った。

 

 「たかが、俺の拳術を受けて痛がってる様子を見る限り、ムカついてくるんだよなぁ?そんな程度なのかってな。いや、そんな程度まで成り下がったのかって。だからさ、証明してくれよ、俺を服従させるなにかを」


 真っ直ぐな、紅蓮色の瞳が僕を見つめていた。

 

 僕は内心ビビっていた。当然じゃないか、誰でも殺気立てた目で見られたら。しかし、言われっぱなしも、腹が立つ。いいだろうやってやるよ。

 

 「表に出ろ、アルネネ、そこで私に全力をぶつけてみろ。圧倒的絶望を味合わせてやる」


 この方法が手っ取り早い。ようはアルネネが言いたかったことは、今の僕に強さが感じないと思ってるのだ。当然だ。この世界に転生してからのヒヨッコなのだ。戦いに関しては右も左もわからかいレベルだ。


 アルネネを含めて、下部達には申し訳なく思う。様子を見ていると、僕の前の魔王、デーモンのことが本当に好きなのが伝わってくる。記憶喪失など、これしのぎの言葉で逃げているわけだが、本物のデーモンには僕のせいでもう会うことさえ叶わないのかもしれない。それどころか、失望をさせてしまうかもしれない。


 だけど、今は僕にできることをやるしかない。君らの好きな魔王にはなれない。だけど、君らの理想に近づく努力はしよう。まずは、最強の魔王を目指そう。それが僕にできる最低限の過程なのだ。


 そして、僕達は城から離れた荒野に来た。空は、どんよりしていて、雨が降りそうな雰囲気をだしていた。


 殺気だったアルネネを目の前にする。


 「俺に喧嘩を売ったんだ。覚悟はできているんだろな?」

 「勘違いするな、喧嘩ではない。これは、貴様に対しての調教だ」

 「以前に比べて、口が達者になったなぁ!」

 「御託はいい、さっさとかかってこい」

 

 そう言った次の瞬間、アルネネが僕の前から消えた。いや早すぎて見えないだけだな。


 「グゥ!カハァ!」

 「オラァ!」


 僕の腹に、アルネネ拳が突き刺さる。そのまま先ほど同様に吹っ飛ばされた。そのまま倒れ込む。


 やはり効く。呼吸がしにくい。痛い。


 「実はようデーモン様と、戯れるときは、一応手加減してたんだ、だけどヨォ!今日ばかしは本気でいかせてもらうぜ」


 肩を回しながらアルネネは言う。


 何とか立ち上がる。率直に強い。


 「まだまだ行くぜぇ!」


 僕に殴りかかるアルネネ。連打が止まらない。

 

「オラオラオラオラァ!!!」

「グゥ、ウウウ」


 殺人パンチで、数十発ほど僕を殴ると、次は僕の胸ぐらを掴む。


 「ふざけてんのかテメェ?反撃しとこいよ?戦う気あんのか?」

 

 戦う気は僕にはない。彼女を傷つけたくないのだチビ魔法使いとの戦いで、確かに感じた魔力、そして、恐ろしい力。それを使えば彼女に勝てるかもしれないが、彼女がどうなるのかはわからない。彼女を過小評価しているわけではないだが、彼女が怪我ぐらいで様とは限らない。最悪な場合があり得るのだ。

 

 彼女を、傷つけたくない。彼が守ってきたものを、壊したくない。


 だから、僕は耐え続ける。彼女の拳を。僕に僕に対する不満を拳に変えて放ってきてほしい。それが、今の僕にできる戦いなのだ。


 「私は、手を出さん……」

 「アァ?ふざけんてんのか?」

 「君を傷つけるわけには……いかないのだ…」

 

 彼女は僕に拳を放った。また、その勢いで殴り飛ばされた。僕は横たわる。


 「甘い事言ってんじゃねーぞ!」


 そう言って、横たわる僕の、腹を蹴り続ける。

 

 「グフッ、……ツ……」

 「ホラ、こいよ、ホラ!ホラァ!」


 蹴り飛ばされた。だけど、僕は立ち上がった。

 

 そして、彼女の目の前に立った。


 「君の知る、君の大好きな私ではない……だけど、私は私なりに君達を知ろうと思う。君達の理想にはなれない。だか、君達の理想を聞かせてくれ。できる限り近づけるよう努力する。だから今の場は気が済むまで私を殴ってくれ。それで解決するとは思ってはいない。しかし、私にできることは…それぐらいしかない…」


 僕の思いは、伝えた。


 「チッ!」

 

 彼女は僕に拳を放つ。だか僕の目の前でその拳は止まった。


 「わかったよ……どうやら、俺がデーモン様を理解してなかったみたいだな……前も今も、ちゃんとカッコいいじゃねーか」


 どうやら僕の気持ちは伝わったらしい。内心ホッとした。だって普通に殺されると思ったんだもん。転生早々にまた死ぬところだった。


 「デーモン様!大丈夫ですか!」


 ネインが、心配そうに僕に駆け寄る。


 「フッ、これぐらいかすり傷でもない」

 「そ、そうなんですか?さ、さすがあなた様!」

 

 とりあえず見栄を張ろう。だって痛がってたらかっこ悪いじゃん。

 

 「しかし、俺もビックリしたぜ!本当は全然きいてねーんだろ?俺の拳術。本気に殴ったのにな。きいたふりするなんて、余計なお世話だっつーの」


 普通に泣き叫ぶほど、痛かったけど、バレてなくてよかった。我ながら名演技だな。


 「わかったでしょう?デーモン様はたとえ記憶喪失になったとしても、デーモン様なのよ。」


 エヴァが得意げに言う。


 「フワァ〜終わった?」


 大きな欠伸をしながらレーンが言った。


 あとの下部達の個性的な反応は割愛させていただく。なにより疲れた。一旦寝たい。


 「じゃあ、第2ラウンド行こうぜ!」

 「え?」




キャラクター紹介

レーン

魔王デーモンの部下にしてNo.003。小柄な体なため、自分がチビなことを気にしている。本人いわく成長を貯めているらしい。


話終歌

自分を愛しているよ?

どんな見た目でもね。

だから愛してくれる?

答えは聞かなくていいや。

でも最後に魅せてあげるよ

それまで楽しみにね

レーン

 


 


 

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