第2話 それは大宇宙での出来事 (2/2)

新たな星で発見された物資は全てのベースキャンプ星に行き渡り、それでも余った分が大量に地球へと持ち込まれた。あれほど宇宙開発に反対していた者たちも、遺跡を次々と我らが青い惑星へと運び込む。


「隊長、俺たちは、このまま宇宙を支配できちゃうんじゃないんですかね」


人類飛躍のきっかけを作った宇宙船の隊員が嬉しそうに話す。


「そうなれば、俺たちは地球の英雄どころか、宇宙の英雄だよな」


別の隊員が同調した。


「こらこら、おごる平家は久しからずと云うだろう。あまり調子に乗ってはいかんぞ……。しかしなぁ……」


その功績により、高給取りとなった隊長が彼らをいさめる。


「もう、隊長ったら、平家なんていつの時代の話ですか。それに日本出身でないクルーには、そんな話し通じませんよ」


他の隊員たちが笑い出す。隊長も一緒に笑った。


「しかし、しかしなぁ……」


笑いながらも隊長の胸には、一抹の不安があった。


「うまく行きすぎてるんじゃ……」


隊長のつぶやきは、沸き立つ仲間の談笑にかき消された。


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惑星トゥルーの首都バセバセン。環境省の本部ビルに、一人の役人が入っていった。彼は”地球種対策課”の課長である。


「課長、部長のところへ行ってください。一連の業務報告を聞きたいそうです」


1045階の仕事場へ着いた彼は、部下に言われ、すぐさま2000階にある部長室へと赴いた。


「どうだね。”作戦”の進行具合は」


のっぺりとした、いかにも役人面の男がふんぞり返っている。


「は、はぁ、問題なく進行しております。我が対策課が技術部と作り上げたアレが、大変効果を発揮しておりまして……」


課長は汗を拭き拭き、丁寧に答えた。


この男、最近、彼らの宇宙近辺に出没するようになった「地球種」を何とかする為に、急遽たちあげられた部署の課長である。


彼としては「何で俺が……」との思いもあったのだが、努力の甲斐あって、何とか上へ報告できる結果を得ていたのであった。


「そうそう、アレはとても効果があるそうだねぇ。まぁ、血税を使って開発したのだから、そうでなくては困るがね」


昨晩はその血税で飲み明かし、いささか二日酔い気味のキャリア官僚がゲップをする。


「では、いちおう経過を報告してくれたまえ」


部長の冷たい目が、課長を一瞥する。


「は、はい。"アレ”すなわち技術部が開発したエサは、大変によく効いているようです。ご存じのように、奴らが言うところのホーサナイトという鉱物に似せた、毒の入った物質です。


地球種はさっそく群がっており、予定通り奴らの巣に持ち帰っているのが確認されています」


憐れな課長が、情報端末を見ながら報告する。


「それは誠に素晴らしい。だがね、きみ。中には鉱物に似せたエサに食いつかない連中もいるらしいじゃないか。そちらの対策はどうなっているのかね」


部長の言葉に、課長は慌ててこたえる。


「は、はい、そちらも対策は十分に取っております。従来のエサに食いつかない地球種どもには、別のエサをまいております。


確か奴らが言うところの宗教とかいう類いのエサでして……。これら複数の有効成分が、地球種を強力に誘引している次第であります」


ミスがない事を、強調する悲しき宮使い。


「では早晩、エサの中に仕込んである毒物が、あの目障りにうごめく連中をやっつけてくれるわけだね、対策課長」


自らの功績に出来そうな報告に、部長は白い歯を見せる。


「も、もちろんです。エサを使用した奴らは言うに及ばず、巣に持ち帰った毒餌も確実に効果を発揮して、地球種は遠からず巣ごと全滅するでしょう」


汗を拭きながら、対策課長は少し自慢げに言った。


無表情に戻ったのっぺり部長。彼のオフィスの窓から見える惑星トゥルーの空は、今日も赤々と晴れ渡っていた。


地球でゴキブリホウサン団子が開発されてから、ちょうど300年後の事である。

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それは大宇宙での出来事 (短編) 藻ノかたり @monokatari

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