それは大宇宙での出来事 (短編)
藻ノかたり
第1話 大宇宙時代 (1/2)
未来。人類は宇宙へ飛び出す技術を確立した。まぁ、宇宙と言っても余り遠くへ行けるわけではない。ロケット燃料の問題、食糧問題、様々な理由から一定以上先には進めなかった。
だが人類は知恵を絞る。一回の飛行で遠くへ行けないのなら、登山のベースキャンプのような場所を作り、そこを基点にまた新たな旅を続ければ良い。人々はベースキャンプになる惑星や衛星を見つけだし、更なる深淵へと宇宙を開拓していった。
「隊長、この辺りには、ベースキャンプになりそうな良い星は見つかりそうもありませんね」
「確かにな。しかし我ら人類の探査装置を信じよう。これのおかげで、今まで幾つもの役に立つ星を見つけてきたのだからな」
第35番ベースキャンプ惑星から飛び立った宇宙船内の会話である。
彼らの任務は、新たな足がかりとなる星の発見だ。宇宙船には特別なセンサーが搭載され、近くの星に水や大気、貴重な鉱物などがないかをくまなく調べていく。もっとも、誰が探しても上手くいくというわけではない。専門の技術や、長年の経験を有したクルーが必要なのだ。
彼らは大量の燃料や食料を積み込んで、宇宙の隅々まで旅をする。そして彼らの成功は、いま目の前に訪れようとしていた。
「隊長、センサーが反応しています。希少鉱物、ホーサナイトの反応です。こ、こりゃぁ、半端な埋蔵量ではないですぜ」
センサーを見つめていた隊員の一人が叫ぶ。ホーサナイト鉱石は宇宙探査に不可欠なだけではなく、母星の発展にも欠かせないものである。
「あわてるな。わかっていると思うが、宇宙線の影響でセンサーが誤作動する事もある。今までヌカ喜びした経験が、何度もあったのを忘れるな」
期待が大きければ、間違いだった時の失望も大きい。隊長は冷静さを求めた。
「ですがね、隊長!」
興奮を抑えきれない隊員は、隊長に半ば食って掛かる。
「そう、興奮するな。どれどれ、確かに大きな反応だ。これはひょっとすると、ひょっとするかも……」
普段は冷静な隊長も、いつになく胸が高鳴っている。
「よし、加速度を上げろ。センサーが示す惑星に全速前進!」
宇宙船は目指す星へと進路をとり、希望と共に突き進んだ。
果たしてそれはセンサーの誤りではなかった。惑星に到達した彼らが念入りに調査した結果、すばらしい純度のホーサナイト鉱石が大量に発見されたのだった。また、この星には知的生物はもちろん、人間の害になるような生き物も全く見あたらない。細菌などは詳しく調べてみないとわからないが、簡易検査では全く異常は認められなかった。
「こりゃぁ、俺たち英雄あつかいですね、隊長。これだけのホーサナイトが見つかったのは、有史以来初めてですよ。宇宙探査用だけでなく、地球へ送る分までタップリありますぜ」
ほれ見た事かと言わんばかりに、この星を最初に発見した隊員が息巻いている。
隊長は苦笑いをしつつ、ベースキャンプに連絡を入れた。追々本格的な調査団がこの星を訪れ、新たな大ベースキャンプが建設されるだろう。そうなれば更に人類は、宇宙開発へと邁進する事が出来る。
「しかしあの連中、また言いがかりを付けてくるんじゃないかなぁ」
別の隊員が、ふとつぶやいた。
「あぁ、確かに……」
隊長の言葉に、他の隊員たちもそれぞれ頷く。
あの連中とは、人類の宇宙開発に余り乗り気でない集団の事で、主に宗教指導者たちが中心となって反対運動をしていた。行き過ぎた科学は神を冒涜するものであり、人類の宇宙進出も身の丈にあったレベルにするべきだと主張しているのだ。
しかし、隊員たちの心配は杞憂に終わる。
この希少鉱物が大量に眠る惑星の発見は、各ベースキャンプ星はもちろんの事、本国地球でも歓喜を持って受け入れられた。そしてこの星の発見こそが、人類の更なる飛躍の礎となったのだ。
ホーサナイト鉱石の大量使用により、センサーの感度は著しく向上した。そのおかげで他の鉱石をはじめ、宇宙開発に必要な物資が蓄えられている星々を、今までよりずっと速いペースで見つけられるようになった。
その事は反対勢力にも変化をもたらした。宇宙での活動範囲が広がった事により、かつては文明があったであろう星が幾つか発見され、そこでは宗教的な遺跡も数多く見つかったのだ。
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