年末進行から帰ってきたら東京砂漠から帰省した弟が三匹の子供を連れて帰省している話

新棚のい/HCCMONO

第1話

 年末進行は年始に差し掛かる寸前に終わった。すべては「一月四日の朝までに提出してくれれば大丈夫ですぅ♡」などと抜かす元請けの若造のせいで紅白歌合戦を見る暇もなく、ゆく年くる年が始まるまで働く羽目になったのだが。

 幸か不幸か地下鉄の年越し夜通し運行のおかげでタクシーを使わずに家に帰ってこられた。この時期のタクシーはそう簡単には拾えない。拾うまでに凍死する。

 一秒でも早く布団に滑り込みたい。その一心でくたびれた身体を引き摺って最寄り駅から徒歩十分を走る。気持ち的にはここが箱根だ。

 ゴールテープを切る気持ちで門扉を開けて、二段飛ばしで玄関までの階段を登る。あとは家族共を起こさないようにゆっくり玄関扉を開けて、自室まで摺り足で進めば優勝確定!

 ……のはずだった。どうして廊下に明々と灯りがついているのか。どうしてリビングから大音量でマツケンサンバが流れてくるのか。

「遅かったな。年越しそば食うか? もう年明けたけど」

 リビングからこちらに首をにょきにょき伸ばす若かりし頃の父……に似た弟。貴様は東京砂漠で死んだんじゃなかったのか。

 そして見覚えがない幼児三匹くらいが弟の下方から生えてくる。

「「「ねー、お年玉ちょうだい!」」」

 何だこいつら。座敷わらしかよ。いや、常識的に考えればコロナ禍中に弟がこさえたガキか。つまり甥だか姪だか。

「こら、いきなりお年玉をせびるな」

 そうだそうだ! いいぞ弟! 早くそのガキ共を根こそぎ引っこ抜いて東京砂漠へ帰れ!

「ちゃんと「あけましておめでとうございます。おばさん」を最初につけろ」

 叱るところはそこじゃねーだろ。

「「「あけましておめでとうございます。おばさんお年玉ちょうだい!」」」

 初対面のガキにおばさんと呼ばれる覚えはない。正しくおねえさんと呼べよクソガキ。

 つーかお年玉袋なんかないんだが。今からコンビニまで買いに走るのがダルいし面倒臭いから茶封筒に百円玉入れて表にアンパンマン描くしかねぇな。

 一秒でも早く家に帰りたい。帰るも何もここが自分ちだけど。

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