第857話

 38階層にやってきた。オークと同じような森林で、特に変わっていないように思える。そこにいるのはヨボヨボのおじいちゃんオークだ。若い時にあったはずのあの腹回りの脂肪がなくなっている。さらに猫背になっており、本来の背丈が小さくなったように感じる。これで本当に戦えるのか?見た目を見た瞬間そう思ってしまった。


 だが、隠れているはずの俺の方を向いてきた。一応、隠密を発動しており、バレることはないはずだ。まさか、熟練度の高い気配察知を持っているのか?少し冷や汗が出てくる。最悪向こうの方がレベルが高い可能性が出てきたからだ。だが、それも杞憂に終わった。


 そのままくしゃみをしたのだ。それと同時に何かを飛ばしてくる。念の為避けておくか・・・。そう思いながら後ろにある木を盾にし、体を隠す。ガンッと木を揺すりながら、その飛んできてものが木とぶつかった。そして飛んできたものを確認すると、それは入れ歯だ。


 上顎と下顎がセットになっているものが飛んでき、幹に噛み付いている。さらに、入れ歯は今も動き続けガブガブと噛み続けている。呪いがかかっているのか?なんかのホラーゲームのモンスターとして出てきそうだな。歯を観察していると大きさがバラバラなことから、戦利品か何かだろう。


 ヤンキーが倒した相手の歯や爪を集めるみたいな感じか?あれって実際にあるのかは知らないがこのオークにはあるようだ。それ以前に、人の歯を口の中に入れるなよ・・・。汚いなー。気配察知など持っておらず、たまたまだったようだ。


 その入れ歯を回収するためにゆっくりと近づいてくる。周りを見ると音を聞きつけたのか、数匹の同じようなオークがいる。その目的地はここだった。動きも遅く簡単に避けることはできるが、急に加速したりしてくる可能性がある。


 観察するために木を伝いながら後ろに下がり、木の上から見下ろす。ほぼ同じようなタイミングで集合したオークに対して、一緒に行動するのかな?とワクワクしていただ、その興味も一瞬で冷めてしまった。その原因は入れ歯の取り合いが始まったからだ。


 その対抗しているオークには、全て入れ歯がついている。認知症か?本当におじいちゃんのようだ。性別はわからなけど。その取り合いも時間が経てば収まっていく。そして、戦っていた理由もわからなくなったのか、後ろを振り向きどこかに行った。


 一応入れ歯のところを見に行くと、木の幹が大きく削れている。一応オークなんだな・・・。歯茎がまだ動いており、その歯茎の一撃で木が折れてしまった。結局歯茎は持って帰らなかったようだ。・・・無駄な戦争だな・・・。

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