第211話

 あらかじめ、対策として煙玉を持ってきているようだ。それを地面へと叩きつける。これで視界が見えなくなった。気配探知があれば、どこに人がいるのかがわかる。だが持っていなければ、どこから攻撃がくるのかがわからないという恐怖から、動くことができないだろう。


 わからないというのはお互い様なのでは?錬金術師が気配探知を持っていると思わない。気配が大きくなったということは攻撃を仕掛けるのか・・・。動いていない弓に、毒の瓶を投げつける。地面に当たりパリン、パリンと音をたて割れた。音が出た瞬間から移動を始める。


 だが、その移動先は毒が出ている方だ。あの煙はもしかすると幻影の効果がついていたのかもしれない。それ以外だと、方向音痴だったことになってしまう。やっとのこと煙りが晴れてきた。まだ立っているようだが、足元がふらついており辛そうだ。


 火弓を構え放つ。横に飛び込み回避をしたのだが、追尾をしている。初めに設定をしていたのか、操作をしているのかがわからないが避けることができない。ここからは時間との勝負になる。毒により気絶をすることになるのか、矢が当たり負傷をするのかのどちらかだ。


 麻痺毒を飛ばさなかったのが敗因だな。麻痺で動きを鈍らせてから毒をばら撒いたり、喉に武器を当てるでもいい。手を隠したかったのかもしれない。そんなことができるのは強者か、お互いに手を抜いている時だけだ。今回の場合は、魔法弓の方は本気で潰しにきている。


 ホーミングのスピードが上がる。おそらく加速を開始したのだろう。錬金術師の腰あたりを貫く。それだけではない。持っている瓶まで壊した。破けた服に、壊れた毒瓶。何が言いたいのかわかっただろう。自滅だ。自分で作った毒に自分でかかってしまった。


 元々生産職ということもあり、スタミナも少なければHPも少ない。もっと時間を稼ぐことができていれば話は別だが、勝負は決まったも同然だろう。毒を消そうと転がっているが、それだけで消えるわけがない。水で洗い直すか解毒してもらう必要がある。


「もう決まりか・・・」


 そう呟いた頃にはリングの上に錬金術師君が倒れていた。放送部の実況が盛り上がっているようだ。あの状況からでは、錬金術師が勝つと誰もが思っていた。だが、それの曇天返しだ。これは盛り上がるだろう。真っ先に直さないといけないのは錬金術師君だ。急がないと死んでしまうだろう。


 そのことは、弓使いさんにもわかっているようで、頷いている。と言っても顔色は悪いのでささーっと終わらす必要があるそれだけだ。面倒くさいが、魔力を込める。


「キュア」


 そう唱えた。まだレベル9にまで行っていないのでハイキュアまでは使うことができない。というか使う機会がない。俺は毒も効かないし、怪我も回復する。幸いレベルが低い毒なので、簡単に治すことができた。念の為に「ヒール」もかけた。


 弓使いさんの方に行こうとしていたのだが、目が覚めたようだ。一安心一安心。こっちにもキュアをかけ終わった時だった。後ろで何やら気配が膨らむ。なんだ?と思っていたのだが、毒瓶が背中に当たり割れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る