フユキとの毎日

 外が明るくなったばかり、僕とフユキは六階から階段を下りていた。寒くて顔が痛い。


「今日は雨じゃないから昨日よりいいね」


「雨の日に困らないようにさ、屋根があって誰も来ない場所を探そう」


 フユキは頭が良いと思う。僕より強くて、いつも僕を助けてくれる。さっきも追い出される前、頭の中で「ハルキ、かわって」って聞こえた瞬間、テーブルに置いてあった飴を二つポケットに入れていた。

 だから今日は飴が食べられる。フユキのおかげだ。




 ベランダに出たことを知られた日、フユキは僕と入れ替わった。怖くて痛くて動けずにいた僕をフユキはものすごい強さで奥に押しこんだ。フユキの後ろの白い空間で僕は泣いていた。

 

 フユキが叩かれている。フユキも泣いている。口の中に雑巾が入っているから声は出ない。でも、フユキの苦しさは伝わってくる。



 真っ白い場所からフユキを見ている僕は……弱虫だ。



 あの日から、僕らは部屋に閉じ込められなくなった。今度は、外で居場所を探す毎日になったんだ。


 お母さんは、僕らがいることを誰にも知られたくないんだって。お父さんが勝手に連れてきただけだって。だから僕らを見ないし、いないと同じだから家にいてはいけないって。


 僕とフユキがベランダから手を振ったことは、お母さんにとって困ること。お父さんとお母さんがいない時間は外で待つことになった。

 

 朝に玄関を出る。夜は何時かは分からない。駐車場の車がたくさんになって、公園の灯りが消えて、誰も通らなくなた頃フユキと一緒に六階の階段で耳を澄ますんだ。

 そうするとお母さんの足音が聞こえてくるから。


 コツンコツンという音が僕は好きじゃないけど、よく聞かないと間違えたら朝まで階段で寝ないといけない。寒くてかたい階段より、お布団がいいからフユキと協力して頑張るんだ。


 

 

 ――まだ太陽は暖かくなってくれない。歩いていると、ランドセルの長い列がいろんな所から現れるんだ。僕とフユキはなるべく隠れたい。なぜだか分からないけれど恥ずかしいと感じてしまうから。


 なのに本当にあっちこっちからランドセルが出てくるんだ。チラリと見られることもあって、いつもこの時間は何処に行けば良いか悩んでしまう。


 そんな僕らは、毎日知らない道を歩きながら遊べる場所を見つけるんだ。



「ハルキ、今日はこの長いみどりの道を行こう」


「これ知ってる。土手っていうんだよ。前にお父さんと従姉妹と遊んだ道に似てる」


「この道ずっと続いているから迷わないな。なんだか滑り台みたいに斜めだし、草がいっぱいあるから転んでも大丈夫だ」



 フユキに言われて足もとの草をじいっと見た。



「フユキ、おっきい葉っぱの草、食べれるのってどれだったかな」


「葉っぱ酸っぱいけど、たくさんあるから今日はご飯に困らないなハルキ」



 ずっと前にお父さんに食べられる葉っぱを教えてもらったことがある。どんな葉っぱだったかもう忘れてしまったけれど、僕らは気にしなかった。食べるものがあると思うだけで今日は幸せな日だ。



「フユキが持ってきた飴もあるしね」


 僕らは笑い合った。





 お父さん……知ってた?



 僕らはこうして、一日ずつ生きていたんだよ。

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