6 食堂で起きたのは奇跡的な修羅場回避でそれを目撃した人は多数あったので しばらくは皆は話題に困らないと思うやっぱり超鈍感男は最強




昼休み、食堂で彬史が四人掛けのテーブルで

一人で食事をしていると三人の女性が近寄って来た。


昨日は彬史の入籍宣言があり、

その噂はあっという間に社内に広がっていた。


「ここ、良いかしら。」


三人はトレーに昼食を乗せている。

彼の食事はもう終わりかけだった。


「あ、ああ、どうぞ、みんな久し振りだね。」


と彬史はにっこりと笑った。

三人も同じようににっこりと笑って席に着いた、が、

周りの者はそれを見て顔色が変わる。

急に静まり返り皆はそこを見た。

食堂の調理室から聞こえる食器の音だけが響いていた。


「築ノ宮さん、ご結婚されたんでしょ?おめでとう。」

「いやあ、そこまで話が広がっているってびっくりだな。」

「もう社内中持ちきりよ、どこで会った人なの?」

「私達にも紹介して欲しいわよねぇ、そう思うでしょ?」


三人の女性は顔を合わせて微笑んだ。

この彼女達は一時彬史と付き合った事のある女性だ。


周りはシーンとしている。


「そうだなあ。」


彬史が口を開いた。そしてにっこりと笑った。


「機会があれば会って欲しいよ。本当にいい人なんだ。」


彼女達が一瞬真顔になる。


「それで君達に僕は謝らないといけない。」

「「「えっ?」」」

「彼女に叱られたんだよ。

もっと女の人の事を考えろって。」


それを聞いた三人が顔を合わせた。


「いい加減な気持ちで付き合うなって言われた。」

「それって私達のこと話したの?」

「まあ、それで叱られたんだ。」


彬史が姿勢を正して頭を下げた。


「本当に悪かった。」


食堂はほぼ満員だった。

この四人の事情はみな知っている。

何しろ彬史は隠さないからだ。

そして彼は人前で自分が悪かったと頭を下げた。


食堂は相変わらずシーンとしていた。


彼女達は一瞬あっけに取られたが、

一人ががつがつと食事を始めた。

それを見た二人も勢いよく食べ出す。


「全く、あなたはいつもそうよね。

ちゃんと叱ってくれる人で良かったわ。」

「ほんと調子良くて呆れるわ。もっと叱られると良いのよ。」

「結婚したんなら今迄みたいな事したら

嫌われるわよ。」


食べながら彼女達は口々に彼に言う。


「ああ、分かった。頑張るよ。」


と彬史は笑った。


「じゃあ、悪いけどお先に。」


と彬史が立ち上がり食堂を後にした。

周りはやっといつもの様子に変わる。

だがテーブルに残った三人は急に勢いがなくなった。


「ねぇ、どう思う?」


そしてぼそぼそと喋り出した。


「あんな風に謝られたら毒気抜かれる。」

「うん、あいつと付き合ったと言っても

こっちが押しかけたようなものだから。」

「だよね、色々となんか買ってくれたけど

ちょっとそれ目的もあったし。」

「やっぱり?

それであんまり反応が無いからあいつの服も買ったけど

いつもテキトーに着てるだけだったよね。」

「見た目は良かったけど。鈍感すぎ。」

「でもさ、」


一人が小さな声で言った。


「下着の柄のセンスは酷かったよね。」

「うん、パンダ柄とか、ペイズリーかと思ったらゾウリムシだったり。」

「私の時は風呂敷柄にハムスターがヒマワリの種持ってた。

しかもハムスターが結構でかい。股間にバーン。」

「そんなものどこで見つけるんだろう。」


三人は爆笑した。


「まあ、しょうがないな。」

「だね。」

「みんな、もっといい男捕まえよう。」

「下着のセンスがいい人ね。」


そろそろ休憩時間が終わる。


と言う事で修羅場は回避されたようだった。


だが彬史は全く気が付いていなかった。

早く帰って波留と良いコトしたいなとしか考えていなかった。

全くもって呑気なものである。








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