3 本人は見た目は優男だが超鈍感でやたらと押しが強くて 自分がこうすると言ったら絶対にそうするので皆諦めているある意味最強の我儘男




「なにっ、君、結婚したのか。」


久我の声がフロア中に響く。

かなり驚いたのか大きな声だった。


「はい、昨日入籍しました。」

「この会社の人か?」

「いえ、違います。」


部長の久我のデスクの前で彬史がにこにこしながら言った。

久我の声は響き渡ったのでその部屋の中にいる全員そちらを見た。


皆驚いた顔をしているが、

中には顔を押さえて俯く若い女性が結構いた。

そしてなぜか泣きそうな顔で部屋を出て行く男性も数人いた。


「と言うか、一応結婚前に会社側に報告して欲しかったんだが……、

それで結婚式とかは。」

「申し訳ありません、事情がありまして。結婚式は挙げません。

なのでご祝儀も必要ありません。」

「もしかするとできちゃった結婚、いや今は授かり婚だな。」

「いえ、違います。

本当に昨日でないとだめだったんです。

何故と言われても説明のしようがなくて、

しろと言われればしますがかなり長くなる事をご覚悟頂きたい。

なのでしません、そう言う理由です。

ぜひともご理解頂けるとありがたく思います。」


彬史は盛大ににこにこしながら久我に迫った。


久我には彬史は部下になる。

人当たりの良い上司で部署内をうまくまとめているが

人が良すぎて押しの強い彬史にはいつも負けてしまう。


彬史は仕事が出来るのでいつも彼の言う通りにしていたが、

今回もすでに負けていた。


「ま、まあ、めでたい話だし……。」

「ありがとうございます!」

「とりあえず人事の方に届けを出してくれるか?」

「はい、行ってきます。」


と彬史はにこにこと笑いながらフロアを出て行った。

久我がそれを見て放心したように椅子に座った。

そこに渡辺由美子が久我に寄って来た。


彼女はここの古株だ。

彼女もよく女子社員の面倒を見ており皆に慕われていた。


「久我部長、驚きましたね。」


彼女は久我に話しかけた。

フロアでは何人もの女子社員が机に突っ伏して泣いていたり、

他の社員に慰められていた。

だが若い男性社員はなぜかみなにこにことして、

お互いに小突き合っている。


「いやあ、ホント驚いた。

渡辺さんは何か知っていたかね?」

「いえ、私も何も知りません。

ともかくみんな知らなかったんじゃないでしょうか。」


彼女は泣いている女子社員を見て少しうんざりした。

今日は仕事の進みが悪くなるだろう。


「でも築ノ宮さんは自分がこんなに人気があるなんて

気が付いていないんでしょうね。」

「全然気が付いていないと思うぞ。

でも結構遊んでいたみたいだがな。

彼は来るもの拒まずだったから。

社内でも何人か付き合った人はいたらしいが

全然長続きしなかったし。」

「社内恋愛はご法度なんじゃないですか?」

「君、それを築ノ宮君に言えるか?」


由美子は少し考える。


「出来ません。

言ってもあの人はお構いなしです。

まあご法度と言っても陰では付き合っている人は結構いますが。

それであの長い髪も何度も注意しましたが直しません。」

「だろ?

なんかにこにこするだけで済んじゃうんだよ。

確かにとてつもないコネでこの会社に入ったけど、

そんなの築ノ宮君には関係ないみたいだしな。」

「そうなんですよね。

仕事は超出来ますし、にこにこ迫られると

何だかどうでも良い感じになっちゃって。」

「仕事はきっちり結果を出すからなあ。」


二人は同時にため息をつく。


「それで付き合った人は社長秘書とか

我々にとっては高嶺の花ばかりで羨ましい、」

「羨ましいとは。

そう言えばお嬢様は今年中学生になられましたね。」


由美子がじろりと久我を見た。


「いやいや、だからどんな女性と結婚したんだろうな。」

「式も挙げないと言っていましたね。」


女性社員は泣いているが男性社員はご機嫌だ。

彼らがそんな様子なのはいわゆる恋のライバルが減ったと言う事だろう。

由美子はフロアを見た。


「しばらくすると

ブライダルラッシュが始まるかもしれませんね。」

「ラッシュ?」

「築ノ宮さんは縁結びの神様かもしれませんよ。

それで我々はご祝儀をはずまなければなりません。」


久我の顔がすぅと真顔になる。


「築ノ宮君はいらないと言ったが……。」


由美子がしたり顔で言った。


「他の人は分かりません。」


めでたい話は連鎖する。

そう言うものだ。






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