世界

 朝起きると、シドは、ヨミンをベッドに寝かせていた事をおもいだした。自分はリビングの堅いソファーでねていたせいか腰が痛む。

「は、ハックション!!」

 ぼーっとして考えた。そもそもおかしくないか?何かが、自分にある強烈な違和感。そうだ……この人は女性だ。いままであまり意識はしていなかった。というのも、ルカに姿が見えなかったというのもそうだし、どこか異世界的なたたずまいと衣服もそうだ。羽根型の奇妙な髪留めは、この世界であまりみないような幾何学的模様をしている。

(いったいどうしてこんなことに?)

 そんな事を考えていると、ゴソゴソと寝室で物音がした。

「おきた?」

 顔をだして、シドは顔を真っ赤にした。無防備にだらけた衣服と、彼シャツならぬ彼ジャージ。寝ぼけた様子の隙だらけの表情や大きく開けた口元。女性に忌避感すらある彼ですら、その美貌と神々しさに言葉を失った。

「あ、おはようございます、シドさん」

「ほ、ほにゃよう……」

「?」

 眠たい目をこすって、ヨミンはシドを見つめた。

「この世界では、あさの挨拶は舌をかむ決まりでもあるのでしょうか?」

 いやに自分の恥を指摘されたような気がして、プンとしてすねると、すぐさま朝食にとりかかるためキッチンにむかった。

「何をするんですかあ?」

「男のつくるものだから、我慢してくれよ」

 冷蔵庫とコンロ、流しを行き来していると、その肩にぴったりとひっつくようにヨミンが顔をのぞかせた。

「できた!!」

 キラキラに光る目玉焼き、わずかばかりの千切りに、ミニトマト。炊き立てのご飯に、雑な材料の味噌汁。

「ご、ごめん……口に合うか」

 そういうそばから、人の話を聞かずに味噌汁をかけこむ少女。

「……」

 固まったように半目で無表情になった。

「あのー……ヨミン?ヨミンさーん」

 彼女の前で手を振って見せると、ようやく一呼吸おいて、彼女は大げさなリアクションをとった。

「うーん!!おいしぃいい!!!」

 うれしそうな顔。天真爛漫な様子。ツルツルとした肌。優しげな瞳、すぐにそれから目をそらした。すると、彼女は何かを悟ったように、シドをじっと見つめた。

(私……避けられてる?)

 ふと、話題を変えるために、シドにいった。

「英雄、シド様」

「いや、英雄じゃないけどね」

「私が来た事で、この世界に異変が起きたはずです、きっと……今まで人間が“見る事のできなかった世界”を見る事ができ、開くことのできなかったダンジョンの扉を開くことができるかも」

「ダンジョン?」

「ええ、人間がただのオブジェと思っている構造体の事ですよ」

「ふむ」

 まじめに考えているシドに突然、ヨミンは頬をつっついた。

「……」

 シドは赤くなったかと思ったら突然青くなった。

「き、キヨェーエ!!!何をなさるんで!!!」

 シドの前に、恐怖の記憶が思い出される。姉のしごきの記憶が。

「女の子が、こわいんですかあ?」

 優しい顔が頬杖を突いて自分を覗き込んだ。

「そんなこと、ありますん」

 ニヤリ。と笑うと、ヨミンは突然自分の前髪をかきあげ、おでこをシドにあてた。するとシドは、えびのようにそりかえり、真後ろに垂れ込み気お失ったのだった。

「あれ??」

(体術スキル強化されたのかしら?)

 と、ヨミンはとぼけるのだった。





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