理不尽 病室 ミカ 魔法局

 ルカは、病院に急いでいた。父の少ない仕送りとバイト代……その行く先は、彼女のためだ。

「ミカ!!来たよ!!」

「お兄ちゃん!!」

 妹は、昔からルカの事が大好きだった。昔野犬におそわれたときに、ルカは真っ先にたすけにきてくれた。ルカの右腕には、深い傷が残り、それ以来血を恐れるようになった。母が死んで、継母があらわれて、その人がひどい人だったときも、ルカは妹の事をまもった。ヒステリックな母はタバコの火をおしあてたり、ものをなげつけたりしたが。ルカがほとんどひきうけた。丁度、今のシドのように。


「お兄ちゃん、今日はね、鳥さんが3匹に増えたよ、きっとこの近くに巣があるのね」

「そうだったのか」

 ミカは、ノートを開いた。そこには美麗な鳥のイラストがあった。彼女の難病を、決して感じさせないような、芸術的なイラストだった。短い髪は跳ね上がり、無邪気な顔は、ネコのようにつりあがって少し細いが、愛嬌とかわいらしさがある。ツンとした顔ににあわない優しい子だ。


「お兄ちゃん、お兄ちゃんは今日、学校はどうだったの?」

「ああ、兄ちゃんはな」

 

 ルカは、シドとの立場を逆転して出来事を語った。ルカが自分の体の汚れを不審がらないように。同時にシドへの罪悪感も芽生えた。また、何かお礼をしなければいけない。明日食事にでも誘おうか。でも明日は、バイトが詰まっている。


「ルカ、元気になったら、俺の親友にあわせよう、本当にいい奴なんだ……」

 ふと考える。そのときになったら、真実をすべて明らかにしよう。自分が魔術など使えないってことも。エリート魔術師なんて、嘘をついているが。


「お兄ちゃん……」

 物悲し気に、ルカは病室の窓からそとをみた。

「でもいいの、私、幸せだから、あの鳥みたいに巣を探して旅をしていたなら、私の最後の巣はここでいい、だって、お兄ちゃんがここにあいにきて、世界の話を色々きかせてくれるから」

 ルカは、顔を歪ませて笑った。そして、スマホをとりだし、撮りためた写真をみせながら、かすれた声でいった。

「ああ、たくさん世界をみせてやろう」

 それが幻想でも、人を幸せにできるだろうか?


 シドは、隠れながら風呂をでた。美女が自宅アパートにくるなんて……あまりにあまりだったから、先にシャワーをかしたが、こうした事ははじめてだったので、後から入ったことに気後れさえ感じた。

(どうして、どうして?これでいいのか?これはいいのか?そうだ……魔法局に連絡しなくては?)


 そう考えたとき、脳に電波がはしったように、彼女ヨミンの声が聞こえた。

「それはやめて下さい、私のことは、なるべく人に知られたくないから……あなたと、この世界の秩序を壊さなければならないから」

「……??」

 風呂場をでて自分の、部屋を見渡す。ヨミンの姿がない。リビングへ向かう、寝室にも、ヨミンはいない。

(なんだ、全部夢だったか)

 シドは、おちついて寝る準備をして、布団にはいった。そして、奇妙な二つの感触を背中に感じた。ふりかえる。

「ふふ」

 かわいらしい美少女が自分の背中にぴったりだきついていた。

「で、でたああ!!!」

 あまりに驚くので、隣人からカベドンをされ、少女は申し訳なさそうにいった。

「だめ、でしたか?」

 上目遣いでいってくる。

「いや、だめでしょ!!」

 まるで子犬をしかるようにいうと、少女はしょぼんといって、となりのベッドにうつった。そしてポツリといった。

「ケチ」








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