沈黙 ブラフ オド。

「え?あれ?」

 遥か数メートル先で横たわるクランク。その様子を傍らで見ていたルカ。何が起こったか、がはっきりと理解できた。ルカはシドの事を普段からよく見ているから、何をしようとしているかがわかった。きっと上空からの魔法を使って、敵を倒そうとしているのだと、“魔法”はハッタリだ。


“探知系”の能力者であるルカにはそのことがはっきりわかった。さきほどの“リフレクト”も大方彼の“叔母”である例の教師に“パラレル”アイテムでも借りたのだろう。


 だが、その日はまた一層奇跡を感じた。シドのフィジカル、機転の利くハッタリ、ブラフはいつものことだ。それだけじゃない。今までどれだけ努力しても勝ち取れなかったもの。“魔法”を彼がつかったのだ。“エアロ・バレット”は、上空から炎が降り注ぐ前に発動した、だから敵は姿勢をかえ、それ自体は命中しなかったが、エアロバレットによって、クランクは吹き飛んだ。ルカはそのことを伝えようと勢いよく彼に駆けつけていった。


 その少し前、その上空、もとい“ウィッチ・ジッパー”の向こうでは、おしりだけだした少女の“上半身”が熱心に活動を続けていた。

「どうしてなのよ!!最悪だわ本当!!」

 井戸にはまって、身動きが取れない少女。

「ウィッチザレストの謎を解明しようとして、その端まできたのが失敗だった、まさかここまで“汚染”が始まっていたなんて」

 後ろをみると、上空に浮かぶ球体の鈍く半透明の青い空間に稲妻が走っている、下部は霧でおおわれている。正面をみると、立ち入り禁止の札とともに、ありあわせの鉄や木でできた柵がその周囲をおおっていた。

「我ながら、考えなしだったのね……もしかしたら“向こう”には、お父様とお母さまがいると思ったのに……」

 また振り返り、空を見上げた。

「はあ、ウィッチ・ザ・レスト」

 その空間は、“実験”によっておこった。少女の世界は魔族と人類が永続的に戦っており、人類は“召喚術”によって、異世界の猛者を召喚してその軍勢をつよめており、国が集まり連合国家ができ、魔族の敗北は時間の問題とされた。だが、魔族は、人間側の召喚術を使った。一度に大量に人間を召喚し、召喚自体にエラーを引き起こしたのだ。その副作用で、二つの世界の扉はつながったままになり、今も、人々が時折行き来しているのだった。


 少女は、井戸から抜け出そうともがいた。

「ぐぐぐぐ!!ぬぬぬぬぬぬぬ」

 それでも抜けず、しかし、井戸の向こうにでていた下半身を守るために、攻撃が合った箇所をでたらめに攻撃したのだ。しかし、“オド”に集中した。オドとは魔力を知覚し、魔力を生み出す器官とされている。

(下方に三つの生命体、一人と二人が向かい合って殺気立っている、さっきの火の玉の攻撃は……一人の男から射出されたみたいだけど……ん?まって、この二人、スキル力の差がありすぎる、二人はほとんど魔力がない!?)

 









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