#4 死にたくなったときに、死なない方法。

 先輩は、たまに変なことを聞いてくる人だ。


「主に思春期、青年期に発病し、幻覚、妄想などの特徴的な症状のほか、意欲や生き生きとした感情が乏しくなる、この病気の名前は?」


「えっと、中二病?」


「統合失調症だバーカ」


 そう言って、先輩はふふっと笑った。


「でもさ、よくあることだよね。この時期は特に、トラブルとか悩みが多いし。あー死にてーってなることも多いよね」


 まあ、それは普通のことだと思う。僕だって、食欲が無くなったり、睡眠時間が昔と比べておかしくなったりしているし、死にてーってなることも山ほどある。そもそも死にてーってなって自殺するのだって個人の自由だし、そういう話もよく聞くから、そこまで含めて「よくあること」なんじゃないだろうか。


 先輩は、また変な質問をしてきた。


「ねえねえ、私が、あー死にてーってなった時、どうやってストップかけてるか知ってる?」


「死にたいって気持ちにストッパーなんてかけるもんじゃないと思いますけどね。人はいつでも、本能的に死にたくないって思っていますし。それを超えて死にたいって思うんなら、止める方が体に毒じゃないですか?」


「なるほど、まあそれも一理あるかもね。まあ私の話をするとすると……」


 先輩はあんまり、こっちの答えを気にしていないような気がする。


「私は皆勤賞をとるぞ! って心に決めました!」


「……はい?」


「いやだから、皆勤賞だよ皆勤賞。皆勤賞ってすごいんだよ。三年間毎日登校すると決めることによって、当然、①不登校にならなくなる。そして、②体調管理に気を遣うようになる。③けがをしないように注意深くなる。さらに」


 そこで、先輩の言いたいことが分かった。


「「④自殺をしなくなる」」


 また、先輩がふふっと笑った。


「そのとおりー」


「でもなんで皆勤賞なんですか? 今時、皆勤賞なんて取ろうとする人いないですよ。それに、最近は皆勤賞を廃止する学校も増えてきてるじゃないですか。そんな中で、何でまた皆勤賞を……」


「うーん、でもさ、誰も取ろうとしないからこそ、取った時の達成感って大きいものじゃない? それに、競技人口の少ないスポーツほど、一位を取り易いものなの」


「今の時代だからこそ、学校唯一の皆勤賞受賞者になれる可能性が高い、とか言いたいんですよね、そういうのは、もっと直接的に言ってください」


「伝わればいいのよ伝われば。そんで、皆勤賞の効能はね、さっきも言ったとおり色々あるの。だから、廃止するのはちょっともったいないなーって思ったりするんだよね」


「効能って……っていうか、皆勤賞を自殺防止とかに使ってるのって先輩くらいですよ」


「いや、この話の作者も……」


「メタい話は止めてください」


 危なかった。


「それでさ、何で私が『私は皆勤賞をとるぞ! って心に決めました!』って後輩くんに宣言したと思う?」


「さっきのあれ、宣言だったんですか」


「そうそう。あのね、人間っていうのは怠惰な生き物だから、自分の中だけで約束しても、ちゃんと誰かに宣言しないと、途中で放り出す危険があるからね」


 それは、自分にもよくあてはまると思う。そして僕は、そういう怠惰な自分が嫌いだ。


「……でも、何で僕なんですか。大勢の前で宣言したら、それこそ先輩は放り出せなくなりますよ。それを何で僕だけに」


「何でだと思う?」


 先輩は、少し間をおいてこちらを見つめた後に、そっぽを向いて、言った。


「あー、後輩くんだけに皆勤賞をとる宣言しちゃったから、もし後輩くんがいなくなっちゃったら、私、自殺しちゃうかもしれないなあ、しちゃうかもしれないなあー」


 ……はーあ、白々しい。でも、これが不器用な先輩なりの気遣いなのだろう。


「分かりましたよ、先輩。もうちょっと頑張ってみます」


 僕も、これから皆勤賞を狙ってみようかと思った。

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