010

「本当に存在したとはっ」


洞窟から出て来た瞬間ライトがうな垂れた。


「ある前提でやるからゲームは面白い」


久遠はライトの肩を軽くたたく。

その彼女の腰には豪華な装飾が施された刀 〈絶対の刀身アルヴァンヘルム〉が帯刀。


「なんだかそれ重そうだよね」


黒薔薇姫が率直な感想を述べる。


「見た目で言うならサアキスの分離剣シュベルティンの方が重そうだけど?」


「それは論外、そんな馬鹿でかい剣を振り回してるサアキスが変なんだよ」


「変ってなんだよ変って」


「そのまんまの意味だよ」


ライトがサアキスと黒薔薇姫のやり取りにため息をつく。


「お前ら夫婦漫才はその位にしてホームに帰ろう。置いて行くぞ」


「夫婦じゃない」


サアキスと黒薔薇姫はライトにツッコミを入れながら四人はタウンへと戻った。





タウンに戻ると黒薔薇姫が伸びをした。


「なんか久しぶりに手応えあるバトルした感じ」


「確かにな」


サアキスと黒薔薇姫が雑談をする中、


「それじゃ、俺この後リアルで用事あるからアウトするな」


ライトはいつも通りメニューを開きログアウトボタンをタップする。

それがログアウトの流れだ。

しかし、今日はそうはならなかった。


「ログアウト、出来ない?」


「そんなわけないでしょ」


続いて黒薔薇姫が手順を踏んでログアウトをタップするが出来ない。


「どう、して?」


久遠が呟いた。


「何が原因なんだ?」


サアキスは思考をフル回転させある一つの可能性にたどり着いた。


「もしかしてっ」


ライト、黒薔薇姫、久遠、三人が議論する中、サアキスは三人の輪から見つからないように離脱。


「確信はない。でも可能性がないわけじゃない」


タウンの広場でメニュー画面からキーワードを入力するとサアキスの周りに転送リングが現れ姿を消した。


___


再び姿を現した場所は廃墟と化した城塞。

サアキスは手に分離剣シュベルティンを装備。

半壊し城門を潜り城内に入って行く。

城塞内はモンスターは皆無で最上階まで難なくサアキスはたどり着いた。

最後の扉を開くと装飾された椅子に男がひとり座っていた。


「初めましてと言った方がいいかなサアキスくん」


「どうして名前を知っている?それにアンタは?それにこの状況はどういうことなんだ!」


「ログアウト不能の事を言っているのかな?なら話は簡単だ」


「簡単?どういう意味だ!」


「クリアしてくれないと次のアップデートが出来ないからだよ」


「はいっ?」


「次のアップデートが出来なくて困ってるんだ。上からはまだかまだかと急かされて困ってるんだ」


「へっ?じゃ、クリアすれば全て解決、的な?」


サアキスは頭をかく。


「そういう事だ。だからクリアしてもらおうと思ってね。このゲーム最強のプレイヤーである君に!」


「最強っ?そんなの妄想だっ」


「ここはこのゲーム最後ダンジョン。わたしを倒せばゲームクリアとする。しない限りログアウトは不可能だよ」


「脅すのか?」


「そうしないとキミはクリアしてくれないだろ?」


サアキスは分離剣[シュベルティンを持ち上げ男に加速、向かって行った。





ギルドホールに戻ってきたサアキスをライト、黒薔薇姫、久遠が出迎える。


「お前どこ行ってたんだ!」


ライトが噛み付く。


「もうログアウト出来ると思う」


サアキスがポツリと呟くとライトがログアウトを試みると姿を消した。


「えっ、サアキスなにかしたの?」


「ちょっとなっ」


しばらくするとライトが戻って来た。


「お前、何したんだ!」


突然、久遠が腰から〈絶対の刀身アルヴァンヘルム〉を取りサアキスに渡した。


「久遠さん何故?」


「ログインするの今日が最後」


久遠が一言。


「だから何故?」


「リアル事情、それだけ。後のことはお願い」


それだけ言い残し、久遠はログアウトして行った。


「久遠さんどうして!」


サアキスが納得いかないと呟く。


「リアル事情って言ってたろそれ以上、追求しても仕方がない」


「でも!」


「恋人がいる奴もいれば子供がいる奴もいる。お前はそれを疎かにしろっていうのか?プレイヤー全員が学生なわけじゃないだろ」


ライトの言葉にサアキスは反論できずしばらくただ呆然としていた。


「だが、久遠が辞めたからってお前も辞めるなんて事するなよ。お前は久遠に託されたんだ。お前が〈絶対の刀身アルヴァンヘルム〉の二代目ギルドマスターって事だ。宜しく頼む」





そして、現在。

アルヴァンヘルム・ギルドホール、ラウンジ


「翌日、今の〈インフィニット・ブレイド〉にアップデートされたってわけだ」


語り終わったライトがお茶を飲んで一息つく。


「それが始まりなんですか?」


アステイルはライトに問う。


「ああ、俺たちギルドの始まり。それから徐々に加入者も増え最強ギルドなんて呼ばれ始めたんだ」


「最強っ」


「なにがあろうとアイツが、なんとかする。任せっきりってのが申し訳ないがな」


「ライトさんはサアキスさんを信じているのですね」


話を終わると二人はソファーに背凭れしばらくの静寂が流れていた。

瞬間、静寂を打ち破るように爆音が木霊した。





廃墟フィールド。


「で、どうするの?」


黒薔薇姫が隣を歩くサアキスに問う。


「さて、どうするかな」


「まぁ、サアキスの事だから何か考えがあると思うけど」


「どうだろうな?」


ピローンと黒薔薇姫にメールが届いた。


「ごめんサアキス、アステイルからメール」


「こっちもライトからだ」


サアキスと黒薔薇姫がメールを読み終わった後、お互いに頷くと二人の周りに転送リングが現れ転送された。


___


二人が転送された先はタウン。

タウンに戻って来たサアキスと黒薔薇の目には信じられない光景が広がっていた。

タウンと呼ぶには程遠い戦場と言ったほうが近い、身内以外は敵といった程の内戦状態。

そして突然、空から雨が降り出した。


「いったいどうしてっ、なにが起きているの?」


「まず、ホームに行こう黒薔薇」


「ええ、急ぎましょう」


サアキスと黒薔薇姫はギルドホームへと駆け出した。





アルヴァンヘルム・ギルドホーム

ホームにたどり着いたサアキスと黒薔薇姫は詳しい状況を知るためにライトを捜すが見つからない。


「みんな出てるのか?現状の把握の為に情報が欲しかったんだがっ」


ホールに戻ると黒薔薇姫が呼吸を整えていた。


「そっちはどうだ?」


「カラッポ、誰もいない」


サアキスは苛立ちを壁にぶつけるように殴る。


「無暗に走り回っても意味ないと言うのにっ」


「サアキスどうする?」


「情報が欲しい。誰か見つけよう。それに伴い襲ってくる奴はプレイヤーでも叩き伏せろ!」


「解ったわっ」


黒薔薇姫は雨が降る中 勢いよくホームを出て行った。


「雨っ、嫌な予感しかしないなっ」


一通り装備の確認をした後サアキスはギルドホールを出て行く。

ひたすらタウンを走り周り襲い来るプレイヤーは容赦なく排除。

善も悪もなく、ただの虐殺。

サアキスの前に広がる破壊された街並み。

容赦なく降り注ぐ土砂降りの雨。

最悪な天候。

アスファルトは破壊され、電柱や信号機は折れ曲り、無数の車は大破炎上している。

ビル群は半壊や倒壊、剥き出しの鉄骨。

駅前の交差点でサアキスは見慣れたプレイヤーを見つけ駆け寄り抱き起こす。

アステイルだ。

彼女の身体は酷く傷付いており大量の血液が身体から流れ出て行く。


「どう、してっ!」


降り注ぐ冷たい雨が彼女の体温を徐々に奪って行く。


「…よかった…最期に、会えて…」


「最期じゃない!」


条件反射でサアキスは返答。


「…現実で、会いたかっ……」


「ああ、オレもだ、捜し出してやる」


「ありがとう、私も、捜す、から」


「オレは神城赤羽かみしろせきはだっ」


「…ありが、と…」


その言葉を最期にアステイルは生き絶えた。


「ああぁぁぁぁぁあああ!」


悲しみ、怒り、喪失感をぶち撒けるようサアキスは叫んだ。


____

___

__


それを最後に視界と意識が共に電源が切れたようにブツリと途切れた。

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