004


ギルドホーム、アルヴァンヘルム。

訓練場に二百人ほどのギルドメンバーが招集された。

サアキスはマイクを手にギルドメンバーの前に立つ。


「まず初めに気付いている者もいると思うが改めて言わせて貰う。運営側のトラブルか、何かしらのバグによってログアウト不可能になってしまった」


静寂が流れる。


「こう思っている者も少なくないだろう漫画やアニメみたいだと、そんな状況にオレたちは置かれてしまった。死ねば復活するのか、そのまま死んでしまうの解らない。こんな状況だからこそ助け合っていこう。最後にどんな些細な情報でも報告をあげて欲しい。また誰も失う事なく皆に会える事を切に願う」


__


ギルドマスターの部屋。

サアキスは椅子に身体を預け一息つく。


「は〜マジでこの状況どうするかな」


部屋がノックされ「失礼っ」とウルフカットの黒髪に顔には赤い刺青をした男、見るからにマフィア風の男が来た。


「サアキス、情報が上がってきてるぞ。事件に関係しそうなモノはないけどな」


「すまない、ライト。データを飛ばしてくれたら助かる」


ライトはメニューを操作してサアキスに情報データを送信した。


「また、起きたなログアウト不能。あの時はお前が解決したが今回はどうだ?帰れるか?」


「どうだろうなっ。現状が意図的なのかバクなのか解らないとどうしようもない」


「だよな。すまないが今回もお前を当てにさせてもらう。お前とも長い付き合いだ。それなりに信用はしている」


そう、言い残しライトは部屋を出て行った。


「さて、ライトは関係ない情報って言ってたけど」


サアキスはデータに目を通した。


「確かに、ログアウトに繋がりそうにないな。どうでもいい情報ばかりだ」


再び部屋の扉がノックされアステイルが入室。


「あの、サアキスさん?」


「どうしたアステイル。って不安で来たんだろう?」


「なんでもお見通しですね」


「そんな事ない、こんな事態だ予測しやすいだけだよ」


サアキスはジェスチャーで部屋の真ん中にある応接セットのソファーにアステイルを促すと、対面するように彼女の前に座った。


「サアキスさんはどうしたらいいと思いますか?」


「単純に考えてクリアしたらログアウト出来る。ってのがマンガやアニメのお約束だろうなっ」


「ですが、それでも出来なかったらっ?」


「後悔、しているのかっ?」


サアキスはアステイルの心を見透かしたかのような言葉を掛ける。


「……えっ」


「ログインした事を後悔してるのか?」


アステイルはゆっくり、そして小さく頷いた。


「そっかっ、HPが消失した時どうなるか解らない。でも必ずキミをリアルに返してみせるよ」





サアキスはターミナルに一人でやって来た。


「現状が解らない今、取り敢えずゲームクリアを目指すしかないよな」


「あの時と同じように、また一人で行くつもり?」


振り返ったサアキスの前にゴシックロリータ姿の黒薔薇姫が立っていた。


「黒薔薇、どうしてここに?」


「付き合い長いんだからアナタの考えそうな事は解るわよ」


「それで、ゲームクリア目指すんでしょう?って事は全都市の攻略と、マップの完成よね」


サアキスの隣で黒薔薇姫は息巻いていた。


「黒薔薇、違う。やっぱり勘違いしてるなっ」


「アレ、都市を攻略していってマップを完成させる事が目的でしょう?」


「このゲームの目的はマップを開拓しながら都市攻略をして、どこかにある〈隠された城〉を見つけだし城のボスを倒す事だ」


「だったっけ?」


「前回からの大規模アップデートから三年経つのにマップ開拓は四分の一しか出来てない。基本的に難易度が高過ぎるんだよな」


「それでも、ギルマスいいえ、サアキスならなんとが出来るんじゃないかな?」


「それは、買いかぶりすぎだよ。黒薔薇」


「だって、サアキスは伝説の男ですものね。三年前のログアウト不能も解決したのですから可能でしょう」


「伝説なんて小っ恥ずかしい話だ。それに周りが勝手に祭り上げただけだろ」


サアキスはそう言葉を吐き捨てる。


「そうそう、ライトから伝言があったんだ」


黒薔薇姫は思い出したように手を叩いた。


「『ギルドの方は任せてくれ、攻略は任せる』だって」


「アイツも、オレに丸投げかよ」


サアキスは頭をかく。


「それじゃ、黒薔薇。行くか?」


「ええ、行きましょう」


カウンターで受付を済ませると転送リングが二人を囲みターミナルから消した。

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