002

K・Jと看板のある店にサアキスとアステイルは入る。


「サアキスさん、ここですか?」


アステイルは戸惑いながら口を開く。


「雑貨屋K・J。雑貨屋って看板を掲げているけど何でも扱ってる何でも屋。怪しい品もあるけど品揃えは確かな馴染みの店だよ」


「馴染み?」


「ああ、店の亭主はNPCじゃなくプレイヤーなんだ」


「おいおい、サアキス。怪しいとはひどいな」


奥から店の亭主が出て来た。

体格のいいがそれよりも髪型が印象的なアフロヘア。

亭主が行動するたびにアフロがふわふわと頭の上で踊る。

アステイルはその亭主の姿に笑いを堪えて平常心保っていた。


「久しぶり、K・J」


サアキスは親しげに挨拶をすませる。

店の亭主=K・Jはサアキスの後ろに居るアステイルに視線が行く。


「お前がギルメン以外を連れて来るなんて明日は雨でも降るんじゃないのか?」


「この子は〈初心者ビギナー〉だ」


「な〜んだ。面白くない」


K・Jは口を尖らせた。


「あの〜?」


アステイルは恐る恐る二人の間に入って行く。


「ああ、ごめんごめん。こいつはK・J」


「ケージェー?ですか。初めましてアステイルです」


アステイルは頭を下げた。


「ヨロシク。礼儀正しいな。どっかの白いのとは大違いだ」


「色々言いたいことあるけどK・J。五百エルでビギナーアイテムを頼む」


「ああ、この子の戦闘スタイルは?」


「戦闘スタイル?」


アステイルは疑問符を浮かべた。


「武器の事だ。君がどんな武器で戦いたいかって事」


「何がいいのでしょう?」


K・Jはカウンターの上に武器を並べる。


「剣、鑓、鎌、斧、弓矢、どんな形でプレイしたい?」


「剣と斧は何かピンとこないです」


アステイルはカウンター上の武器を見ながら唸る。


「あ、この世界に魔法はないんですか?」


「魔法か?あるよ。てか、君自身すでに身に付けている」


K・Jは説明を続ける


「この世界に降り立った時に誰もが持ち合わせてる。だから魔法だけと言うのはないかな」


それを訊いたアステイルは悩んだ末に鑓を選んだ。





鍛冶屋K・Jで買い物を終えたサアキスとアステイルは〈ターミナル〉に戻ってきた。


「メニューを呼び出して、買った武器を装備してみてくれ」


「こうですか!?」


アステイルは言われるまま操作すると、背中に鑓がオブジェクト化され重さを感じる。


「もう一つ〈トレード〉を教える」


「トレード?」


「名前の通り〈アイテム〉を交換したり送ったりするアクションだ」


サアキスはメインメニューの〈ストレージ〉から回復アイテムの〈ティナト〉を選び、アクションメニューからトレードを選びアステイルにプレゼントした。


「届いたか?」


アステイルはストレージをタップするとストレージ欄のアイテムに〈ティナト〉が増えているのを確認した。


「はい、あります。有難うございます」


「今までのがタウンの流れだ。他に露店やギルド、クリエイションといったモノもあるけど、それはおいおいな。後、伝えておく事がある。キミがオレに植木鉢をぶつけた時に経験値を得ただろ」


「そう言われてみたら、そうですね」


「何となく解るか?タウンでの、プレイヤーキル可能なんだ」


「プレイヤーキルって確か〈PK〉の事ですよね」


「そう、だからタウンだからと言って気は抜けないって事だ。知っておいて損はないだろう」


「解りました。気を付けます」


「じゃ、次は実際にフィールドに出てみるか?」


「いきなりですか?」


「準備は出来たし、実際にプレイしないと」


「…ですね」


「フィールドレベルは低めのヤツにするし危なくなったら手助けするから心配ない」


「よろしくお願いします」


アステイルはお辞儀をした。


「じゃ、フィールドに飛ぶときはこのターミナルからしか飛べない。後はカウンターのNPCに行き先を告げると自動で転移されるフィールド名は〈始まりの開拓地〉だ」


カウンターで受付をすませるとサアキスとアステイルの周りに光る輪状転送リングが現れ転送された。

瞬間に視界全てが一変する。

壮大に広がる平原。


「ここがフィールド、ですか?」


アステイルが第一声を吐いた。


「ああ、〈始まりの開拓地〉。名前の通りプレイヤーが最初に降り立つフィールド。じゃ、戦ってみよう」


「はい!」


アステイルの声が弾む。


「楽しそうだな」


「なんだがワクワクしてきました」


アステイルは買ったばかりの鑓を装備した。


「戦うにあたって忠告がある」


「はいっ」


アステイルは背筋を伸ばした。


「戦闘はターン制でもゲージ制でもない。〈シームレスバトル〉で完全な〈リアルタイム〉だ」


「何か違うんですか?」


「ステータス画面にHPゲージしかないだろ。従来の〈RPG〉では魔法やスキルを使う時は〈MP〉や〈AP〉を消費していた。って、解るか?」


サアキスはアステイルが理解しているか気になった。


「はい、大丈夫です。ゲームは好きでやっていました」


「それじゃ、説明を続ける。でも、この〈インフィニット・ブレイド〉はそれがない。だから〈スキル〉や〈魔法〉は使い放題。その代わりに今までの〈RPG〉よりモンスターレベルが強くただ突進するだけじゃ勝てない。〈戦略〉や〈戦術〉がモノを言うんだ」


「結構、難しそうですね」


「始めはゴリ押しでも大丈夫。進むに連れて一筋縄じゃいかない〈地形〉、〈戦略〉。全ての経験を活かさないと勝てない、それにモンスターにはAIが搭載されていてモンスターも経験を積んでいく」


「AI?モンスターもレベルアップするんですか?」


「フィールドのモンスターには最高上限のレベルはある、それを超えることはまずない。多少レベルを上げて進むことを勧めるよ」


「解りました。覚えておきます」


「では、そろそろ行きますか」


__

___


アステイルは平原で大の字になった。


「疲れました〜〜」


「〈レベル〉結構上がったんじゃないか?」


サアキスはアステイルの隣に腰を下ろした。


「はい。五まで上がりました」


「もうそんなに上がっていたのか?」


「ホントにこのゲーム変わってますよね、相手の〈レベル〉が見えないなんて」


「だな、オレがキミのレベルが見れないように、キミにもオレのレベルは解らないだろ」


「サアキスさんのレベルはどれくらいなんですか?」


「気になるか?」


「あっ、すいませんマナー違反ですよね」


「いや、いいけど、訊いても驚くなよ__」


突然 〈転送リング〉が現れリングから黒いゴスロリの女性プレイヤーが現れた。


「こんな所に居たのですねギルマス」


ゴスロリのプレイヤーはサアキスをそう呼んだ。

その時アステイルはゴスロリのプレイヤーになんとなく見覚えがあった。


「あれ?もしかして由依?嘉神由依かがみゆい?」


「えっと、アステイルと黒薔薇って知り合いだったのか?」


「アステイル?……その顔、もしかして如月きさらぎいのり⁉︎」


「やっぱり、由依だったんだ!」


ゴスロリのプレイヤーは「は〜」とうな垂れる。


「人のこと言えないけど、この世界でリアル名を出すのはマナー違反」


「貴女もこの世界ではアステイルよね。私は黒薔薇姫くろばらひめ


「でもサアキスさんがギルマスって?」


「取り敢えず〈タウン〉に戻ろう。ここじゃ落ち着いて話も出来ないだろ」


「そうですね」


サアキス、アステイル、黒いゴスロリのプレイヤー=黒薔薇姫、三人は〈転送リング〉で〈タウン〉に戻った。

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