かくれんぼ大会
秋のイベントといえば、体育祭や文化祭が一般的だがそのどちらもが行われない年がある。
それが正に今年だった。去年は体育祭、来年は文化祭、高校二年の今年の秋は、この学校独特のイベント『クラス対抗!かくれんぼ大会』が開催されるのだった。
そしてまた、クラスの誰よりテンションの上がる人物がいた。
「ついに明日、戦いの火蓋が切られる!お前ら、絶対に見つかるなよ!何があっても隠れ続けろ!」
「山ちゃん、また一人でテンション爆アゲしちゃってるよ。」
こうして誰かがつっこむのもお決まりのやり取りになっていた。
山田はチョークをバキバキ折りながら、黒板に大会のルールを書いている。
「隠れるのは生徒全員で、クラス対抗で勝負する。隠れられる場所は、校舎の中と体育館とグラウンド…まぁ、学校全体どこに隠れてもOKってことだ。そして、鬼は…教師全員だ!!担任だろうが容赦はしないからな。応援はするけど必ず見つけ出すから覚悟しとけー!」
山田は子供のように笑いながらさらに続ける。
「隠れる時間二十分。探す時間三十分。最後まで見つからなかった人数が一番多いクラスが優勝だ!そして、優勝したクラス全員に遊園地のチケットが贈られるー!」
それを聞いて、クラス中が沸き立った。
「お前ら本気で隠れろよー!」
うぉーーっ!!と隣のクラスがざわめく程、山田のクラスの生徒は山田化していた。
「明日、絶対優勝しよ!」
実弥は楓と遥の隣に来て目を輝かせた。
彩水も帰りの支度を済ませると、三人の元へやってきた。
「ね。優勝したらみんなで遊園地行けるもんね。」
「絶対チケットもらって、みんなで行こう!」
「山田先生、すごい張りきってたな。」
「うん!鬼のリーダーは山ちゃんだな!絶対見つからない場所なんかあるかな。」
いつの間にか他のクラスメイトは教室からいなくなっていた。そのうち、廊下からパタパタとサンダルの音が近づいてくるのがわかった。
――ガラッ。
「お前ら早く帰って、明日に備えろー。明日、俺は敵だからな!覚悟しとけよ!でも、優勝しろよ!」
「山ちゃん、手加減してよー。」
顔の前で手を合わせ、お願いのポーズをする実弥だったが、山田には所詮届かない要望だった。
「早く帰って、飯食って寝ろ!そしたら優勝だ!」
そんなバカなと思ったが、四人はとりあえず、はーいと返事をして教室をあとにした。
――かくれんぼ大会当日。
教室の黒板には、はみださんばかりの大きな文字で『かくれんぼ大会!!』と書かれていた。
それぞれの教室で、その時を待った。
教室のスピーカーから放送が流れる。
「みなさん、おはようございます。いよいよクラス対抗、かくれんぼ大会の始まりです!生徒の皆さんは今から二十分の間に、ここだという場所に隠れてもらいます。その後すぐに、先生による鬼軍団が三十分かけてみなさんを探し出します!…みなさん、ルールは把握してると思いますので、この辺にして。…それでは、生徒のみなさん健闘を祈ります。三、二、一、スターート!!!」
学校中の教室からイスの音が響いたかと思うと、あっという間に廊下は隠れ場所を求める生徒たちでごった返した。
二十分というのは隠れるのには少し短い。これだけの生徒が見つからない隠れ場所を探すとなると、かならず狙いをつけるところは他の誰かも狙いをつけている所なのでかぶってしまう。そうこうしているうちに、まもなくタイムリミットを迎えようとしていた。
「ちょっと待ってよ。隠れるとこないんだけど。」
遥もまた、隠れる場所を探し求め学校中を歩き回っていた。
隠れられそうな場所には既に先客が陣取っており、入る隙間は残されていない。
スピーカーから更に気持ちを焦らせる放送が入る。
『さぁ!隠れる時間はあと三分でーす!!』
「うわ!やばいよー!鬼来ちゃうよ!」
階段の下で右往左往していると、ガシッと手首を掴まれた。そのまま遥は後ろ向きで引っ張られ、スルスルと空いた隙間に吸い込まれていった。
くるっと回され向き合う形になった遥の前にいたのは、楓だった。
「カエデ!」
「ちょっと狭いけど我慢して。」
そこは掃除用具のロッカーが置けるだけのスペースになっており、いつもは壁に押付けてあるのだが、ロッカーの後ろに空間が作ってあり、そこに隠れることができた。
ロッカーの横には一人が入れるだけの隙間はあるが、鬼が前を通ればすぐに見つかってしまう。
そして、スピーカーから終了の知らせが流れた。
『隠れるのしゅーりょー!!…さぁ、それではこれより、先生たちによる最強の鬼軍団を放出します!制限時間は三十分!生徒のみなさーーん。絶対に見つかるなー!…三、二、一、鬼放出ー!!』
開始早々、遠くの方から悔しがる声が聞こえてくる。見つかった生徒は体育館のフロアで待機することになっている。いくつもの足音が上の階や、廊下の向こうから響いてくる。
足音が近づいてくるたびに、楓と遥の間にだんだんと隙間がなくなっていく。少しでも離れれば、ロッカーの幅から体がはみ出し見つかってしまう恐れがあるからだ。
そんな二人のもとへ、鬼が忍び寄っていた。
――ガコンッ。
ロッカーの扉が開かれた。その瞬間、楓は遥の体を抱き寄せた。楓の首元に遥の息がかかるほど密着していた。
心臓の音が伝わってしまうのではないかと心配になるほどの空間で、二人は鬼がいなくなるのを待った。
「みーつけた!!」
その声に二人はさらにキツく近づき、目をぎゅっと瞑った。
「あー!マジかよー!見つかったぁ。」
二人が隠れるその目の前で、別の生徒が見つかったのだ。生徒を体育館まで連れていくため、鬼もその場から離れる。
鬼が居なくなったのを確認すると、楓の手に入っていた力は緩まり遥の体はふっと自由になった。
「…ごめん、苦しかったよな。」
離れたとはいっても、まだこの狭い空間におさまっていなければならない。
「ううん、大丈夫。カエデは大丈夫?」
上目遣いで聞いてくる遥を直視出来ず、楓は斜め上の方を見上げながら頷くしか出来なかった。
「あっ。」と遥が手を延ばした。
「カエデ、髪になんかついてる。」
取れたよ、と囁く遥の手を楓の手が包んだ。
「ハルカ…俺…」
今度は真っ直ぐに遥の目を見つめている楓の顔は、少し泣きそうに見えた。何かを言おうとしたその時、
『しゅーりょーー!!鬼の先生方、探すのやめてくださーい。』
制限時間の三十分が過ぎ、見つからなかった生徒たちがガタガタと体を現し喜びの歓声をあげている。
「カエデ…?」
「…なんでもない、俺たちも教室戻ろう。」
楓は掴んでいた遥の手を離し、狭い隙間を抜けていった。遥は楓の言葉が気になりつつも、前を歩く背中を追った。
教室に戻ると、実弥と彩水が駆け寄ってきた。
「二人はどうだった?見つからなかった?」
「ああ。見つからなかったよ。」
実弥と彩水は音楽室に隠れていたが、山田に見つかり体育館に連行されたらしい。
「山ちゃん、ほんとに手加減なかった。速攻見つかったよね、あたしたち。」
彩水は、そうだねと言いながら遥の方に視線を移した。なんだか少し落ち着かないような、何かを気にしているような、そんな表情に見えた。
「ハルカくん…」――――ガラガラッ。
教室の扉が開いて山田が入ってきた。彩水は遥への言葉を飲み込み席についた。
「みんな、お疲れー!俺、いっぱい見つけちゃったよー!もうすぐ、放送で結果が発表されるから。」
山田は全力をだしきったという顔で、汗を拭いながら教卓の上に配布するプリントを並べている。
『みなさん、お疲れ様でした。かくれんぼ大会の結果が出ましたので発表します!』
『優勝は……』――――――
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