第36話
「ん、ふぅ、ぅ…」
梅寿が楓のおっぱいを堪能していると、楓の喉からなんども押し殺した声が漏れ出た。
楓は両手を握りしめて体を固くしている。
「も、やだ…死んじゃう…」
恥ずかしさのあまり泣き出す楓の胸に梅寿は舌を伸ばした。楓の手が梅寿の肩を掴む。しかし押し返されることはなかった。楓の手は梅寿のシャツの肩口を強く握った。楓の呼吸が期待に震えている気がする。楓の突起に舌先が触れる寸前、梅寿はピタリと止まった。
梅寿の背筋に悪寒が走る。
梅寿はキョロキョロとあたりを見回した。当たり前だが楓と自分以外誰もいない。しかし、なにか禍々しい気配がする。
嫌な予感がした。
「楓、ごめん、服、戻してほしい。兄ちゃんが帰ってくる気がする…ごめんな、俺、トイレ行ってくるから、すぐ戻るから!」
梅寿は楓のおっぱいから顔を上げてブラを元に戻した。インナーのTシャツをおろし、シャツの前を合わせて、ボタンをはめるのは楓に任せる。楓は涙を拭って首を傾げていた。梅寿は再度謝って部屋を飛び出した。
松寿は勘と察しのいい男だが、同じ遺伝子を持つ梅寿もまた同じだった。両親も兄もいない自宅。付き合ったばかりの恋人を、梅寿が連れ込まないはずもなく。松寿はそこまで読んで、楓の貞操ために帰ってくるだろう。梅寿は野生の勘というか第六感というかわからないが、とにかくそういう感覚が非常に鋭かった。
この予感はたぶん当たる。
梅寿は早く鎮めるために出すものを出して戻ろうとトイレに駆け込んだ。
楓は衣服を整えてシャツのボタンをはめていた。指が震えてうまくはめられない。時間をかけてボタンをかけていった。楓はさっき梅寿と松寿の会話を耳にしていた。松寿は帰らないかもと言っていたはずだ。松寿から連絡が入ったのかと思ったが、スマホは机の上に投げ出されたままだった。楓は枕元のティッシュで涙と鼻水を拭った。なにか、続きができない何かがあったのだろうか。
(僕が、泣いたから?)
松寿が帰ってくるなんてきっと嘘で、優しい梅寿は楓の涙を見て中断してしまったのかもしれない。楓は再び溢れそうになる涙をぐっと堪えた。
楓は体に熱が溜まったままだった。楓は非常に中途半端な状態で放り出されてしまった。心臓の音がうるさいくらい高鳴っている。この熱をどうしたらいいのかわからない。男と違う体に、楓は改めて困惑していた。
やっとボタンをすべて閉じてため息をつくと、玄関の方から扉の開閉音がした気がした。と思ったら階段を駆け上がる足音が聞こえ、扉が開いた。姿を表したのは息を切らせた松寿だった。
「ま、マツ兄ちゃん?!」
「やっぱり、いた…ウメは?どこいった?」
肩で息をする松寿に楓は青ざめた。松寿が本当に帰ってきた。あのまま続けていたら、恥ずかしい場面に遭遇されていたに違いない。
「に、兄ちゃん!オカエリィ、ど、どうしたんだよ、俺の部屋で」
「嫌な予感がして帰ってきた。お前ら、変なことしてただろ」
梅寿はぎこちない仕草で部屋に入ってきた。楓はゾッとした。一体なんなのか、この兄弟は。お互いが何かわからない勘を働かせて察し合っていたらしい。それにしても、松寿の話を聞く限り、わかってて梅寿と楓の邪魔をしに来たようだ。楓はさっきまでのえっちな気分が怒りの燃料に変わった。
(ウメちゃんと……えっちできると思ったのに!!)
誰かに一途になろうとしている姿を少し見直したらこれだ。やはりこの男の存在は許せない。色々な意味で。
「な、なんだよ変なことって…なぁ、かえ…楓?」
「変なことなんて一つしかな…楓、さん?」
木村兄弟は楓からただならぬ空気を感じ取ったようだ。楓の背後に怒りの炎が燃えている。楓は今自分でも信じられないほどキレていた。
「マツ兄ちゃんの馬鹿。大っっっ嫌い」
梅寿は白い顔で固まっている。松寿は膝から崩れ落ちた。
そんなこんなで女の子になってしまった3人と、それを見守る3人は顔を合わせることができた。このあとこの6人がどうなっていくのかはまた別のお話。
END
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