第37話 下着の話〜竹彪彩葉〜 1

彩葉は目の前に広げられたブラとパンツを吟味していた。

「えろ…女の子の下着エッロ!こんなもんつけて平気な顔して歩いてんのかよ女の子!エロいて!!」

「その発想、気持ち悪いな」

「こんだけ爆買いしたお前も大概だよ」

竹彪家のリビングの床に、色とりどりの女性用の下着が並べられていた。赤白黒ピンク水色紫と、花が咲いたようにカラフルだ。竹彪がネットやら店頭やらで彩葉用に買ってきた。その数、数十着。彩葉一人で、しかも常時女体というわけでもないのに、こんな枚数をどうするつもりなのか。

「見てたら止まんなくなちゃって」

デザイン一緒だけど色違いとか彩葉に似合いそう、これ着てほしいなぁなんて考えていたらとんでもない数を買ってしまっていた。竹彪の貯金が火を吹いてしまったが、一片の悔いも無い。

「馬鹿かよ…どうしよう。ここはやっぱ黒かなぁ?それとも紫?はぁ~エロい!なんなんこのスケスケ!エロいてぇ!」

「お前は白。白一択だ。…わかる。こんだけの色の数買っといて何いってんだって言いたい気持ちはよく分かる。顔に書いてある。いい、言わなくていい。騙されたと思って着けてみろ、この白いやつ。似合わなかったら俺を殴っていい。着てくれ。絶対、絶っ対似合うから。頼む。この通り、お願いします!」

「どっから出し…めっちゃ喋る、今日。圧すごいんだけど…わかった、これな。わかったから頭上げろ、お前。熱量怖いわ」

竹彪は懐で温めていた白の下着を、深々と頭を下げて彩葉に差し出した。文字通り竹彪の胸元に隠し入れておいた下着をシャツの隙間から引きずり出した。白地にヒラヒラフワフワした飾りがついていて、ピンク色のリボンがあしらわれている。これがどういう名称のファッションのジャンルかは知らないが、なんかお姫様っぽいフリフリの下着だった。竹彪はネットで見て『これだ!』と思った。今日は一番にプレゼンするつもりで大事に温めて置いた一着だ。土下座しても駄目なら金を払って着てもらおうと財布に現金を用意してきた。そのくらい、本気の一品だった。

彩葉は竹彪の熱に引きながらも、渋々受け取って浴室に消えていった。竹彪はあまりの嬉しさに雄叫びを上げそうになった。胸の中で吠えた。ソファに座って彩葉を待っている間、期待でテンションも股間もギンギンだった。

と、脱衣所の扉が開いた。

「タケごめん、お前のこと舐めてた。めっちゃエロ可愛いんすけど…待て待て待て、待て!行くからそっちに、こっち来んな!」

顔をのぞかせてそこから下を見せてくれない彩葉に、竹彪は立ち上がって駆け出した。しかし全力で止められた。

「なんだお前、お預けとか。やめろ、お前、どんだけ妄想して我慢したと思ってんだ」

「顔、怖。いや、期待値上げて申し訳ないんだけど、やっぱ恥ずかしいわ…俺、女子の下着つけて何してんの?って思ったら、もう…出れんて、ここから」

「恥ずかしがっ…嘘だろ、めっちゃ良い。大変、良い。妄想越えてくんじゃねぇよお前…でもそれ俺の金で買ってっから。とっとと出てこい。引きずり出すぞ」

「えぇ、なにその理屈。まじ怖いんだけど、今日……あ~、はっっっず!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る