第34話

「読んで下さい」

「なにこれ…うわぁ、まじでなにこれ。男同士?抱き合ってない?」

「男同士の勉強になります」

「まじかよ、これで予習してんの?きっつ~」

松寿は文句を言いながらパラパラとページをめくっている。紅葉はそばにある椅子に腰掛けて読みかけの別の漫画を手に取り、読むふりをして松寿を盗み見た。次第に静かに漫画を読み始める松寿に、また胸をときめかせる。文句を言いながらもいつも紅葉のお願いを聞いてくれる彼は、面倒見が良いのか変な所で素直だった。集中している松寿とは反対に、紅葉はまったく集中できない。

そして小一時間後。

「切ねぇ!裕司と健司はどうなんの?はよくっつけ!兄弟の壁なんぞ超えちまえ!!」

「それは兄弟のいる方の発言として正しいのでしょうか」

「本気卍真由美先生、神だわ。続きは?続きないの?」

「そちらが最新刊で発売が5年前となっております」

「まじかよ気になるって真由美!続き描いてよ真由美ぃ!」

松寿はソファに置いてあったクッションに顔を埋めた。うっかり漫画を読み切った上にめちゃくちゃのめり込んでしまった。心情の描写と言い、行為はしているのにすれ違ったりすれ違わなかったりがとても切なかった。今まで読んだことも読む気もなかったBL漫画だったが、想像していた以上に読み応えがあった。しかし、改めて松寿は思った。

「やっぱ男同士は無理だわ…チ◯コでチ◯コたたない」

竹彪と彩葉が付き合っていても、そういうものかと思った。竹彪の彩葉を見る視線の意味にはだいぶ前から気づいていたし、特に偏見も嫌悪感もない。今まで同性カップルを目にしたことはなかったが、いつも一緒につるんでいた二人がくっついても不思議とすんなり受け入れられた。

しかし自分がその立場になるとなると話しは別だった。やはり松寿には女性の膨らみとアレがないと性的興奮は湧いてこない。紅葉は男同士の行為に興味を持ってもらおうと思ったのだろうが、正直逆効果だ。女性相手が良いと再認識しただけだった。

「松寿さんのチ◯コが立たなくても大丈夫です」

「紅葉もチ◯コとか言うんだ。どういうこと?」

「受け入れる側であれば立つ必要はない、ということです」

松寿は自分の耳を疑った。紅葉は何を話しているのだろうか。

「なんか、風向き変わってきたな…それはつまり」

「私は今男です。松寿さんも男です。お互い同じものがついています。なぜ松寿さんは、抱く立場だけでお話なさっているのですか?」

松寿の全身からざぁっと血の気が引いていった。紅葉は自分に好意を抱いているのは見ていればわかる。気づかないほど馬鹿でも子供でもない。しかしまさか自分が抱かれる立場になるとは夢にも思っていなかった。女の子になってしまったことも含めて、紅葉は抱かれるつもりで松寿に踏み込んできたのだと思っていた。好意を抱かれるのは悪い気はしない。しかし掘られるとなると話は別だ。別どころじゃない、あり得ない。というか自分はこのままこの部屋にいて良いのだろうか。

唐突に、松寿の尻穴に危機がやってきた。

「んっ?でもほら、俺でかいし、色々と。抱かれる側って言ったら紅葉の方が適任かなって」

「確かに身長は松寿さんのほうが大きいです。ですが私は175cmあります。そこまで大きな身長差ではないと思います。チ◯コの大きさで言うなら私も自信があります」

「んん…いや、だって紅葉は女の子になっちゃうじゃん?それはもう抱かれる側ってことで」

「女性の体でもペ◯バンをつけることで抱くことは可能です。私はリバは許容できない人間なので、抱く側なら性別が変わっても抱きます」

「リバって何?そもそも俺で立たないでしょ、こんなでかい男で」

「私は竹松で興奮する人間ですので問題ありません」

「たけまつ…竹松ってそういう!?」

松寿は竹松について理解した。さっきのBL漫画で学んだ、名前の頭文字を取って作る、カップルの略称だ。先にくるのが抱く側で、あとに来るのが抱かれる側、紅葉のいう竹松の竹は竹彪で松は松寿だろう。紅葉はまさかの同級生でカップリングを作って興奮していたらしい。紅葉は抱かれる松寿で興奮できる人間だ。紅葉の抱ける発言が真実味を帯びてきた。というよりガチなのだと思い知らされた。

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