第33話

「同級生の親っつーか、紅葉の親に会うのまじで緊張すんだけど…今日はご両親二人共いんの?」

「いえ、両親は二人共いません。執事に説明をしていただけたらと思います」

「え、そうなん?親いないんだ、助かる~ちなみに、帰りも送っていただけたりなんかは…」

「もちろん、最寄りまでお送りします」

「あざーっす」

松寿はあからさまにほっとして笑っている。先程よりもより堂々とリラックスして表情も柔和になった。そんな松寿の姿にときめく紅葉は心臓を抑えた。

紅葉の自宅につき、紅葉と松寿は執事と向き合った。

「今日の話し合いは大変有意義でした。まず私以外に二人、同じ症状の方がいます。身体の変化はそれぞれですが月経がくるまでは…」

紅葉は饒舌に執事に今日の話し合いについて語っている。

(俺、いらねぇじゃん)

口を挟む隙がなく、松寿は紅葉と執事の会話、というより紅葉の一方的な話を聞いていた。

「松寿さん、何か補足はありますでしょうか」

「ないです」

「では以上です。要約して、両親にもお伝え下さい」

「かしこまりました」

執事は頭を下げた。ここは以前も通された応接室だ。話も終わったようなので松寿は腰を上げる。

「じゃ、俺はここで」

「松寿さん、私の部屋に行きませんか?」

「えー?…行こうかなぁ」

帰ろうと思ったが、金持ちお坊ちゃまの自室に興味が湧いた。しかも両親がいない。普通ならやれるチャンスだが、この家はそうもいかないことに気づいていた。

「どうせ扉の外に誰かいてなんもできないんだよね。わかってますよ。しかも今日、男だしね」

松寿がため息をついて愚痴っていると、紅葉の部屋に通された。わかってはいたが、松寿の自室の倍じゃきかない広さだった。改めて佐々木家の財力のでかさを思い知る。見える範囲にテーブルやらソファやらがおいてあり、壁一面の本棚に大量の書籍が綺麗にはめ込まれている。

「広さえぐ…ベッドないけど、まさか」

「寝室は奥です。そちらの扉は衣装部屋です」

松寿は気を失いそうになった。3室設えられているらしい。一般庶民の松寿には想像つかなかった世界が広がっていた。紅葉はガチガチのお坊ちゃまだ。なぜあの大学に来ているのか不思議だった。

「こっわ。こんなん見せつけられて据え膳食えねぇわ」

「…扉の外は人払いができますし、寝室は奥です」

「ないない。だから今日、男でしょ?できないじゃん」

松寿はソファにどっかりと座り込み、笑いながら手を振って否定した。ついて数秒で、まるで自宅かのようなリラックスぶりに紅葉は驚く。しかしそれよりも松寿の発言がひっかかった。

「松寿さんは、男の子に恋をしたと言っていました。私が男でも問題ないはずです」

松寿の前に立ち、紅葉は問うた。男であることは些末な問題のはずだ。松寿は「んー」と声を上げて考えている。

「それね。その子とは、そういうことをしたいわけじゃなかったっぽい。さっき黒木に言われて気づいたわ。親みたいな?やるやらない以前に、傍で大事に守ってやりたかったんだよなぁ」

紅葉は唇を噛み締めた。松寿にとっての彼、楓は、性欲を超えて大切な存在だったようだ。一方紅葉は男か女か、やれるかやれないかで松寿に区別されている。彼の特別になるためにはどうしたらいいのだろうか。松寿はふ、と笑う。

「男がイケるかどうかより、俺たち友達でしょ?セフレ拒否ったの、紅葉じゃん」

笑いながら見上げてくる松寿は意地悪なのに、とても様になっている。紅葉は松寿から目を反らした。このまま彼のペースに飲まれてしまってはよくない。紅葉が女性の体なら、関係を結ぶのはきっと簡単だ。しかし女性の体で松寿としたら、たぶん一度きりの関係になる。もう少し高いハードルが必要だ。男の紅葉とすることで、松寿の中に深く存在を刻み込みたい。

紅葉は本棚から数冊取り出してソファに置いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る