第32話


最寄り駅についた梅寿と楓は人通りの少なくなった住宅街を手を繋いで歩いた。日が落ちるのが早くなった。薄暗い景色の中、それでも周りに注意を払いながら二人は手を握り続ける。

「…びっくりしたね、マツ兄ちゃんと、タケさんもいて」

「そ、そうだな、楓みたいな人も二人も。いるんだなぁ、世の中には」

「それに、タケさんと彩葉さん…すごい、大人だよね」

「あー、な。びっくりだよな、男同士だし、やってるって言っ…同棲してるし!お、大人だよな!ははっ!」

梅寿は楓の小さな手の感触と鞄の中の竹彪からの贈り物で心がいっぱいだった。今自分がなにを喋っているのか頭がふわふわしてよくわからない。

「ウメちゃん、今日お母さんいないの?」

「え?あぁ、飲み会って言ってたから夜中まで帰って来ないと思う」

「お父さんも、今、いない?」

「いつも通りだと、思う」

梅寿の母はともかく、父は夜遅くならないと帰ってこないのでこの時間にはいないはずだ。松寿も、紅葉に拉致されて家にはいない。今日は帰れないかもしれないと言っていた。

繋いでいた楓の手がキュッと力を込めた。

「ウメちゃん、お家行っても、いい?」

楓の家も梅寿の家も、お互い頻繁に行き来している。こんな風に同意を求められたことはない。

「う、うん」

梅寿は普段と雰囲気の違う楓に生唾を飲み、楓の手を強く握り返した。






一方その頃。竹彪と彩葉は自宅につき、ソファに向かい合って座っていた。彩葉は剥き出しの下半身をひくつかせて荒い呼吸を繰り返していた。

「…やっちまった…今日、しねぇっつったのに」

「気がついたらケツ揉んで乳首摘んでたわ。お前なんか放出してね?フェロモン的な」

「しかもベッドもいかねぇの。ソファでお手軽セ◯クスだもん。お前なんかチ◯コしか出してねぇし。さっきの高校生カップルを見てもっとこう、清純であろうと思わねぇのかよ」

「あ、脱いだほうがいいか?言えよ先に」

「ちげぇよ、そういうことじゃねぇよ!ほんで筋肉見せたいだけだろお前は!」

竹彪は上を脱いで、彩葉の服も剥ぎ取った。ぴったり抱き合ってみると、汗ばんだ肌が密着して心地良い。彩葉に叩かれたが、竹彪は無視した。竹彪よりかなり小さい彩葉はすっぽり腕の中に収まっている。彩葉は諦めたのか、力を抜いて竹彪に体を預けてきた。

「なぁ。今、頭ぷわーってしてんの?」

「ぷわーって、してる…おい、なに大っきくし、んにゃっ!」

「ゴム変えるわ」

「待て待て、しねぇっつってんだろ!」

「待てない待てない、無理無理無理無理」

清純も何も、手を繋ごうというので繋いでみたらゴツゴツして気持ち悪いと暴言を吐かれ、仲良くお話しようにも帰ってきてから玄関で盛り上がってしまってエロエロになった彩葉に煽られてこの始末。まるで竹彪だけが悪いかのような言い草だった。手早く避妊具を付け替えて再開する。彩葉に暴言を吐かれたが、文句を言うものの次第に涎を垂らしながら嬌声を上げ始める。喘ぐ彩葉は普段の姿から想像できないほど愛くるしい。

(ほんっと可愛いな、コイツ)

竹彪の頭の中は『彩葉可愛い』で埋め尽くされていった。





「はぁ~。俺もサ◯ゼ行きたかったなぁ~」

竹彪と彩葉の2回戦目から遡ること数時間前。

松寿は佐々木家の所有する高級車の後部座席で長い脚を組んでため息を付いた。2回目ということもあり、だいぶリラックスしている。紅葉は物憂げな表情の松寿を盗み見た。

(格好いいいぃぃ…こんなに、この車が似合う男性がこの世にいるなんて)

隣に座る松寿は、大好きな映画の王子様が具現化したかのようだった。紅葉は鼻息が荒れそうになるのを必死に耐えた。

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