第31話


彩葉はふぅふぅと荒い呼吸を繰り返す。全員がちょっと沈黙した。が、楓がぽつりと漏らした。

「イチャイチャとえっちは別ですか?」

梅寿と竹彪の箸が止まる。楓の顔は真剣そのものだった。温かいうちに食べたいなと思っているのに、二人の会話が食事の隙を与えてくれない。食べている場合じゃなかった。

「別じゃね?やるだけならセフレでいいじゃん」

「でも、好きな人だからえっちなことしたくなるんじゃ」

「ごめん…俺、気持ちいいらしいって言われてやっちゃったわ…ほんで気持ちいいからやってたわ…」

「はえぇ…き、気持ちいいんですね…」

「もーめちゃくちゃ気持ちいい!自分でやるのとは違うし、頭ぷわーってなるし」

「あたま、ぷわーって…!?」

「ふ、二人とも!飯食いましょう、飯!」

「冷めちまうぞ、ほら。食え、喋ってねぇで食え!」

梅寿と竹彪は二人の会話を打ち切った。可愛い二人のピンクな話を冷静に聞いていられるはずがなかった。こんなところで元気になってしまったらどうするのか。竹彪と梅寿はさっさと食事を終えてお互い恋人の食事を手伝った。さっさと終わらせないと何を言い出すかわかったもんじゃない。聞きたい気もするが、これ以上この場でちょっとエッチな会話はやめていただきたかった。

食事を終えて、全員が連絡先を交換し、店を出た。

「彩葉さん、またいっぱいお話聞かせて下さい」

「おぉ!俺も、爽やかカップルの話いっぱい聞くかせてな~。タケ、今日はなんか健全なことするぞ。しない、させない、出さない」

「その発言がもう健全じゃねぇけどな」

「タケさん、今日は本当にありがとうございました」

梅寿は深々と頭を下げる。竹彪は梅寿に袋を差し出した。

「ウメ、これやる」

差し出されたド◯キの袋に入っていたのは避妊具とローションだった。サ◯ゼに入る前、竹彪は買い物に行くと姿を消していた。その時に買ってきたらしい。彩葉と楓に見えないよう、竹彪は梅寿に押し付ける。

「タ、タケさ…」

「男でも女でも最初は入んねーから絶対無理すんなよ。あとゴムつける練習しとけ。色々買っといたから合うやつ探せ」

「タケさぁん!」

「頑張れよ。じゃ、帰るか」

「あざぁっす!!」

梅寿は直角のお辞儀で竹彪に敬意を評した。こういったものは、どれがいいのかどれを買うべきなのか、調べはしたものの購入のハードルがかなり高かった。ほしかったあれやこれやが盛りだくさんにはいったド◯キの袋には梅寿の夢や希望が沢山詰まっていた。楓に見られないよう、梅寿は鞄に大事にしまった。

竹彪は別れを告げて歩きだす。しかし彩葉に腕を取られて止められた。

「だからユ〇クロ行くっつってんじゃん。お前が買ってくんだよ、女児用ブラジャー」

「ネットで買えよ…親御さんびっくりしちゃうだろ、こんなでかい男が選んでたら」

「だめだって今日買うんだよ、今日。お願い、今欲しいの。今なの、すっごく欲しいのぉっ」

「なんだよ、しょーがねぇな」

「しょーがねぇのはてめぇだよ!乗んなや!ウメと楓が見てんでしょーが!」

「いてぇな!え、ボケたの?わかりづれぇんだよ!」

彩葉が竹彪の腕に縋りついて欲しいを連呼していたら、竹彪は抱きついて彩葉の尻を揉んだ。すかさず彩葉は竹彪の頭を引っぱたいた。ボケ返してきたのかと思ったらそうでもなかったようだ。こんな所で本気で欲しがるわけがないことくらい判断つかないのか。彩葉は盛っておっぱじめそうな竹彪にゾッとした。

彩葉は梅寿の方を向く。

「ウメも行くか?見てやってくれよ、憧れのタケさんが女児用ブラジャーを吟味して購入する様を」

「きついっす」

「わかったから、女児用ブラジャーって言い方やめろ。ウメ、またな。できれば柔道辞めた理由の件はそれで水に流してくれ」

「おす!お疲れ様っす!」

竹彪が梅寿のカバンを指差すと、梅寿は笑顔で頷いて頭を下げた。梅寿は楓を促してさっさと駅に向かっていく。その足取りはかなり軽かった。早く帰りたいと、その足が物語っていた。竹彪は二人を見送りつつ、彩葉に連れられて駅ビルの中へ足を踏み入れた。

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