第27話

梅寿は彩葉に座ったまま頭を下げた。兄よりも真面目で実直な性格が態度から滲み出ていた。彩葉はまじまじと梅寿を見つめる。兄弟と言われると確かに似ている部分はあるものの、王子様の松寿に比べると、梅寿は野性味と男臭さが強い顔つきをしている。体格や顔つきも、どちらかといえば竹彪に近い。

「いえいえ、こちらこそ…良くできた弟さんだわ。で、楓は、柏木だっけ?お二人は、その、どんなご関係で?」

「はい、柏木、楓です。ウメちゃんとマツ兄ちゃんと、家が近くて小さい時からの友達です。あの、黒木さんは」

楓が答えると、彩葉は微妙な笑みを浮かべて一瞬とまった。なにか変なことを言ってしまっただろうかと不安に思っていると、彩葉はすぐに表情を変えて笑った。

「おぉっふ…そうかそうか、お友達か。そうそう、俺は黒木、な。よろしくぅ」

「黒木彩葉な。な、彩葉。彩葉ちゃんって呼んでやってくれ」

「彩葉さん!素敵なお名前っすね!」

「ねっ!よろしくお願いします、彩葉さん!」

楓から二人の関係を聞き出そうとした彩葉は失敗してしまった。どさくさにまぎれて名前を呼ぶ竹彪を殴ろうとしたが、梅寿と楓は目を輝かせて彩葉を見た。楓はぺこりと頭を下げている。褒めてくれるのは嬉しいが、彩葉はあまり下の名前で呼ばれたくなかった。女の子のようなこの名前が好きではなくて、なるべく隠して生きてきた。目を輝かせる二人に強く言えず、やんわりと拒否を表現してみる。

「い、いやいや、楓のほうがいいじゃん。可愛いし合ってるよ、もうほんと、可愛いの。見た目もそうだけど、女の子かと思ったもん。彩葉ってさ、女の子みたいで、俺にはあんまり合ってないんじゃないかなーって、ね。あんま好きじゃねーっつーか」

「そんなことないっすよ、彩葉さんも色白で可愛らしいじゃないっすか。俺最初、綺麗な女の人がいるなぁって思いましたもん」

「ん、んんっ?」

「お名前に合ってますよ、彩葉さん。めちゃくちゃ素敵です」

「んなぁああっ?!怒りずれぇ!天然?天然でやってる?マツの弟だわ。めっちゃ褒めてくれるわ、悪い気しねぇわ!こっわ!」

「怖いわーたらしこんでくるわ…自覚ねぇよ。兄貴よりタチ悪いぞ、コイツ」

彩葉に向けて梅寿はキラキラ笑顔を向けた。その笑顔に、彩葉は見覚えがあった。なんならさっき見た。兄の松寿にそっくりだった。女の子っぽいだの可愛いだのは彩葉にとっての特大の地雷だ。しかし梅寿が上手に褒めてくれるので、彩葉は悪い気はしなかった。華麗に地雷を踏み抜いていく梅寿に、なんならちょっとときめいてしまった。そして、とても自然な梅寿の言動に、彩葉は怖くなった。このまま褒められたら流れで抱かれてしまいそうだ。

梅寿はきょとん顔で彩葉と竹彪を見比べた。まったく自覚がないらしい。竹彪は思わぬ伏兵にぞっとした。

「すごいわ、兄弟ってすごいわ。もう、あんま言わないで、このままだと俺股開きそう。怖い」

「遺伝子を感じるな。木村家、恐ろしいわ」

「あの、ウメちゃんはマツ兄ちゃんと全然違います」

楓は梅寿に松寿の影と恐怖を感じている彩葉と竹彪に、ちょっと頬を膨らませて否定した。梅寿と松寿は全然違うのに、大好きな梅寿をあんなのと一緒にされては困る。彩葉は珍しく真面目な顔で楓を見た。

「気になってたんだけど、楓、マツのこと嫌いなん?あいつ悪いやつじゃないぞ?頭は悪いけど」

「お前に言われちゃおしまいだな」

「…俺も、気になってた。最近楓、兄ちゃんのこと嫌いすぎじゃないか?なんかされた?もしかして、俺の知らないとこでそういうことになったりならなかったりしちゃったんじゃ、したのか?!」

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