第26話

店についた4人は注文を終えてドリンクバーで乾杯していた。

「お疲れ様っした~かんぱーい」

彩葉の音頭でグラスを合わせる。先程と同じく彩葉竹彪、楓梅寿という組み合わせでテーブル席に向き合って座っていた。その中でも彩葉は楓と、竹彪は梅寿と向かい合っている。梅寿は目を輝かせて竹彪を見ていた。

「タケさんにまたお会いできるなんて思ってなかったっす。しかもこんな、飯食ってお話できるとか…」

「緊張するね、ウメちゃん」

梅寿はちょっと小さくなっている。楓はそんな梅寿をニコニコ笑って眺めていた。梅寿が嬉しそうで、楓も嬉しい。

そんな二人を彩葉と竹彪は目を細めて見ていた。

「なんだよこの二人、輝きすぎだろ。眩しいわ」

「眩しすぎて直視できねぇ。いいなぁ。あんな尽くしてくれる系の子…いいなぁ…」

「泣くなよ。いつかいいことあるって。つーかお前、なんで柔道辞めたんだよ。こんないかついファンがつくくらい強かったんだろ?強いの?コイツ」

竹彪は楓と彩葉を見比べて目頭を抑えた。彩葉は竹彪の肩を叩いて慰める。

彩葉は梅寿と楓に訪ねた。大学から知り合った彩葉と竹彪なので、彩葉は柔道をしていたことは聞いていたが、その頃の竹彪がどうだったのかをまったく知らない。成績も強さも聞いたことがなかった。梅寿と楓は二人何度も頷いた。

「めっちゃ強いっす。本当に、俺、一度も勝てなくて」

「ウメちゃんも、強いんですよ?今は道場で一番なんですけど、そんなウメちゃんが唯一勝てなかったのがタケさんなんです。大外刈りが得意で、いつも綺麗に技を決めて相手を投げ飛ばして…」

「へ~。まじで、なんで辞めたんだよ。怪我とか?…どうした、タケ」

楓がうっとり語っているのを、梅寿も頷きながら聞いている。竹彪は本当に強くて二人の憧れの存在だったらしい。彩葉が竹彪を見ると、竹彪は青い顔で黙っていた。

大学生活に専念したいとかそんな理由だろうと思っていた彩葉だが、竹彪の表情にそれだけでない何かがあるのではないだろうかと察した。しかし、気になるがつっこんで聞いていいものなのか。彩葉が迷っていると、竹彪は口を開いた。

「…男と取っ組み合いたくなくなったから。汗だくでムキムキの男と道着1枚で組み合うのはもうしんどい。きつい」

「言い方」

「いや、わかる。その顔はもうほんと、軽蔑するのもわかる。でもみんなが真剣にやってる中で、こんな理由で辞めたがってるやつが続けちゃ駄目だろ」

梅寿と楓は目を点にして竹彪を凝視していた。まさかこんな理由だとは思っていなかっただろう。彩葉は向かいに座る二人と竹彪を見比べる。まさかそんなクソみたいな理由で憧れの、最強のタケさんが柔道を辞めたなんて、それは二人ともショックだろう。きっと別の理由がある。なくても何か嘘でも二人を納得させてやってほしい。彩葉は竹彪の肩を抱いて叩いた。

「そーんなこといっちゃって。本当はなんか、あんだろ?別の理由が、な?言ってやれよタケさん。感動のあの、理由をよ」

「大外刈り得意っつーのも投げれば終わるからだから。死んでも寝技に持ってかれたくねぇからぶん投げてたらこの辺で最強になっただけだから。わかんだろ、こんなキラキラした目の二人前にして嘘つけねぇだろ」

「わかった。もう口閉じとけ、お前は。ごめんな、ちょっとタケさん疲れておかしくなっちゃってるみたい。許してやって。なぁ、ウメの名前、なんつーの?マツの弟でいいんだよな?あ、俺らはマツの、大学からの友達な」

彩葉は竹彪の肩を殴った。竹彪の目は真剣そのもので嘘をついているようには見えない。その真実に梅寿と楓の目は点のままだった。聞いてしまった手前、彩葉も居心地が悪い。彩葉は話題を変えようと梅寿に話を振った。

彩葉が梅寿の方を向くと、梅寿は姿勢を正して答える。

「あ、はい。木村梅寿です。松寿の、弟っす。兄がいつもお世話になってます」

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