続・みんなでわちゃわちゃ編
第25話
「終わった…こんなに魂削ると思わなかった…」
「飯食って帰るか」
話し合いが終わり、彩葉はふらふらと心ここになく歩く。その腕を取られて足を止めた。腕にしがみついているのはさっきまで向かいに座っていた楓だった。
「あっ、あのっ、ご飯、一緒に行きませんか?!」
楓は精一杯の大声で彩葉を誘った。改めて並んでみると、楓と彩葉はほとんど身長が変わらない。楓が同じ目線にある彩葉の顔を見ると、びっくりして目を丸くしていた。
さっきの話し合いでも思ったが、目が大きくて可愛らしい顔立ちの彩葉は女の子にしか見えない。口を開くとちょっとアレだが、黙っていれば正に美少女だった。散々女の子に間違われてきた楓だが、自分と似たような人間がいることに内心とても驚いて、そして嬉しかった。
「お?おぉ、行く行く、行くけど。ナンパ?俺ナンパされてる?」
「やったな、お前も一人前の女の子だ。ウメも来んだろ?どこ行く?」
「え、いんすか?!でも楓、どうしたんだ、急に…」
「ウメちゃん、タケさんとご飯食べられるよ、やったね!」
「!…おぉ、嬉しい、ありがとうな、楓」
楓と梅寿はお互い目を輝かせて微笑み合っている。楓は梅寿に竹彪とご飯を食べさせてあげようとしたらしい。微笑ましい二人に彩葉と竹彪は胸を抑えた。若い二人がキラッキラしていた。
「なにこの子たち、めっちゃ眩しい。何なのこのキラキラの空気」
「甘酸っぺぇの、キュンキュンするわ…あ、マツは?」
「行くに決まっ」
「駄目です」
その場にいた全員が、立ち去ろうとしていた看護師すら紅葉を見た。紅葉は今日、初めて松寿以外に聞こえるように声を発した。
「駄目です、木村さ…松寿さんは、私の家に帰ります」
紅葉は松寿の腕を引いて他の4人から引き離そうとする。松寿は突然の紅葉の行動に足を止めて抵抗した。このまま連れて行かれればきっと地獄が待っている。
「はぁ?!なんで、紅葉の家にっ…」
「今日のすべてを、家の者に説明してもらいます。あなたにはその責任があります」
「そうなんだ。じゃーなーマツ」
彩葉は元気に手を振って、さっくり松寿に背中を向けて楓と梅寿の方を向いた。どこで食べるー?と彩葉と楓は楽しそうに話し合っていた。似たような背格好の可愛い二人が楽しそうにお話している。できればそこに混ざりたい。松寿は彩葉の背中に手を伸ばす。
「待って待って、すごいあっさり別れるじゃん、引き止めてよ!紅葉も行こうよ、ね?」
紅葉と松寿はお互い引き合いながら一歩も動かない。楓は彩葉ごしに松寿を睨んだ。
「マツ兄ちゃん、またなにか問題を起こしてるんでしょ…佐々木さんに迷惑かけるようなことしちゃだめだよ」
「問題って…迷惑は、かけてるけど…」
楓はじっとりと松寿を睨んでいる。昔は梅寿と一緒に兄ちゃん兄ちゃんと懐いていたのに、どうしてこうなったのか。本当に反抗期の娘を持った父の心境だった。まったく思い当たる節のない松寿はしょんぼり言葉を失う。
紅葉は元気をなくしていく松寿の前に出て楓に向き合った。
「ご心配なく。私は、彼の、友達以上になるかもしれない存在なので、問題も迷惑もありません。黒木さんも、松寿さんをお気にせず」
「おぉ、おけおけ。また学校でな!やっぱサ〇ゼにしねぇ?ミラノ〇ドリア食いたい、チーズたっぷりで。タケは肉食っとけ。ほんで俺によこせ」
「しょうがねぇな」
「待ってって、はえぇって!切り替えはえぇんだって、俺も連れてってよぉ!」
楓は紅葉に驚いていたが、歩き出した彩葉と竹彪につられて行ってしまった。梅寿だけが立ち止まってスマホを見ている。助けて欲しい松寿が梅寿に視線を送ると、声をかけてきた。
「兄ちゃん、母ちゃん飲み会で晩飯ねぇって..今日どーすんの?」
「…わかんね、帰れねぇかも…」
「わかった。佐々木さん、兄ちゃんをよろしくお願いします」
梅寿はスマホをしまい、紅葉に一礼して歩き出した。
松寿は紅葉に引きずられるまま病院を後にした。夕飯を約束した4人は松寿を振り返ることなく去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます