第28話

彩葉は竹彪の脇をどついた。

「違う違う、落ち着いてウメちゃん!…あの、マツ兄ちゃん、女癖が悪くて…僕もウメちゃんもマツ兄ちゃんも高校が一緒なんですけど、入学してからウメちゃん、マツの弟だって色々噂されてて…女の先輩とか、マツとできないから弟でいいとか言ってきたりして…」

話しながら慌てる梅寿を楓はなだめる。少し迷ったが、楓は松寿を避けている理由を話すことにした。

「なにそれ、うらやま」

「黙っとけ」

「僕、悔しくて。ウメちゃんはそんな人じゃないのに、マツ兄ちゃんのせいで、ウメちゃんもヤリチンみたいに見られて…マツ兄ちゃんのせいだって思ったら、嫌で嫌で仕方なくなっちゃって」

「楓もヤリチンとか言うのか」

「そんな言葉知ってるんだな。ちょっとショックだ」

「そうだったのか…俺、そんなの気にしてないぞ?楓も気にすることないって」

「うん…わかってる。ウメちゃんがそんなこと気にする人じゃないって。でも、僕、マツ兄ちゃんのこと大好きだったから。だから余計に嫌なんだ。ごめんね、お兄ちゃんをこんな風に思われたら、やだよね」

楓は俯いた。楓の勝手な想いで兄弟を悪く言ってしまって、梅寿も気分が良くないだろう。それでも、話すのなら隠すことはできない本音だった。兄弟のいない楓は幼い頃から松寿を実の兄のように慕っていた。それが中学生の頃から女性に関する噂が不穏になり、同じ高校に上がってからはひどい噂をたくさん耳にした。二股に限らず三股四股、並行して何人もの女性と付き合っているとか妊娠させたとか複数人で行為をしたとか。すべてが真実だとは思わない。しかし実際数週間、下手をしたら数日で違う女性と一緒にいた松寿を見ている身としてはすべてが嘘とも思えない。火のない所に煙は立たない。そんな松寿のせいで、梅寿が被害を被っている。

楓は今まで梅寿には面と向かって言いづらかった。松寿を知る彩葉と竹彪がいるこの場を借りて本音を語った。

「まじで反抗期の娘さんじゃねぇか…しゃあねぇわ。そんなこと言われてるマツが悪いわ。でも最近マツ、女いなくね?合コンもしてねぇし。紅葉とはどうなん?あの二人はどうなの?」

「知らね。この前は、一人と真剣に向き合いたいみたいなこと言ってたけどな」

竹彪の言葉に、楓は顔を上げた。松寿がそんなことを口にするなんて、そんな相手ができたのだろうか。もしかしたら、その相手は紅葉かもしれない。紅葉本人が『友達以上になるかもしれない存在』と言っていた。大学に入って、松寿も変わったのかもしれない。

「兄ちゃんが、そんなこと…楓、俺の代わりに怒ってくれてたんだな。ありがとう。でも、本当に気にしてないから。兄ちゃんのことだから上手くやってるんだと思うし。噂が本当なら兄ちゃん10回は刺されてると思うんだよ。生きてるってことは、そこまでじゃないんだろ」

爽やかに笑う梅寿はさすが松寿の弟だった。あの兄を持って、色々と悟ってしまったのだろうか。肝も座っている。そして爽やかな笑顔は松寿に良く似ている。さすが兄弟。彩葉と竹彪は妙に感心してしまった。

「つーかさ、普通にウメはモテるんじゃね?先輩のマツが云々は言い訳っつーか…めっちゃ理解ある彼君じゃん?俺ですらわかるわ。ウメはモテ男ですわ。マツの噂してんのって、ウメの気ぃ引きたいだけなんじゃねぇの?」

「それな。天然たらしだしな。娘さん苦労するぞ、これは」

「へぇっ?!そ、そうなんでしょうか?」

「いやーもてないっすよ~兄ちゃんに比べたら全然!男も女も友達ばっかですから」

梅寿のモテの比較対象がそもそも規格外なのだが、彩葉も竹彪も黙っていた。笑う梅寿とは対象的に、楓はまた悶々と悩み始めてしまっている。松寿と比べて梅寿は自覚がないのでフォローできない。

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