第22話 完


「ありがとう、梅ちゃん。スッキリした」

「いや、ごめんな、変な聞き方になって…もうちょい聞き方あったよな」

「ううん。先生の話が聞けたし、良かったよ…女の人ってボクサーパンツ履くんだね」

「ちょっとエロいよな」

「ね」

楓と梅寿は小声で話し合い、クスクスと笑う。そんな姿を松寿は眺めていた。まさかあの二人がくっつくとは思わなかった。梅寿はともかく、楓が応じるとは夢にも思っていなかった。男に対して嫌な印象しかないはずの楓が男と付き合うなんて、今も信じ難い。しかし二人の発する空気は、恋人同士のそれだった。

彩葉は松寿が振られた話を覚えていないのか、楓が例の幼なじみだと、まったく気づいていないようだ。気づけばこの場でいじくり倒されていただろう。言葉は悪いが、彩葉が馬鹿で助かった。

左腕に紅葉の手が添えられて、松寿は紅葉を見た。

「どした?」

紅葉は首を横に振る。すりすりと腕を撫でられてくすぐったい。突然、紅葉はどうしたのだろうか。松寿は首を傾げた。

「何、何?つか、くすぐったいって」

へふっと変な息を出して松寿は笑ってしまった。くすぐってくる紅葉の手を掴む。途端に紅葉はうつむいて大人しくなってしまった。

梅寿と楓は相変わらずいちゃいちゃしている。

松寿は梅寿と楓の空気を振り払おうと、紅葉の手を握ったまま彩葉に声をかけた。

「しかし黒木、意外だな。黒木がタケの言う事聞くって」

「何が?あ、ブラの話?だってこいつしつけぇから…」

「そうそう。いつもならタケの言う事絶対聞かねぇじゃん。あ~あれか?服でこす」

『服で擦れて感じちゃうからか~?』とからかおうとして松寿は止まった。彩葉が真っ赤になって胸を隠したからだった。

「な、何?なんで…わかんの?」

松寿は察した。あまりにピンポイントに図星をついてしまったようだ。松寿は慌ててごまかした。

「あ…あ~、ね。なんかな~わかんないけど、たまには言う事聞いたれよ。な」

「あ、あぁ、うん、そうな、たまにはな、聞いたろうかなっつってな、うん」

「…なんだよお前ら。何二人で赤くなってんだよ」

「いや、暑いからね。な?黒木も暑いもんな?赤くもなるよそりゃ。いってぇよ紅葉!他には?誰か質問とかないのかな?!」

「あ、時間も時間なので、次の質問で最後で」

松寿が周りに声をかけると医師からも声が上がった。話の途中、松寿は紅葉に握った手の指を逆に折られた。彩葉にちょっかいをだして遊ぼうと思ったらとんでもない空気になってしまった。まだ竹彪の視線と逆ポキされた指が痛いが、竹彪と視線を合わせないように顔を背けた。視界に入った紅葉がそっと手を上げる。松寿は紅葉に耳を寄せる。

「みなさん、何回くらい性別が変わったのでしょうか」

松寿は紅葉の言葉を周りに伝えた。最後の最後で今日の会にふさわしい質問が出た気がする。医師を交えてブラジャーだのパンツだの、なんの時間だったのだろうか。

「え?俺、何回?」

「…10回だな」

「僕は、5回、だと思います」

竹彪がスマホを開いて確認し、楓も指折り数えて答えた。

「二人とも、女性になってからどちらの比率が高いのかしら」

「女っすね。生理が終わってからは男になった日数が長いっす」

「僕は女の子でいる時間の方が長いです。ここ3日は男の体に戻ってないです」

産婦人科医が問うと、竹彪と楓はスマホと記憶をたどって答えていた。当の彩葉は竹彪の隣ではぇーっと声を上げていた。何一つ記憶していないようだ。

「もしかしたら、生理が来るまでは女性である時間が多くなるのかもしれないわね…黒木さん、生理中、男性には戻らなかったのよね?」

「はぇ?あ、そうっすね、はい」

「柏木さんと佐々木さんも、そうなるんじゃないかしら。その時は病院に来てちょうだい、念のため診察と採血をして結果を残しておきましょう。あ、黒木さんもまた生理が来たら病院に来るのよ?彼氏さん、よろしくね」

産婦人科医は彩葉の性格を見抜いているらしかった。本人に釘を差した所で面倒くさがるか忘れて来院しないだろう。

「かっ、彼っ、?!」

「さて、これで今回の会は終わりにしたいと思いますが…時間が合えばまたこの機会を設けさせていただけたらと思います」

「最後に、性行為をする時はきちんと避妊すること。忘れないでね」

「では、今日はお時間をいただき、ありがとうございました」

医師が頭を下げ、二人の医師は立ち去っていった。彩葉は彼氏という言葉に反応したものの、スルーされてしまった。看護師が残り、扉を開けて退室を促す。それぞれ立ち上がって部屋を出た。

そんなこんなで、怒涛の対談会は終了した。






END

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