第12話 尿意(竹虎彩葉)




女の子になって喜んでいた矢先、早くも壁にぶち当たった。

彩葉はもじもじと足をすり合わせる。

「なんか、トイレしたい」

「行けばいいだろ」

「もっと興味持てよ、俺に!」

「怖っ、何キレてんだよ」

竹彪の顔面の真横に彩葉の拳が振り下ろされた。彩葉は床に座り、そばで竹彪が横たわってスマホをいじっていた。危うくスマホを顔面に落とすところだった竹彪は体を起こした。

「興味持ってよ~トイレ行きたいよぉ」

「情緒どうなってんだお前。だから行ってこいって」

彩葉が両手で顔を覆って泣き始めた。感情の落差が激しすぎる。かと思えば両手を外した彩葉は涙のひと粒もこぼれていなかった。

「女の子って、どうやってすんの?」

わかってはいたが、嘘泣きだった。しかし彩葉の顔は真剣そのもので、だいぶ切羽詰まっているようにみえる。さすがにまじめにに答えないと可哀想かと竹彪は少し考えてから答えた。

「座ってすんだろ」

「座った後は?力いれんの?抜くの?どこに?」

「知らねぇよそこまで。そこは男の時と変わんねぇだろ、多分」

「じゃあ出たあとは?待て待て、拭くのはわかんだよ。どう拭くの?俺の女体の教科書だろお前、教えてよぉ」

誰がお前の女体の教科書なのか。どこに力を入れるとか抜くとか、竹彪がそこまで知るはずがない。ないもののことを聞かれても困る。しかし彩葉は立てた膝をすり合わせて涙目で耐えている。早く解決してやらないとと思いつつ、竹彪の胸の奥で新しい扉が少しずつ開いていく。

「わかった。風呂場行こう。とりあえずシャワーでケツ洗え。出すとこ見れば拭き方もわかんだろ」

「半立ちで何言ってんのお前。俺がしてるとこ見たいだけだろうが!」

「ソンナコトナイヨォ」

「あーでかい声出したら余計したくなった、やだ、漏らすの嫌だ、もういい自分で調べる」

彩葉は竹彪のスマホで検索を始める。

「あっ、スマホ使うなよ、ずるいだろ!」

「ずるくはねぇだろ!女、おしっこする方法、ってこんなんで出…んのかい!」

『おトイレの仕方は、トイレに座ってするよ。ちっちが出たら、トイレットペーパーでフキフキ!フキフキの仕方は…』

「トイレ行ってくる!ありがとう幼児向けチャンネル!!」

彩葉は竹彪のスマホを持ったままトイレに駆け込んでいった。半立ちの竹彪は一人取り残された。そして気づいた。彩葉は竹彪のスマホを持っていった。スマホには見られたら困るものしか入っていない。

しばらくしてスッキリした顔の彩葉がリビングに入ってきた。

「スッッッキリ。もうちっちは完璧。ありがとう幼児向けチャンネル」

「…よかったな」

「もうね、和式のやり方もウ○コの仕方も見たから。トイレトレーニングは完璧よ。本当にありがとう、幼児向けチャンネル」

彩葉はスマホを拝んでから竹彪に差し出した。どうやら動画以外は見ていないらしい。ほっとして竹彪がスマホを受け取ると、画面に写真の一覧が並んでいた。竹彪はヒュッと息を呑んだ。

「そうそう、タケちゃん。なんで俺の肌色の多い写真がいっぱいあったのかな。あれってさ、お前とやり疲れて寝てる俺の写真だと思うんだよね、間違いなければ。なんであんなの撮ってたのかな。ん?まさかリベンジポルノとか考えてないよね?リベンジされる憶えはねーんだけど。なんとか言えや。あ?」

「…すいません。オカズにしてました」

竹彪は彩葉に胸ぐらを掴まれて凄まれた。竹彪は正直に白状する。

「こっわ!あんだけやっててまだ抜いてんのかよ!写真消しといたからな。二度とすんなよ」

竹彪が確認してみると彩葉コレクションは綺麗に消えていた。竹彪は思わず天を仰いだ。あの時やこの時の大切な思い出のコレクションは二度と戻ってこない。

悪いのは竹彪だ。黙って半裸の寝顔を撮るなんて卑怯だし消されても文句は言えない。仕方ない。仕方ないが、竹彪は泣きたかった。

「立ち直れねー…」

「つって半立ちかよ。トイレで抜いてこい。俺もいっぱい出たし、ちっちが」

ダッハッハと下品に笑う彩葉に竹彪はピンときた。

いっぱい出ちゃった彩葉。

行けそうな気がする。

「行ってくるわ」

「ほんで完立ちかい。どこに立つ要素あったよ…いってら」

彩葉が手をふる。竹彪はグッと親指を立てて前かがみでトイレに消えていった。




END

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