第8話


「トイレは個室に入るし、体育は、ジャージを着れば大丈夫かな」

楓が自分の胸を両手で抑える。梅寿はゴクリとつばを飲んだ。股間も気になるが、おっぱいはどうなっているのだろうか。今楓は制服のブレザーも着ていて見た目ではわからない。着替えの時にわかるほどに膨らんでいたらアウトだと思う。梅寿は、これは必要な確認事項だと自分に言い聞かせる。

「楓。ぶっちゃけその…胸、どうなってる?着替えの時、大丈夫そうか?」

「…ちょっと膨らんだかなってくらいだけど。ほら」

楓はシャツのボタンを開けて、中に着ていたTシャツの胸元を引っ張っる。ふっくらと膨らんだ胸がそこにはあった。

「うっ…薄ピンク」

「そこの色は関係ないでしょ!」

楓が両腕で隠してしまった。つい、楓のおっぱいに理性が飛んで口走ってしまった。しかし、つるぺたとまで言わないものの、中にTシャツを着ていればわからないのではないか?という程度の膨らみだった。

「学校、行っても大丈夫かな…」

楓は時計を見た。遅刻だが、今行けば3時間目の授業には余裕で間に合う。

「大丈夫だ。なんかあっても俺がなんとかするよ」

梅寿は楓を励まし、二人は家を出た。






「腹が痛くて遅刻しました。柏木は介抱してくれてました」

「そうかーまた痛むようなら保健室行けよー」

職員室で担任に伝えると、あっさり開放された。普段の生活態度のおかげだろう。教室に戻り、3時間目から授業に参加した。次の4時間目は危惧していた体育だ。楓が着替えのためにトイレに向かう。着替えを終えた梅寿はトイレの前で楓を待った。

以前は楓も教室で着替えていたが、クラスメイトが食い入るように楓を見ていた。梅寿は楓にどこかで隠れて着替えるよう進言しつつ、ガン見していたクラスメイトにはきちんと制裁を与えておいた。具体的に何をしたかはちょっと言えないが、とにかく2度と楓を視界に入れないように釘をぶっ刺しておいた。それ以来、楓はトイレで着替えるようにしている。体操着への着替え自体は滞りなく進み、他の人間に怪しまれることなく梅寿と楓は校庭に出た。

今日の授業はマラソンだ。学校の外を3周すれば終わる。教師の目も少ないのでみんなまったり走ったり喋ったりしながら過ごしていた。9月も半ばだが、走ると暑い。他の生徒がジャージを脱ぐ中、楓は顔を紅くして必死に走っていた。楓は運動が得意ではない。脱げないジャージが余計に楓の体力を奪っているようだ。

「大丈夫か?」

楓のペースに合わせていた梅寿は声をかける。楓はフェンスにもたれて立ち止まってしまった。

「だ、大丈夫。梅ちゃ、先行って」

楓は荒い呼吸を繰り返している。体調の悪そうな楓を置いてはいけない。もしかしたら熱中症かもしれない。梅寿は楓に背中を向けてしゃがみこんだ。

「おぶってやるから、保健室行こう」

「でも」

「女の子になって、体力が落ちてるかもしれないだろ」

梅寿は周りを気にしてから楓に伝えた。男の時以上に楓の体は気をつけてあげないといけないかもしれない。少し間を置いて、楓がぴったりと体をくっつけてきた。

「ごめんね、梅ちゃん」

耳元に楓の呼吸を感じる。

「気にすんな。言ったろ、俺がなんとかするって」

梅寿は前かがみになりながら学校への道を歩いた。楓は梅寿に比べるとだいぶ体が小さい。おんぶをしたところで柔道で鍛えている梅寿にはウェイトにもならない。

梅寿は背中に、楓の控えめな胸の膨らみを感じていた。

梅寿はいつもよりもゆっくり歩いた。ゆっくりとしか歩けなかった。

(おっ…ぱーーーーーい)

梅寿の頭の中はおっぱいでいっぱいだった。

(待って、おっぱいあたってるんですけどぷよぷよなんですけどぉ。おっぱいってこんなに柔らかいの?なんでこんなに優しい感触なの?待って待ってもうおかしくなっちゃう。俺、変になっちゃうよぉっ)

股間がギンギンに痛む。背中にささやかなおっぱいを感じるが、股間のぷにぷには感じられない。やはり楓は女の子になってしまっていた。

「梅ちゃん、重くない?大丈夫?」

「おう。全然平気だ。なんならスキップできるぞ。スキッ…」

ずり落ちそうになる楓をお尻を支えて引き上げる。

(ぷりぷりお尻ぷりっっっぷり…好きぃいっ!)

梅寿の頭の中にお尻が攻め込んできた。おっぱいとお尻で脳内が満たされていく。

今日こそ告白しようと、もう何年も想い続けていた同性の楓の体が異性のそれになってしまった。梅寿は密着している今、目で見る以上に楓の変化を感じた。

もしも楓が女の子だったら。

もう何度考えたかわからない妄想だった。楓が女の子ならなんの気兼ねもなく告白ができただろう。男同士という、高くて厚い壁さえなければ、と梅寿は何度も何度も考えた。

そんな楓が女の子になってしまった。

梅寿は自分が夢を見ているかもしれない。今も夢の中なんじゃないかと思った。そのくらい現実味がないが、梅寿は幸せだった。夢なら少しでもこの感触を味わおう、絶対忘れないようにしようと梅寿は決意した。

控えめだがふわふわのおっぱいとプリプリのお尻を堪能しながら梅寿は発射しないように必死に歩いた。

「ウメ、何やってんの~…って顔怖っ!あ、柏木君?大丈夫?!」

「あ?」

声をかけてきたのはクラスメイトの女子だ。気づけば校門の近くまで来ていた。

「…梅ちゃん、あとは僕一人で行けるから。ありが」

「いや、大丈夫だ。おっぱ…おぶってくから。大丈夫だから、おぶってくだけだから」

「え?降りるよ。歩けるから、梅ちゃん、聞いてる?」

楓は梅寿から降りようと体を離した。のを、すかさず梅寿は太ももごとお尻をホールドして離さなかった。楓の言葉を無視して梅寿は進んでいく。

「ちょっと、ウメ~?」

「たぶん熱中症だ。先生に言っといてくれ」

梅寿は女子に大声で返して保健室を目指した。諦めたのか楓は梅寿に体を預ける。おっぱいが帰ってきた。

「一人で、行けるのに…」

楓の呟きは、梅寿の耳には入らなかった。


保健室に入ると、先生が楓を支えて椅子に座らせてくれた。

「あらあら顔が真っ赤ねぇ。保冷剤で冷やして、ジャージも脱ぎなさい。これ、経口補水液ね、飲みなさい…て、あなたも顔が真っ赤じゃないの!二人共休んでなさい、職員室から追加の保冷剤持ってくるから!」 

保健の先生は梅寿を見て青ざめていた。余程顔が赤いようだ。先生はバタバタと保健室を出て行った。梅寿は楓の隣に腰をかける。

周りを伺って楓はジャージを脱いだ。やはり胸元が少しふっくらしている。意識して見るから気づく程度だが、梅寿は釘付けになった。

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