たらい回し
ツヨシ
第1話
アパートの部屋に帰ると、郵便受けになにかはいっていた。
見ればクローゼットを正面からとらえた写真だ。
おまけにクローゼットは開いており、中に青白い女の顔が浮かんでいるのだ。
顔だけで、身体はなかった。
――なんだこりゃあ。
俺は写真を見直した。
クローゼットは俺の部屋にある者と同じだ。
というか、このアパートにはみな同じクロ―ゼットがあるはずなのだ。
そしてクローゼットの隣に、スールケースの一部と思われるものが写っている。
しかし俺は、こんなスーツケースは持っていない。
クローゼットの中にある衣類もまるで違う。
そうなるとこの写真はこのアパートのどこかの部屋を写したものと言うことになる。
問題は、誰が何のためにこんな写真を俺の部屋の郵便受けに入れたかだ。
そしてそれ以上に問題なのは、写真に写っている、この首だけの女だ。
俺はしばらく写真を眺めていたが、ふと気になって、クローゼットを開けてみた。
するとそこにいた。
クローゼットの中に写真と同じ青白い顔の女の首が浮かんでいたのだ。
そして俺を見た。
――うわっ!
俺は慌てて部屋を飛び出した。
――いったいこれは……。
俺は考えた。
動揺して回らない頭で考えて考えた。
考えた末に俺はその写真を隣の部屋の郵便受けに突っ込んだ。
そして部屋に戻ると、クローゼットの中に女の首はなかった。
――そうなると……。
隣の部屋には若い女が住んでいる。
そして今日のような休みの日には、だいたい部屋にこもっているのだ。
俺は待った。
ただじっと。
そして予想通りのことが起こった。
「ぎゃあああーーーーっ」
かん高い悲鳴とともに、隣の部屋の女が勢いよくドアを開けて外に飛び出す音が聞こえた。
それから十日ほど経った頃、気づけば俺の部屋の郵便受けに、あの写真が入っていた。
この十日間に、どれだけの部屋をまわってきたのかはわからないが、俺の郵便受けに再び入れられたのだ。
俺はそれをそのまま、二つ隣の部屋の郵便受けに押し込んだ。
終
たらい回し ツヨシ @kunkunkonkon
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