2 三途の川について



 さて、あの世へ渡る際必ず通るお馴染み三途の川。川の大きさは予想より大きく、さすがに中国の黄河とまではいかないが日本の利根川よりは大きい。


 この川を木製の橋で渡るか、船で渡るか、浅瀬を歩いて渡るかするが、橋は数百年前に老朽化のため、現在は現世で橋の研究や建設をしていた者たちにより、取り壊して立派な銅製の大橋が建てられたが、鉄筋コンクリートなどの資材や加工工場があの世には少なく、資源不足が鋪装の足枷となっており、現在の課題の一つとなっている。


 このようなことはあの世全体の問題で、せっかく現世で活躍した発明家や技術者や科学者たちが次々と来ているのにも関わらず、現世の地球よりも材料が少ない事が問題視されている。


 なお、あの世を創られた頃にはまさかそのようなものが現世にあるとは知らなかったようであり、鬼や閻魔様どころか創造神でさえも困惑していると聞く。


 やはり、現世の宇宙の存在や科学の発展と数千年前の宗教から生まれた場所では大きく違いが出てしまっているらしいが、不思議なことに不定期に環境がアップデートされているとのことである。


 これに関しては鬼たちもいつ起こるのか、また、誰がそんなことをやっているのか皆目見当がつかず、その件について観察・研究をするグループが発足され、人間と鬼達が常に観測、記録できる観測台が地獄の至るところに設置された。鬼達も自分が何百年何千年もいるのにそのような事に気が付かなかったという具合で、いつの間にか人間達と共同研究をし始めるようになった。


 また、これについては旧・閻魔庁、現・閻魔省や閻魔様は、

「地獄は罪を償うところであって、罪人達と協力すべきではない」

などと文句を言っていたが、言葉の上手い生前は政治家であった男が、

「地獄の不便さをよく知っているのはあなたがたでしょう。それに我々は自分達の為にこのようなことをしているわけではありません。むしろ、あなたがた鬼達が便利になるように支えているのです。また、これは罪を償う為に劣悪な地獄の環境を変えようとしていることでありまして、この意見に賛同した鬼達と我々罪人である人間との協力……なんと素晴らしいことではありませんか。更に地獄では通貨というものがありません。なので賃金など発生するわけもなく、ただひたすらにボランティアとして様々な事業に自ら取り組んでいるのです。考えようによってはこれも罪人達への罰とも考えられるでしょう」

 と、鬼側に反論の余地もなく、丸め込まれてしまったそうである。


 数百年から数千年生きている鬼達に、今まで何をしてきたのかと反省する良い機会となったであろう。


 また、三途の川を漕ぐ舟にも大きな変化があった。なにせ木製の多くて6人〜8人ほどが乗れるかどうかのオンボロ舟である。


 舟は全部で30隻あったが、往復で10時間以上かかるその速度の遅さのせいで、三途の川の港は大変に混雑しており、繁忙期には1ヶ月程経ってようやく乗り込めたという状態であった。


 そこも改革され、現在ではおおよそ600人〜1000人が乗れる大型貨客船が登場した。燃料は地獄のそこら中にある石炭とマグマのようなものであり、これは海で使うものなのでは……? と思われたが、意外にも三途の川は広く、そして深く、今までそれほど大きな事故を起こしたことはないという。


 三途の川で座礁事故や転覆事故、沈没事故など起きてはたまったものではない。実際起きてしまったらどうなのか少し気になるところではあるが、水深調査や様々な検討を重ねた結果の大型貨客船なので、そう簡単には大事故は起きないであろう。


 また、これに対して三途の川の舟の船頭達は猛反発を起こし、デモやストライキが何度もあったが、実際に完成した大型貨客船を見ると態度を変え、大型貨客船の乗組員として再就職が決まり、人間から操縦方法やメンテナンスについて学んだようである。鬼達の学ぶ姿勢には感心するばかりだ。

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