報復

@misaki21

第1話 死んだほうがいい人間

 この手にあるナイフは、既に二人の血を啜っている。

 一人は元クラスメイトの男性。私はこいつのお陰で高校生活三年間を台無しにされた、当然の報いだ。

 一人は名前も知らないOL。クラスメイトを襲った際に目撃され、通報しようとしたのでこちらも当然だ。

 全く、世の中には「死んだほうがいい人間」が多すぎる。常々そう思う。

 にもかかわらず「生きていたほうがいい人間」が酷い目に合う、不条理極まりない。

 世界のどこかで今でも誰かが死んでいる、そんなことは知っている。だが、そういう問題ではないのだ。

 所詮人間は手の届く範囲でしか活動できないものなのだし、それを脅かす存在がいれば排除にかかるのは、もう当たり前と言える。

 そしてそれを誰かがやらなければ、また「生きていたほうがいい人間」に危害が及ぶ。なので私はナイフを握り、部屋を出る。

 夕暮れ時の繁華街。

 何の目的意識もなく単にたむろしているだけの学生風男子連中を見掛けた。よくよく見ると二人組の女性に声をかけている。

 ああ、あいつらは「死んだほうがいい人間」だ。

 私はナイフを腰に構えて駆け出し、一人の男子学生の背中にそれを突き刺す。一拍置いて、血が吹き出し、お互いが真っ赤になる。

 男子学生が悲鳴を挙げ、残りの学生のうち一人がこちらに向かって来た、ので刺したナイフを抜いて、向かって来た学生の腹部に刺す。この刃渡りなら致命傷な筈だ、二人とも。

 遅れて女性の一人が悲鳴を挙げたので、更に一撃。

 まるで時代劇の殺陣のような振る舞いだ。

 胸元を刺した女性からの悲鳴は止まり、代わりに血が吹き出した。

 次は? 周囲を見渡すが全員が腰を抜かして、或いは茫然としていた。

 今日はここまで、と私は足早に現場を去る。血だらけのナイフを拭いつつ。繁華街の角を曲がった辺りでパトカーのサイレンらしきが聞こえたが、特に気にしなかった。

 翌日。

 熟睡を邪魔する玄関チャイムに多少イラつきつつ扉を開けると、どすん、と腹部に何かが当たった。

 いや、違う……刺さっていた。

「お前は「死んだほうがいい人間」だ!」

 その顔に見覚えはなかったが、とにかく刺された箇所が痛む。相手は刃物を抜いて、うつ伏せになった私の背中にそれを再び突き立てた。

 ……おかしい。

 私は「生きていたほうがいい人間」の筈だ。その証拠にこれまで「死んだほうがいい人間」を幾人も始末してきたではないか。

 背中を何度も刺され、薄れゆく意識の中で、私は「どこで間違えたのか」を必死に考えようとして……絶命した。


――おわり

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